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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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光球

 焼き上がった魚を2人で食べ始める。白い湯気に乗って焼けた魚の香りが鼻をくすぐる。食欲を刺激され、匂いに誘われるようにして魚の腹に齧り付いた。肉が柔らかく、残った内臓のほのかな苦みがアクセントとなり美味しい。惜しむらくはここに塩が無いことだが、塩のような高価ものをおいそれと持ってくるわけにいかない。

 カナメの食べている様子を見てエイミィも意を決したように食べ始める。このようにして魚を食べたことがなかったようだ。恐る恐る腹に齧り付いた瞬間、目を見開いて無言で食べ続けた。

 程なくして2人とも食べ終わるが、目の前にはまだ1匹余っている。エイミィを見るとその目線は魚に固定されている。余程気に入ったようだ。


「魚、食べるか?」

「いいんですか?」

「そもそもお前が釣った魚だろ?気にするな。食べたきゃ自分で釣ればいいんだから。」

「カナメさん、釣れますか?」

「うるせぇ。いつもは入れ食いなんだよ。今日は調子が悪いだけだ。」

「説得力無いですねぇ。」


 エイミィが軽やかに笑っている。こうやって冗談を言えるようになって良かった。

 魚を食べ終わったところで本題に戻る。


「で、エイミィの今使ってる武器ってなんだ?」

「そうでした。武器の話でしたね。今は剣を使ってます。ギルドの訓練場で色んな武器の使い方を教えて貰ったんですが、どれもピンとこなくて。だから基本になる剣にしてます。」

「なるほど、そういうことか。今朝、剣を持って歩いてる姿がぎこちなかったのは色々習いすぎて動き方が分からなくなったってとこか。となると、これからはその辺も意識して動く必要があるな。⋯⋯ちょっと素振りしてもらえるか?」

「え?えぇ、分かりました。」


 実際に振ってみろと言われて困惑しているようだったが、指示どおり素振りを始めた。だが、ぎこちない。上から下へ振り下ろすだけなのに剣筋がブレている。剣を振り下ろした後もしっかり止められていない。


「う〜ん⋯⋯。剣の素振りは普段からやってるか?」

「いえ、特にやっていません。ギルドの訓練ではやっていなかったので。もしかして、そういうものではないんですか?」

「ギルドの教官は何をやってるんだよ~。」


 思わず頭を抱えてしまった。


「剣の訓練は素振りと型が基本。⋯⋯型は分かるか?」

「はい。それは分かります。憶えてないですが。」

「良かった。ギルドでもそれはやっていたんだな。素振りは基本すぎて飛ばされたのかな?ただ、今の素振りを見た限り、型をやっても上手くいかないじゃないか?」

「凄い!なんで分かったんですか!?」

「いや、その動きだとたぶんすぐ疲れるか次の動きに移れなくなるだろうなと思って。」

「そうなんです。だから型を最後までやったことがないんです。」

「やっぱりかぁ。たぶんだけど、エイミィの筋力が足りてない。剣に振り回されてる。」

「たしかに、剣は重いです。でも、ギルドの訓練所でやってる他の武器の方が重くて扱えませんでした。」

「そうだろうな。でも軽い武器が無いわけではない。威力が低くて使う人が少ないせいでギルドで扱っていないだけだ。なんとかなる。そこはまた継続して模索していこう。ただ、それはそれとして剣の素振りは継続して行うように。」

「分かりました。」

「あ、素振りは必ず木剣でやってくれ。真剣を抜いてやったら騒ぎになる。じゃあ次、その胸当てについて。何をしたらそんなに傷がつく。」


 エイミィの胸当ては複数の打痕があり、革が捲れたり破れたりしている。不穏なものを感じざるを得ない。


「これですか?これはギルドの訓練でついた傷です。ギルドの訓練では自分の防具を使うんです。それで模擬戦をやった時に何度も打ち込まれてしまって⋯⋯。」

「なるほど。変な理由じゃなくて良かった。それにしても、防具は貸し出してないんだな。」

「そうなんです。だから全然使ってないのにボロボロになっちゃって。」

「これだといざという時に役に立たないかもしれないからなぁ。買い替えるしかないだろうな。」

「そうですよね。でも、今は買い替えるほどお金に余裕も無いですし。」

「そうか。でもさすがに資金面の援助までするわけにいかないから、これから受ける依頼で貯めていくようにしてくれ。」

「はい。もちろんです。」


 それにしても、ギルドの剣術訓練、剣術だけではないかもしれないが指導体制が怪しいな。やはり道場とは違って傭兵が指導するから内容が雑になってしまうのだろうか。自分で勧めただけに若干の罪悪感を感じた。


「さて、次はさっき言っていた魔法の件だな。魔力の可視化はできるんだったよな。ちょっと見せてみて。」

「分かりました。」


 エイミィは頷くと手に魔力を纏わせた。非常にスムーズだ。とても魔法の使えない人間とは思えない。熟練の魔法使いのようだ。


「魔力が見えるようになるのが速いな。もしかしてずっとやってるのか?」

「はい。初めて見えるようになってからずっとですね。」

「⋯⋯凄いな。毎日毎日、使えるようになるかも分からない魔法のためにそこまで努力するなんて。俺にはできない。」

「でも、最近は落ち込んでいたので訓練自体はできてないんです。お金の節約のために使うくらいで。」

「節約のため?」

「そうです。ほら、魔力って見えるようにすると薄っすら光るじゃないですか。だから暗くなってきたら魔力が見えるようにしているんです。蝋燭や油の代わりに。」

「考えたことも無かったな、そんな方法。だって、それをやると手だけが明るくなって何かしようと思って手元を見ると眩しくてたまらないからな。」

「だから魔力を浮かべて使うんです。」

「いや、そんなのできるわけないだろ。魔力は自由に動かしたり形を変えたりするのはできないんだぞ。魔法初心者みたいなこと言うなよ。」

「え?カナメさん、できないんですか?便利ですよ。」

「⋯⋯ん?ちょっと待て。できるのか?そんなこと。」

「はい。こんな風に。」


 そう言うとエイミィの手にある魔力が形を変え始める。掌の上で盛り上がった魔力は、そのまま伸び続け、最終的には球状になって宙に浮かんでいた。それを次々と、大小様々な球体を浮かべ始めた。


「暗い部屋の中でこうやってたくさん浮かべると綺麗なんですよねぇ。その時だけは嫌なことも忘れられちゃいます。」

「んな⋯⋯な⋯⋯!」


 かつてカミュから魔法について教えられた時、魔法発動時以外に魔力は伸ばせないものだと聞いた。自由に動かせないとも聞いた。だが、今目の前で起こっている現象はなんだ。魔力が人の体を離れて浮いている。そんなことが可能なのか?いや、可能だから目の前でこんなことが起こっている。

 知りたい。どうやってこんなことをやっているのかを知りたい。衝動を抑えきれずエイミィに詰め寄ってしまった。


「エイミィ!これ、どうやって?どうやってやってるんだ!?」

「え?ちょっ、カナメさん?」

「あ、ご、ごめん。初めて見る魔法だったから興奮しすぎた。⋯⋯これは魔法でいいんだよね?」

「いえ、魔力ですよ。魔法は使えないって言ったじゃないですか。」

「これが魔力?だとすると、きみが今やったことは、師匠から絶対にできないと言われたことだ。たぶん他の魔法使いにはできないと思う。」

「そうなんですか?」

「あぁ。たぶん皆、魔力は伸ばせないし動かせないって教えられているはずだ。俺もまだ魔法使いとはほとんど会ってないから詳しくは分からないけど、こんなに自由に魔力を扱う人はいないんじゃないか?」

「⋯⋯もしかして、凄いですか?」

「うん。とんでもなく凄い。隠れた才能だよ。」

「本当に?」

「本当に。」

「ありがとうございます!やっと自分の特技が見つかりました!」

「良かったな。これでちょっとは自信がついたんじゃないか?」

「はい!」

「⋯⋯ちょっと確認したいことがあるからこの魔力、触ってもいいか?」

「いいですよ。」


 カナメは宙に浮いている魔力の球に触れてみると、魔力に触れた指先が少しだけピリッとして魔力の球が消えた。


「やっぱりそうか。」

「どうしたんですか?」

「答える前にもう1つ確認だ。この魔力たちは消す時はいつもどうしてる?」

「消すときですか?いつもこうやって掌の上に戻してますよ。」


 宙に浮いている魔力を器用に操作して掌に戻して、掌の魔力と融合させていく。


「あれ?いつもより魔力が減ってる感じがする。」

「それは俺が1つ潰したからだろうな。」

「どういうことですか?」

「これには2つ欠点がある。1つは魔力効率。魔力をそのまま飛ばすから消費量が普通の魔法より格段に多い。2つ目は攻撃能力が無い。触るとすぐに壊れてしまううえに、魔力に触れてもダメージが無い。一応、少しだけピリッとしたから全く影響が無いというわけではないけど、たぶん殺傷能力が無い。だから、現状では蝋燭の代わりくらいにしかなり得ないということになる。」

「そんな⋯⋯せっかく見つけた特技なのに。」

「なに、焦ることはない。とにかく今はそれを有効活用する方法を考えよう。」

「はい!よろしくお願いします!」

「よし。それじゃ、帰るか。帰ったらそのままギルドへ行って依頼を探してみよう。」


 焚き火に魔法で作った水をかけ消火してその場を後にした。

 街に戻る途中の道は、行きの時とは違いエイミィの表情が明るい。時折、魔力を浮かせたり戻したりして遊んでいる。これが特別な力だと知って余程嬉しかったようだ。

 今日はひょんなことからエイミィを街の外に連れ出して話をすることになったが、立ち直らせることができて良かった。思いのほか有意義な1日になったのではないだろうか。ただ、パーティーを組まなかったとはいえ、これからしばらくは面倒な日々が続きそうだ。

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