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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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釣り

 東門を出てから川の方へ向かう。特に整備されているわけではないが、大きな石や段差もなく容易に川の近くまで行くことができる。ここから上流へ行けば小さな支流があるので、まずはそこを目指す。

 エイミィは無言のままついてきている。以前ゴブリン討伐で同行した時にはもっと話してきていたので、ここまで静かだと妙に緊張してくる。とりあえず他愛もない話を振ってみることにする。


「そういえば、エイミィってなんで傭兵になったんだ?今まで武器を持ったこともなかったんだろ?」

「理由ですか?昔、町に来た傭兵の方がカッコよくて、私もあんな風になりたいなって思ったんです。でも、武器を持つことを親が許してくれなかったんです。だから武器を触った事はありませんでした。」

「なるほどな。なんかその気持ち分かるよ。俺も村を盗賊に襲われた時に傭兵に助けられたからな。剣と魔法で盗賊を蹴散らしたのを見た時は本当に驚いた。エイミィもそんな感じなのか?」

「いえ、さすがに盗賊に襲われたりはしてないです。カナメさん、結構大変な経験をされてるんですね。」

「まぁな。ちなみに、今のは師匠と初めて会った時の状況だ。その日の夜に弟子入した。」

「その日の夜に?凄い行動力ですね。」

「いや、たまたま師匠と父さんが仲良くてね。その日の夜に家に来たから魔法の使い方を教えて貰ったんだ。」

「凄いめぐり合わせですね。それで、しばらく一緒に修行してたんですか?」

「いや、2週間ちょっとだけ。師匠が村を離れる時に子どもは危険だからって置いていかれた。」

「2週間ですか!?魔法の訓練を2週間しかしてないんですか!?それであんなに魔法を使えるなんて⋯⋯。」

「たしかに一緒に訓練をしたのは2週間くらいだけど、その後も定期的に手紙を貰って指導してもらっていたし、狩りの時とかに使って練習もしていたからね。さすがに2週間では使い物にならない魔法しか使えなかったよ。」

「さすがにそうですよね。でも一緒に訓練してる間に魔法は使えるようになっていたんですね。」

「まぁな。大変だったけど。」

「凄いですよね。私なんか全然ダメなのに。」

「そういえば魔法は両系統とも使えないって言ってたな。訓練でもしたことあるのか?」

「はい。町の教会で魔法を習ってる子に教えてもらいました。でも、魔力を見えるようにすることはできるのに硬くすることも物を理解することもできないんです。」

「それはまた⋯⋯。それにしても魔力が見えるようになれば普通はどっちか使えるはずなんだけどな。極稀にそんな人がいるって師匠から聞いたことがあったけど、エイミィがそのタイプだったのか。とりあえずあとで見せてくれないか。魔法使いに教わったことが無いなら力になれるかもしれない。」

「え!?ありがとうございます!」

「でも教えられはしないぞ。俺も師匠に教えてもらってはいるけど、人に教えられるほど知らないからな。最近はクインさんに変な魔法使い扱いされるし。」

「それでも嬉しいです!」

「そうか?あんまり期待しないでくれよ。」


 よし。エイミィの顔に笑顔が戻った。やっぱりこの子はこうじゃないと。さっきまでのは卑屈すぎたからな。

 身の上話をしながら川沿いに歩くこと30分。2人は川の支流に着いた。寒くなってきているのもあって周囲に人はいない。川の流れる音と自分たちの足音だけが聞こえる。

 とりあえずその辺の木立の中から都合の良い木の枝を拾ってきて、街から持ってきた糸を結びつける。最後は魔法で作った石の釣り針を付けたら釣り竿の完成だ。

 村にいた時はたまにこうやって釣りをしていた。最初のうちは針の強度が弱くて苦労したが、今では何の問題もなく使える。難点は時間が経つと自動的に消えてしまうことだが、これは時間管理をしていればなんとかなるので大きな問題ではない。それに、魔法で作った針ならば釣った後に魔法を解除するだけでいいので針から外す手間が省けるから効率的だ。

 川の水温は少し低くなっているため魚はあまり活発に動いてはいない。釣れそうな気はしないが、釣れなくてもいい。エイミィの気分転換なのだから。とりあえずその辺にいる虫を捕まえて釣り餌にする。川岸から釣り針を投げて水に落とす。これを何回か続けているとエイミィの釣り竿に当たりが来た。なんとか釣り上げたが、エイミィは魚を触ったことが無いらしい。釣った魚を触れずオロオロとしていたので、代わりに魚を捕まえて即席の生簀に入れた。


「見てくださいカナメさん!また釣れました!」

「凄いじゃないかエイミィ。初めての釣りなのに、もう3匹目じゃないか。」

「いえいえ、これもカナメさんの指導のおかげです!」

「いや、俺なんか道具を作っただけだよ。実際、俺は釣れてないし。村で釣りしていたのにな。」


 エイミィの笑顔が弾けている。どうやら気分転換は成功しているようだ。これなら色々話を聞けるかもしれない。


「それじゃ、そろそろ昼でも食うか。」

「え?お昼ですか?持ってきてないですよ。」

「何言ってるんだ。目の前にあるだろ?」

「あ、魚ですか!でもどうするんです?生で食べるんですか?」

「さすがに生じゃ食べないよ。焼くんだよ。」

「え"⋯⋯。今から火を起こすんですか!?」

「あぁ。待ってろ。すぐやってやる。」


 そう言うとカナメはその辺から持ってきた木片を使って慣れた手つきで火を起こし始める。


「へぇ~⋯⋯カナメさんってなんでもできるんですね。」

「そんなことはないさ。釣りも火起こしも田舎育ちだからできるだけだよ。⋯⋯釣りはエイミィに負けてるけどな。でも、分かっただろ?別にお前は何もできないわけじゃない。単に運が悪かっただけだ。技術が追いつかないのは仕方ないけど、それは努力を続けていれば克服できるものだ。それに運さえあれば熟練者にも勝てるかもしれない。釣り熟練者の俺が言うんだから間違い無い。」

「それは⋯⋯そうですけど。」

「何か行き詰まって自分で解決できそうになかったら、1人で悩んでないで誰かを頼れ。やりたくない仕事は受けるな。苦手な仕事を克服したいなら誰か仲のいいやつと一緒に受けてフォローしてもらえ。それだけで気持ちはずっと楽になるはずだ。」


 腸を抜いた魚に木を刺しながらエイミィに話す。表情は見えないが、言葉が返ってこないことを考えると様々なことを考えているのだろう。これで解決できればいいんだけどな。

 焚き火の横の地面に魚を刺して炙り始めたところで振り返ってエイミィを見る。なんだか申し訳なさそうにしている。


「あの〜⋯⋯。私、仲のいい人がいません。相談できる人も。」

「⋯⋯は?」

「いえ、だから、いないんです。頼れる人が。」

「え?もう何度も仕事してるのに?」

「はい。毎回ミスするので、誰とも仲良くなれませんでした。」

「マジかよ⋯⋯。薄情すぎるだろ皆。」

「どうすればいいでしょう⋯⋯。」


 あぁ、また元気がなくなってしまった。しかしそうなると対処法が分からない。いや、1つだけ思いつく。だがそれは無理だ。こちらの負担が大きすぎる。やめろ、モジモジしながらチラチラとこっちを見るな。


「一応断っておくが、俺はパーティーは組まないぞ。クインさんからのお誘いを断っているのにお前と組んだら矛盾するからな。」

「そんなぁ~。今頼れる人なんてカナメさんくらいしかいないのに。」

「研修期間中に指導役をしていた人に頼んでみたらいいじゃないか。俺みたいに世話を焼いてくれるかもしれないぞ。」

「ごめんなさい。あまり印象に残ってなくて憶えてないんです。」

「何考えんだお前は⋯⋯。」


 八方塞がりじゃないか。これは腹を括るしかないのか?


「⋯⋯〜〜〜っ!あ〜くそ、俺がやるしかないか。」

「なんか⋯⋯ごめんなさい。」

「いや、いい。気にするな。ただ、パーティーは組まない。週に何回か依頼に同行するだけだ。他の仕事を受ける受けないは好きにしてくれ。」


 この瞬間、エイミィが満面の笑顔になり、今日最大音量の声を出す。


「ありがとうございます!!」


 感謝の言葉が周囲にこだまする。何羽か鳥が飛んでいく音が聞こえた。


「声がデカい。」

「あ、ごめんなさい。」

「まぁいいや。ある意味エイミィらしい。ところで仕事に同行することになった以上、お前の技量を知っておきたい。まず聞きたいのは武器のこと。結局何を使うことにしたのか。次に、その胸当てのこと。なぜそんなに傷ついているのか。買い替える気は無いのか。その次に魔法のこと。さっきの話の続きだな。」

「分かりました。今使っている武器は―――。」

「ちょっと待った。魚が焼けた。食べながら聞く。とりあえず食べよう。」


 焚き火の横に刺していた魚に焦げ目がついて食べ頃になっている。そのうちの1本を渡して軽い昼食をとるのだった。

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