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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
35/75

追加報酬

 ゴブリン討伐から2日。1日の休養を挟んで仕事を探しにギルド支部へやってきた。ただ、4日前には死闘を繰り広げ、2日前には馬鹿の相手をしていたためまだ疲れが残っている。

 2日前のあれはなんだったんだ。研修中のエイミィはともかく、スコットは全く役に立っていなかったじゃないか。残り2人も言うことを聞かず、暴走した挙句に返り討ちにあいやがって。実質1人でやったようなものじゃないか。思い出したら腹が立ってきた。

 やっぱり今日はやめよう。気が乗らない。そう思った時、受付の中から1人の女性が出てきた。


「カナメさんですか?」

「はい。そうですが。」

「イアンが用があるようなので、応接へ来てもらってもよろしいでしょうか?」

「え?イアンさんが?」


 人事担当のイアンから呼び出しだと?嫌な予感がする。行きたくない。


「それは断れますか?」

「断れますが、最終的に出頭命令になると思います。」

「じゃあ断れないじゃないですか。」


 もう既に命令じゃないか。なんの用だよ。

 諦めて承諾し、女性に案内されて1階の奥にある応接間へ通される。高級そうなソファーやローテーブルといった応接セットが置いてあり、壁には絵画が飾られている。部屋の隅の花瓶に花が生けてあるせいか、部屋に入った瞬間に花の香りがした。前回イアンと会った時とは違って高級感の漂う部屋に圧倒される。一体何の話があるのだろうか。


「ソファーに座ってお待ちください。」


 そう言い残して女性はいなくなり、1人取り残されてしまった。

 仕方なく壁に飾られている絵を見ていると、ドアがノックされイアンが入ってきた。


「やあカナメくん、急に呼び出しちゃって悪いね。」

「いえ、今日は仕事も無く帰ろうとしていたので大丈夫ですよ。」

「おや?せっかくの休みを邪魔しちゃったかな?」

「予定も無いので気にしないでください。それで、今日はどうしたんですか?」

「なに、たいしたことじゃない。例のあだ名の件について追加報酬を出すと言っていたじゃないか。その話だ。」

「そういえばそんな話がありましたね。あの時に依頼された内容が濃密すぎて忘れてました。」

「たしかに、かなり大変なことになったらしいね。」

「えぇ、死ぬかと思いましたよ。あ、イアンさんがそれを知っているということはオルセンさんは報告できるまで回復したんですね。」

「いや、彼はまだ耳がよく聞こえてないし眩暈が酷くまともに動けてない。だからピーターが代理で報告してくれた。」

「そうなんですね。ちなみに、ロルフさんの容態はどうなってますか?」

「ロルフ?あぁ、あの時に死にかけたという彼か。彼は意識が回復してそろそろ退院だそうだ。ただ、ピーターがポーションを使って回復させたことを聞いたら顔を青くしていたそうだぞ。」


 それはそうだろう。なんせポーション2本で2,000,000ルクだからな。まぁ頑張れば数年で返せるだろう。


「ロルフさんの現状には同情しますが、死ぬよりはマシではないかと思うしかないですね。それと、もう1つ確認なのですが、あの時ファングウルフに連れ去られたっていう傭兵はどうなりましたか?」

「いや、彼はダメだったよ。捜索隊が到着した時には既に亡くなっていたらしい。遺体の損傷も激しかったそうだ。」

「そうですか。やはりダメでしたか。」

「ずいぶんドライなんだな。」

「まぁあの状況ですから。生存している方がおかしいくらいです。」

「なるほどな。ま、その話はこのくらいでいいだろ。それで、噂の件の追加報酬が決まった。ギルドの提携している武具防具の店で一度だけ割引してもらうことになった。そろそろきみも防具を揃えたほうがいい。」


 たしかルクで払うと良くないと言っていたな。そのうえ現物支給も難しかったということか。だから一度きりの割引という形にしたのか。落とし所としては悪くない。


「ありがとうございます。近いうちに見に行ってみます。」

「店に行ったら最初にこれを見せるといい。提携価格から更に割引される。ただ、100,000ルクを超えるものには使えないから気をつけるように。」


 イアンは1枚の封筒と地図をカナメに渡した。小さな封筒には『紹介状』と書いてある。しっかりと封蝋が施されている。今回は特別だということが窺える。


「今日の話は以上だ。」

「え?もう終わりですか?こんな部屋に呼ばれたからもっと大変な話でもあるのかと思いました。」

「あぁ。今日は他の部屋が空いてなくてな。本来ならこんな程度の話で使う部屋ではないんだが、やむなくな。」

「そうなんですね。いや、でも安心しました。」

「そういうわけだ。じゃあ、これからも頼むぞ。」


 イアンとの面談を終えたカナメはギルドを後にした。しかし特にやることが無い。そこで、先程紹介された店に行ってみようと思い、一度宿屋へ戻って装備品を取りに行った。今の装備があれば選ぶのも楽になるだろうと考えてのことだ。

 店はギルド出張所のある通りから裏の路地に入って少し歩いた所にあった。人通りの少ない道に面してひっそりと建っている。

 軋むドアを開けると店内は木と革の匂いが漂い、武器防具が綺麗に陳列されていた。立地の問題からか客はいない。カナメの歩く音が店内に響く。

 今のところ武器に不具合は無い。特に不便もしていないので、防具を見ることにする。

 防具は革の鎧はもちろんだが、革製や金属製の胸当て、肩当て手甲、脛当て等が揃っている。だが、そのいずれもが高い。例えば革の胸当て。置いてあるものの中で一番安いものは装飾も何も無いシンプルなものだ。高いものと比較すると革にしなやかさが無く少し重い。正直言ってそこまで高いものには見えない。そのようなものでも100,000ルク。相場は安いものだと50,000ルクくらいから売っているので、普通に考えると高級路線の店だ。

 商品を見ていると奥から店主らしき人が出てきた。赤毛の筋肉質な中年男性だ。縮れた顎髭が特徴的だ。こちらを見ると無愛想ながらも話しかけてきた。


「いらっしゃい。何をお探しで?」

「はい。鎧以外の防具を買おうかと思いまして。」

「お前さん、傭兵か?武器はその杖を使ってるのか?」

「はい。」

「ということは魔法使いか。」

「そうです。」

「なら接近戦なんかやらんだろ。防具なんか必要あるのか?」

「ありますよ。僕は杖で剣を受けるし殴りますから。」

「杖で殴る?はっはっは!行儀の悪い魔法使いもいたもんだ!なるほどな。それなら防具も欲しくなるわな。」

「あまり使うことはないと思いますが、いずれ必要になると思いまして。」

「そういうことか。それなら腕当てがいいんじゃねぇか?杖で受け損なった時の保険になる。ただ、金属製だと重くて今のように動かせなくなるから注意が必要だな。お前さん、傭兵になってどれくらいだ?見た感じ新人くらいか?」

「2等級です。傭兵になってからだと半年を少し過ぎたくらいです。あ、先程ギルドから紹介状を貰ったのでお渡ししますね。」

「紹介状だと?ちょっと見せてみろ。」


 紹介状を雑に受け取ると封蝋を開けて中の手紙を確認する。手紙を見て少し笑顔になっているのが怖い。


「なるほど。2等級の傭兵のカナメか。魔法使いを装っているが剣術も使えると。しかもあのイアンの紹介とはな。ふふふ。面白いやつじゃねぇか。」


 情報が全部筒抜けじゃないか。何を考えているんだあの人は。


「剣術なんて大して使えないですよ。」

「それはそうだろ。お前のような若造が大剣豪だったらビックリするわ。あのイアンのことだ。お前さんの将来性に目を付けたんだろ。」

「そんなものなんですかね?ていうか、さっきからイアンさんのことを知っているように話されてますが、イアンさんってもしかして有名な人なんですか?」

「まぁこの業界内ではある程度な。昔は傭兵をやっていたんだが大して強くもなく等級も上がらなかったんだ。その代わりに人材発掘が上手くてな。あいつに目をかけられて伸びた奴が何人もいる。だから、傭兵引退後はギルドの人事担当なんかをやってるんだ。」

「なるほど。事務仕事をするにしては体つきが良すぎたので疑問に思っていましたが、そういうことだったんですね。」

「でだ、そんなイアンからの紹介状を持ってきたお前さんが弱いとは思えない。魔法使いとしてなのか、魔法剣士としてなのかは分からないが、お前さんに将来性を見出しているのは間違い無い。それならこちらとしても相応の扱いをさせてもらうってもんだ。この紹介状だと100,000ルク以下の物に限って割引となってるから、ちょうどいいのを見繕ってやろう。一応要望も聞いてやる。」

「ありがとうございます。鎧はまだ大丈夫なので、他の部位を守るものが欲しいですね。それと、今よりは魔法使いっぽい格好にしたいです。この前、変な魔法使い扱いされてしまったので⋯⋯。」

「そりゃお前さん、杖で殴る魔法使いは変なやつだろ。だがまぁ待ってろ。そういうことなら面白いのを持ってきてやる。」


 そう言って店主は店の奥の方にある陳列棚から服を持ってきた。藍色の長袖長ズボンだ。胴体のボタンのある前立てや袖に黒い刺繍が入っている。何か妙な雰囲気を感じる。


「これは魔法使い用の服だ。魔力効率を高めるために黒い刺繍が入っている。防具としての性能は普通の服より刃物を通しにくい程度だが、多少は魔法使いらしくなるぞ。」

「たしかにそれらしくなりますね。これなら今の装備を変えることなく使えますし。魔力効率が良くなるっていうのもいいですね。でも、こんな特殊な加工がされた服なんて高いんじゃないですか?」

「まぁ本来はな。上下で200,000ルクだ。だが、今回は特別だ。100,000ルクに負けといてやる。」

「いいんですか?」

「当たり前だ。だいたい、この服も面白そうだと思って仕入れたのに、魔法使いが来ないから死蔵品になっていたんだ。気にするなら他のものも買っていってくれ。」

「ははは⋯⋯。それでしたら、解体用にナイフをいただけますか?」


 その後、服の試着をして寸法が問題無い事を確認し、追加でナイフと革の小袋を買うことになった。まさかナイフに30,000ルクも払うことになるとは思いもしなかった。肝心の服は紹介状の割引が効いて90,000ルクだったので、総合的に見るといい買い物をしたということになるのだろう。

 宿屋に戻ったカナメは早速新しい服を着てみる。ちょっと服の裾が長い気もするが、ベルトで締めれば邪魔にはならないだろう。これで少しは魔法使いらしく見えるだろうか。思わずクインティナに見せたらどんな反応をするのか考えてしまった。

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