研修討伐
森の中を進みしばらくすると、地面にいくつもの足跡が残っている場所に出た。足の形状からゴブリンが何匹か纏まって行動していることが分かる。
「みんな、聞いてくれ。この先にゴブリンの集団がいる。多くても5匹程度だと思う。そう遠くないはずだ。行くぞ。」
カナメの指示に従い一行は森の奥へ進む。そしてカナメの読み通り、すぐにゴブリンの集団に追いついた。しかし誤算があった。
「まずいな。ゴブリンソルジャーがいる。このメンバーだとちょっと厳しいか。」
カナメの視線の先にはゴブリンより大きく、片手斧と鎧で武装しているゴブリンがいる。力があり武装しているせいで厄介な魔物だ。ゴブリンリーダーに比べて知能が劣る分、カナメとしては楽な相手なのだが。
今の戦力を冷静に考えてみる。トールとウルは性格に難はあるが剣の腕は問題無い。カナメの目から見ても荒削りではあるが、剣技だけならソルジャー相手にも通用するかもしれない。だが、スコットは論外だ。エイミィもどこまでやれるか分からない。そうなると戦力として計算できるのが3人。その3人で残る2人を守りながら戦う必要が出る。
今思うとスコットは何をしに来たんだ?
「悪い。今回は分が悪い。ここを離れよう。」
「逃げるのか?」
「あぁ。俺らの仕事はゴブリン討伐だ。ソルジャーは関係無い。ここで無理をする理由が無い。」
「理由ならある。1等級の俺らが早く昇級するためにはソルジャー討伐の実績は重要だ。」
「それはお前個人の都合だ。その都合でパーティーメンバーを危険に晒すな。俺にはお前らの命を預かっている責任がある。依頼を達成する以前に、お前らを無事に帰す責任がある。だからお前の都合を尊重できない。」
「そっくりそのまま返してやるよ。それはお前の都合だ。俺らには関係無い。」
「パーティーメンバーを危険に晒すなと言っているんだ。」
「そんなことは知らないな。こいつらだって危険を承知で来たんだろ?なら、ここで危険にさらされても文句はないはずだ。」
「ねぇ~、もういいじゃない。話にならないよ。どぶさらいさんは怖気づいちゃってるんだよ。自分が敵わない相手だから逃げたいだけなんだって。」
「そうみたいだな。なんだかんだ理由をつけて戦いたくないだけなんだろ?悪いが、お前の意見に耳を貸す気はない。そんなにパーティーのことを気にするなら、俺らはここで抜ける。」
そう言ってトールはゴブリンの群れへ向かって走り出す。その後ろをウルが着いていった。
「あの馬鹿共!」
「おい、カナメ、どうする?」
「どうするもこうするもあるか!助けに行くぞ!たぶんあいつらではソルジャーには敵わない。」
「そうなんですか?お二人共強そうですが。」
「たしかに強いさ。だが、その強さは剣の扱いが上手いだけなんだ。体が弱い。ソルジャーは力が強くてタフだ。相性が悪い。」
こうして話している間にもゴブリンたちとの戦闘音が聞こえる。急がなくては。恐らくゴブリンはすぐに倒せる。だからすぐにソルジャーとやり合うだろう。そうなったらサポート無しでは不利だ。カナメたちは急いでトールたちを追いかけた。
追いついた頃にはウルがゴブリンの最後の一匹を斬ったところだった。
「あ、結局来ちゃったんだ〜。でも残念。ソルジャーはトールが倒しちゃうから。手柄を横取りしないでね。」
そのトールはというと既にソルジャーとやり合っていた。ソルジャーの斬撃を見事に躱し続けている。
「お、あいつやるじゃねぇか!本当に強いんだな!」
スコットは驚いているが、このくらいできることは分かっている。問題はこの後だ。有効打が打てるかどうか。
「それはそうだよ〜。誰かと違って正直にやってきたんだから。誰かと違って。」
こいつ、マジでウザいな。こんな時でも何を言ってるんだ。そして自慢するならもっと上の等級でやれ。1等級で言っていてもダサいぞ。
「そこまで言うなら、お前らの正直な力ってのを見させて貰うぞ。ただ、危なくなったら加勢するから、そのつもりでな。」
「危なくなんてならないよぉ。だって当たらないから。」
「だといいな。ほら、倒しにいってこい。」
「言われなくても!」
ウルはトールのもとへ行き2人で戦い始めた。
「本当にいいのでしょうか?」
「仕方ないだろ。自分たちだけでやりたいって言うんだから。ただ、加勢に行くことになるから、今のうちにあいつらの戦い方を見ておけ。エイミィも一応剣を持っているんだ。参考になるぞ。スコットもな。」
「俺はいいんだよ。」
「いや良くないだろ。」
トールとウルの2人を見てみるとよく対応できている。ソルジャーの斧が振り下ろされるたび、空気を切る音が聞こえる。しかしそれをギリギリで避けられている。そしてカウンターで斬り掛かっている。だが、浅い。しっかり鎧の無い脇や手首を狙っているが、皮を切り裂いて少しの血を流させるくらいしかできていない。予想通りだ。
「⋯⋯⋯っ!」
横で見ていることしかできないエイミィは両手を握って心配そうに見ている。
「よし!いいぞ!そこだ、やれ!よし、相手は怯んでるぞ!」
スコットは呑気に観戦している。ここが魔の森だって分かってるのか?
だが、彼らの動きは徐々に精彩を欠き始めた。攻撃が躱しきれなくなっており、微細な傷が増えていく。
トールの剣を持つ手が震えている。横薙ぎの一閃を躱そうとするが体が動かない。ゆえに剣で防ごうとするが弾かれる。軌道が変わったことで腹部をかすめる程度で済んだが、出血している。手も痺れてしまっているようだ。
ウルは肩で息をしていて足が動かなくなってきている。ソルジャーの蹴りを躱せず肩で防いだが、これによって片腕が動かせなくなってしまった。
誰が見ても劣勢で、あと数手で終わってしまうことが分かってしまう。
「カナメさん!私行きます!もう我慢できません!」
エイミィが剣を抜いて走り出した。突然のことで驚いて反応できずエイミィを見送ってしまった。まずい。彼女にはまだ早すぎる。
「エイミィ、待て!」
慌てて追いかけるが、その時には既にソルジャーと向かい合っていた。
ソルジャーが目の前に現れたエイミィに斧を振り下ろす。これをギリギリのところでなんとか躱し地面に転がる。そこをすかさずソルジャーが追撃する。再び斧が振り下ろされた。
だが、その斧はエイミィには当たらず地面を抉っただけだった。
「エイミィ、ここは危ない。下がってろ。あとは俺がやる。」
倒れているエイミィの上を盛り上がった土が覆っている。ソルジャーの斧はこの土を叩いただけだった。
カナメはエイミィとソルジャーの間に立った。ソルジャーは動きを止めてカナメを見る。その間にエイミィは起き上がり体勢を整えた。
「カナメさん!ごめんなさい!」
「気にするな。早く行け。」
エイミィを後ろに下がらせる。
「どぶさらい!邪魔をするな!」
「どぶさらいさんじゃ無理だよ!逃げて!」
「お前らは黙ってろ。」
こちらの様子を伺っていたソルジャーが斧を振り下ろしてきた。隙だらけに見えたのだろう。だが、しっかり見ている。
「竪穴。」
ソルジャーの足元に小さな穴が開き態勢を崩し膝をついた。その隙に杖を顔面に叩きつける。ソルジャーは口から血を流しその場に倒れ込んだ。
トールとウルは目を見開いて動きを止めている。
顔面を殴られたソルジャーはプライドを傷つけられたのか激高している。横薙ぎに斧を振ってきた。
「土壁。」
瞬時に発生した土の壁によってソルジャーの斧は防がれる。先程エイミィを守った魔法だ。そう簡単に破られるわけがない。
土壁が邪魔なのかソルジャーが少し距離を開ける。
「その距離は魔法使いの間合いだぞ。石棘。」
地面からソルジャーの膝めがけて石の棘が突き出す。予想だにしない攻撃のためソルジャーは回避できない。筋肉の無い部位ゆえに弾き返すこともできない。膝に石棘が直撃する。骨が硬いのか刺さることはなかったが、破壊することはできたようだ。悲鳴を上げて後方へ崩れ落ちた。
「仕上げだ。土柱。」
左右の手を大きく広げた状態から手を叩くようにして閉じると、ソルジャーの顔面へ両脇から土の柱が飛び出す。これを防ごうするが、防ぎきれるような質量ではない。土柱に挟まれて頭が見えなくなった。
「ふぅ、終わったな。」
戦いが終わり大きく息をついた。
「凄い⋯⋯。凄いですカナメさん!」
「そりゃ相性が良かったからな。力で押してくるしか能のないやつは俺程度の技術で対処もできるし、魔法も当てやすい。」
エイミィは純粋に感動しているようで、目をキラキラさせている。なんか苦手だこの視線。
「嘘でしょ?ゴブリンソルジャーを単独で倒した。じゃあゴブリンリーダーの件は本当だったの?」
ウルは少し離れた所で呆然としたまま呟いている。
トールは無言のまま俯いている。
「ウル。ゴブリンリーダーの件に関してはあの時のパーティーメンバーが勝手に言ってるだけだ。本当は皆が周囲のゴブリンを足止めしてくれたおかげでゴブリンリーダーとの一騎打ちに勝ったというものだ。アイアンウルフの件は俺が足止めしてクインさんがとどめを刺した。つまり、お前の信じていた話自体が全て嘘なんだよ。」
ウルは話を聞いたあと、俯いたまま何も言わなくなってしまった。
「スコット!!こっちに来い!」
「はいはいどうしましたか?」
「お前なぁ⋯⋯。とりあえずウルの応急処置をして討伐証明部位を取ってこい。このままじゃただの寄生だぞ。」
「おっとそいつはいけねぇ。帰る時の荷物持ちは任せろ!」
「ほんと、お前今日何しに来たんだよ。剣を抜いてすらいないじゃないか。」
「何しにって?最近受けてなかったから実績作るために受けただけだよ。安心しろ。今ここで俺が1番元気だ。帰り道は俺がなんとかしてやる!」
「え!?スコットさんが先導するんですか!?どんな風にやるか教えてもらいたいです!」
「え?いや、教える程のものではないと言うか⋯⋯。カナメ、助けて。」
「まったく。エイミィ、スコットはその場の空気を和ませるためにできもしないことを言っただけだ。本気にしないでやってくれ。」
「そうなんですか。残念です⋯⋯。」
「カナメ、エイミィちゃん。俺、凄く辛い。」
この後、スコットはウルの応急処置を行った。ウルは肩を脱臼している可能性が高いようだ。南門の医務室に行く必要がある。2日前も行ったぞ。
応急処置を終えると討伐証明部位の切り取りだ。魔法の土から出てきたゴブリンソルジャーの頭は潰れてこそいなかったが、相当な衝撃が加わったことが分かる状態だった。スコットの顔が引き攣っていた。
エイミィはスコットの後ろをついていき応急処置のやり方やソルジャーの討伐証明部位の話を聞いていた。
トールとウルは終始無言だった。今は何を考えているのか分からないが、あのウザい絡みがなくなったので非常に助かる。
「おーい!全部集めたぞ!ソルジャーの斧と鎧も回収したからあとで山分けだ!」
「よし、じゃあ帰るぞ。スコット、途中でゴブリンが出たら頼むぞ。」
スコットの抗議の声が響く中、ゆっくりとした足取りで森の外を目指すのだった。




