研修依頼終了
「カナメくん。なんできみのパーティーメンバーはまたボロボロなの?」
南門の前で偶然会ったクインティナに呆れたような目で見られる。
「いやぁ〜、なんでだろうね。ははは。」
なんとなく責められているような気がして誤魔化してしまった。
クインティナに会ったのはちょうど南門の医務室に行くところだった。そのため、スコットとトールがウルを医務室へ連れていき、カナメはクインティナと話すことにしたのだ。なお、エイミィはトールとウルのことが好きではないらしくカナメと一緒にいた。
「どうせまた無茶したんでしょ。」
「違う違う!そんなことしてないですって!」
「本当に〜?」
「カナメさんは嘘をついてないですよ!本当です!あの怪我をした人たちはカナメさんの指示に従わずに勝手にゴブリンソルジャーに向かっていってやられたんです!」
「あ、こらエイミィ、そんなこと大きな声で言わない。」
「ふ〜ん。つまり、彼らの暴走ってこと?」
「まぁ⋯⋯そういうことです。」
「ちなみにゴブリンソルジャーはカナメさんが1人で倒しました。凄かったですよ。こう、杖でガンっと殴って魔法でグシャッと。魔法使いって凄いんだなってビックリしました。」
「そ、そうなのね。なんだかよく分からないけど、あなたが凄く感動してるのは伝わったわ。たしかにカナメくんは強いからね。」
「そうなんです!それに、色んなことを知っているので勉強になりました!」
「あ〜、彼女は今日新人研修だったんですよ。で、僕が指導役でして。」
「なるほどね。どおりでカナメくんに懐いてるわけね。じゃあ1つだけいいことを教えてあげる。」
「なんでしょうか?」
「カナメくんは魔法使いとしては変な部類よ。普通は杖で殴ったりしないのたりしないの。折れちゃうから。」
「そうなんですか!?でも、凄い勢いで殴ってましたよ?」
「あぁ、これ、中に鉄が入ってるから。普通に硬いし重いよ。」
「そうなの!?やっぱりカナメくんおかしいわ。」
おかしい人扱いされるのは心外ではあるが、魔法使いらしくはない自覚はある。どうしてこうなったのか。そうだ。全ては近接戦がまったくダメなオセロットのせいだ。あれ?変な噂が流れたのもオセロットのいる森の狩人のせいだよな?彼らと関わったのが失敗だったか?
「なによ?」
「え?あぁたしかに魔法使いらしくはないよなって。」
「いまさら何言ってるのよ。」
完全に呆れた目を向けられた。やはり心外である。
「おうカナメ、待たせたな。」
スコットが南門の医務室から1人で出てきた。
「スコットか。トールはどうした?あいつは大した怪我してなかっだろ。」
「んぁ?あいつならウルと一緒にいるってよ。」
「そうか。報酬の話もあるからトールにはいて欲しかったんだけど、仕方無いか。」
「スコットさん。トールさんとウルさん、何か言ってませんでしたか?」
「ん?特に何も言ってないぞ。『ギルドへの報告は任せる。報酬はコブリンソルジャーの分を抜いておいてくれ』ってくらいだな。」
「それだけですか!?カナメさんに対する謝罪も無いんですか!?」
エイミィが烈火のごとく怒り始めた。
「依頼中、散々カナメさんのことを馬鹿にしていて、自分たちが助けられた後にお礼も謝罪も無いってどういうことなんですか!信じられません!」
「カナメくん、どういうこと?」
「いや、ギルド出張所でまた新しい噂が出たみたいで。なんでも、一昨日は僕が足を引っ張って全滅しかけたことになってるみたいです。」
「はぁ!?なにそれ!むしろカナメくんがいなかったら全滅していたじゃない!なによそのデマ!」
「今はあの時のメンバーがクインさんしか動けないから真相が伝わってなくて憶測しかないんですよ。それで僕の変なあだ名と結び付けた人がいるみたいで。」
経緯を簡単に説明すると、クインティナも怒り始めた。うん。トールはこの場にいなくてよかった。謝罪する気が無いのであれば無事では済まなかっただろう。
「で、どうするの?噂、放置する?」
「いえ、放置できないですね。今まではどうでもいいと思って放置するつもりでしたが、リーダーになった時に噂を信じて命令違反するやつがいるとなるとどうにかしないといけないなと痛感しました。」
「そうね。そうなると、これからは討伐系の依頼を増やす感じ?」
「そうですね。もともと清掃の仕事は減らそうとは思っていたので、これからは討伐や護衛系の仕事を増やそうかと。」
「なるほど。それじゃあ一人だと大変よね。パーティー組みましょう。」
「いや、それは保留です。」
「なんでよー!」
「理由は一昨日言ったじゃないですか。」
「ちぇー。」
このやり取りを見ていたエイミィがニコニコしている。なんなんだ?
「なんだ、エイミィ?どうかしたのか?」
「いえ、お2人が仲良さそうなので。」
「そ、そうか。なんか変な感じだな、そういうの。」
「エイミィ、あなたどの目線でそれを言ってるのよ。」
2人で戸惑っているとスコットが割って入ってきた。
「お2人さん。仲がいいのはよろしいのだけども、まずはギルドへ報告に行って報酬を貰いたいんだが。」
「あ、あぁ、そうだな。研修依頼の件もあるから早く報告しないとな。それじゃクインさん、また今度。」
「邪魔してごめんね。またね。」
クインティナと別れて3人でギルドへ行く。その途中、スコットが妙にニヤニヤしながら話しかけてきた。
「いやぁ~カナメくんも隅におけないなぁ。まさかあんな美人と仲良くなっているなんて。」
「クインさんのことか?話しやすくていい人だよ。」
「ふ~ん。俺は出張所にはほとんど来ないからあの人が誰なのかも知らないけど、今までお前の周りは男ばかりだったから良かったじゃないか。」
「うるせぇ。好きで男ばかりになったわけじゃないんだよ。たまたま同じ依頼に女の人がいなかっただけだ。」
「そりゃお前、清掃依頼ばかり受けてればそうなるだろうよ。」
「あの〜、カナメさんとクインティナさんてどういうご関係なんですか?」
「お、それは俺も聞きたい。」
「どうって、ただの仲のいい先輩だよ。一昨日会ったばかりだけど。」
「だから敬語を使っていたんですね。」
「そういうことだ。スコットが望む関係ではないぞ。」
「なんだよつまんねぇな。」
出張所の受付で依頼完了報告をすると、研修依頼は別途書類を作成しなければならないとのことだった。
とりあえず先に討伐報酬を受け取りホールのテーブルへ行って報酬の分配と今後のことについて話をする。
報酬の分配については多少異論は出そうだが均等に分けることにした。
「おい、いいのかカナメ?こんなに貰っちゃって。 て。」
「いいんだよ。これが1番揉め事が少ない。不満があるならお前だけコブリンソルジャーの分を差し引くぞ。」
「いや、それは勘弁してくれ。」
「それならそのまま受け取ってくれ。ところでエイミィ。今後の武器の方針は決まったか?」
「まだ悩んでいます。剣も扱えないですし。魔法も両系統とも使えないですし。」
「そうか。でもそんなんじゃいつまで経っても討伐系依頼が受けられなくて昇級できないぞ。スコットみたいに。」
「最後のは余計だろ!」
「そうですね。それは嫌ですね。」
「おい、エイミィちゃん、なんかフォローしてくれよ。」
「ちょうど今、誰のものでもない斧があるけど、これはどうだ?」
「斧ですか?」
カナメはエイミィにゴブリンソルジャーの持っていた片手斧を渡す。
斧を手に取ると想像以上に重かったのかふらついてしまっている。
「うっ!重いですね。これじゃ持っていても振れなさそうです。」
「そうか。じゃあしばらくは武器の選択を続けるようだな。まぁギルドには武具の講習会なんかもあるから、それをいくつか受けてみるのもいいかもな。」
「そうですよね。もうちょっと考えてみます。」
「それじゃあ、今回の依頼はこれで完了だ。スコット、最後に一つだけ頼む。トールとウルに報酬を届けてやってくれ。」
「あいよ。任せてくれ。」
こうしてスコットは南門へ、エイミィは自分の宿に戻っていった。
そしてカナメは研修依頼の報告書を作成し始めるのだった。
正規報酬:25,000ルク
ゴブリン追加報酬:5.000ルク×3匹÷5人=3.000ルク。
ソルジャー追加報酬:40,000ルク÷5人=8,000ルク
合計:36,000ルク
以上が今回の報酬。斧や鎧は査定中。
なお、1等級は単価が20,000ルクです。




