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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
32/74

研修依頼

 ファングウルフ討伐から2日後。カナメは再び南門前にいた。

 今日はゴブリン討伐だ。等級も上がったので他の依頼を受けたいのだが、ギルドから指名されてしまっては仕方ない。しかも今日は研修だ。初の指導側だ。若干緊張する。


「お、カナメか、おはよう。今日は随分早いじゃないか。」

「ん?おはようスコット。今日はこの仕事の責任者だからな。」

「え?責任者ってことはお前、2等級になったの?」

「あぁ。3日前にな。」

「おぉ!おめでとう!」


 この男はスコット。カナメが仲良くなった傭兵の1人だ。一応数週間先輩だ。歳は同じだから言葉は気にせず話している。

 彼はあまり討伐依頼を受けない。武術も魔法も使えないからだ。それゆえに、彼は街の中の仕事をメインに受注している。


「ありがとな。あ、今日は新人研修もあるから、俺をあてにするなよ。」

「うわーついてねぇなぁ。カナメがいるから楽できると思ったのに。」

「あんまり人に頼りすぎるのは良くないぞ。っと、時間だな。集めるか。」


 集合時間になったためゴブリン討伐依頼を受けた傭兵がいれば集まるように呼びかけた。これに応じて男女2人組の傭兵と1人の傭兵が歩いてきた。これで人数は揃った。


「よし。これで5人だな。じゃあ自己紹介といこう。2等級のカナメです。一応今日はパーティーリーダーということになっています。魔法使いですが近づいてきた敵は杖で殴ります。」


 こちらの名前を聞いて2人組の傭兵が笑っている。杖で殴るというのがツボに入ったか?


「1等級のスコットだ。一応剣を持っているが修行中だ。ゴブリン相手なら大丈夫だ。」


 たしかにゴブリン相手なら大丈夫だろうさ。奴らの武器なんか木の棒か良くて棒に石をくくりつけた斧もどきだからな。

 次はさっきの笑っていた傭兵か。


「1等級のトール。剣士だ。よろしく、『嘘つきどぶさらい』さん。」


 ほほぅ。こいつら、それで笑っていたのか。一昨日の件はまだクインティナしか現場に戻れてないから話が伝わってないのか。まったく、面倒なことだ。


「1等級のウルです。剣を使います。『嘘つきどぶさらい』さんに質問です。一昨日、皆さんの足を散々引っ張って全滅しかけたそうですが、今のお気持ちはどうですか?」


 うわこいつら面倒臭ぇ。今日1日こんな感じで絡んでくるのか?ゴブリンの群れの中に放置してやろうか。


「適当な憶測を元にした噂を信じることがどれだけ愚かなことか教えるにはどうしたらいいかを真剣に考え始めました。その件については現場復帰しているクインさんに直接聞いてくれ。バカバカしい。じゃ、次。」


 次は男の子か。小柄だな。濃い青緑色の短髪のイケメンだ。彼が新人さんか。


「1等級のエイミィです!よろしくお願いします!武器はとりあえず剣です!」


 ん?エイミィ?女の名前だ。声もちょっと高い。


「エイミィ?えっと、女の子?」

「はい!よろしくお願いします!」

「お、おぉ、よろしくお願いします。」


 物凄く元気だ。でもそうか、女の子だったか。よく間違えられるのか女の子なのを確認されても気にした様子は無いな。


「とりあえず剣ってのはどういうこと?」

「傭兵になるまで武器を持ったことが無かったので、ギルドの勧めで方向性が決まるまでは剣を持つことになりました!」

「なるほど、そういうことね。じゃあエイミィが研修ということでいいのかな?」

「はい!」


 うん。この子は素直そうだ。今もわくわくしているような顔をしているし、大丈夫だろう。


「この中に斥候はいるか?もしくはやったことのある人は?」


 全員が見事なまでに無反応だ。


「マジか。仕方ない。俺がやる。斥候の技術を知りたいやつは教えるぞ。」

「どぶさらいさんできるの〜?」

「当たり前だ。村にいた頃は狩りをしていたんだ。できなきゃ何も狩れねぇよ。」

「あ、じゃあ私教えてほしいです!」

「エイミィか。それはいいけど、斥候をやるときは声を小さくするんだぞ。今だと元気すぎる。」

「分かりました!」


 大丈夫か?なんかケントとは別方向の頭の悪さを感じるぞ。

 自己紹介も終えて魔の森へと歩き出す。今回は魔の森の東側に行ってみることにした。道中、スコットが後方にいる2人組の文句を言っていた。本人よりも怒っているせいで逆に冷静になる。


「カナメさん、『嘘つきどぶさらい』ってなんですか?」


 あーそうか。入ったばかりだから知らないんだよな。


「なんかギルド出張所で俺はそんなあだ名を付けられてるらしい。由来は、まず俺が街の清掃作業を受けていることが多いこと。そして俺がゴブリンリーダーを単独で倒したと嘘をついていること。その2つが合わさった名前だ。」

「え?嘘ついたんですか?」

「まさか。そんなことするわけ無いだろ。そもそも俺はゴブリンリーダーを単独で倒したなんて言ったこともない。単独で倒したとは思ってないからな。一緒に戦った仲間がそう言ったんだろうけど、魔法使いでどぶさらいばかりしている俺がそんなに強いわけがないっていう思い込みで嘘つき扱いさ。バカらしくて気にもしていなかったけど、今日みたいのがいると面倒だ。とりあえずあいつらは()()()()()。」

「お?森に入ったらあいつやっちゃうのか?」

「何をする気だよ。暴力に訴えたりはしないぞ?」

「スコットさんはさっきのあだ名の話は信じてないんですね。」

「そりゃ、俺はこいつの実力を知ってるからな。ゴブリンリーダーの顔面を殴ったというのは分からねぇが、勝つことはできるんじゃないか?ま、ゴブリンリーダーの強さも知らないんだけどな!」


 スコットは大きな声を上げて笑っている。呑気なやつだ。

 しかし、今回のメンバーは随分と偏っている。前衛4人に後衛1人とは。相手がゴブリンだからいいものの、リーダーが出てきたら終わるぞ。

 魔の森に到着しカナメが先頭に立って進む。その後ろにはエイミィ、スコット、ウル、トールの順でついてきている。

 カナメは時折エイミィを呼びコツを教える。


「いいか。斥候で重視されるのは索敵能力だ。敵を探す時は視覚、嗅覚、聴覚を使う。まず視界におかしなものはないか確認する。見える位置に敵がいるというのは索敵の失敗と言ってもいい。相手にも見えてしまうからな。だから、こういった物を探すんだ。」


 カナメが指差したのは1本の枝。その枝の先には動物の毛が付いている。


「これは鹿の毛だな。この近くを通るんだろうな。いつ通ったか。それは足元を見ると分かる。」


 足元を見ると鹿の足跡が残っている。その表面は少し乾いていた。


「これで鹿はずいぶん前にここを通ったということが分かった。方角も足の向きを見れば分かる。あの方向だな。鹿を追う場合はこのまま向こうへ行けばいいというわけだ。これを他の魔物にも行う。ここはいろんな動物がいるからゴブリンを探していても別の動物の痕跡を見つける可能性も高い。それが危険な魔物の可能性もあるから、何かの痕跡を見つけた時は念のため警戒するんだぞ。」

「分かりました!カナメさん、凄いです!斥候でもないのにこんなことを知ってるなんて尊敬します!」

「いや、声でかい。近くに魔物がいたら見つかるぞ。」

「あ、ごめんなさい。」

「まぁ狩りで使っていた技術の応用なんだけどな。ちなみに足跡が見つからなくても折れた枝さえあれば時間経過はある程度分かるぞ。」

「そうなんですか?」

「枝の傷口の状態と臭いで分かる。この枝なんかは傷口が乾いていて臭いもないから、折れてからだいぶ時間が経ってることになるな。」

「凄い。勉強になります。」

「討伐依頼を受けていればそのうちできるようになるさ。」


 そんなに凄いことをしているわけでもないのに、目を輝かせて褒められると少し照れ臭くなる。思わずエイミィから目を逸らしてしまう。


「おっとカナメくん。どうしたのかな?」


 スコットがニヤニヤしながらこちらの様子を見ている。目敏いやつだ。


「どうもしてねぇよ。他に何かないか見ていただけだ。」

「いやぁからかい甲斐があるねぇ。」

「スコット、そんなに言うならゴブリンの群れに突っ込ませるぞ。」

「ごめんごめん。悪かったって。」


 その後もエイミィに教えつつ森の奥へと進んだ。

 進んだ先の森の中はいつもと変わらない様子だった。鳥の声も虫の声も聞こえる。その中に混じって不快な声が聞こえた。


「静かに。ゴブリンの声だ。」

「え〜?全然聞こえないけどなぁ。」

「じゃあウル。信用できないなら南東の方角に走ってこい。嘘か本当かはすぐ分かる。」

「なんでそういうこと言うのかなぁ?」

「人が真剣に話してる時に茶化すからだろ。とにかく、南東の方角にゴブリンがいると思う。数はまだ分からない。声が聞こえるってことは2匹以上いるんだと思う。」


 カナメの言う通り、南東に進むとゴブリンがいた。3匹だ。いずれも棒を持っている。


「トール、ウル。エイミィの見本としてあいつらを斬ってきてくれないか?」

「分かった。お前はどうする?」

「俺は討ち漏らした場合に備えて魔法の準備をしてるよ。仲間は呼ばれたくない。」

「カナメさん、仲間を呼ばれたらどうなるんですか?」

「大量のゴブリンに囲まれる。」

「それは嫌ですね。」

「だろ?じゃあ2人とも、よろしく。タイミングは任せる。」


 ここまでずっと2人でいたことを考えると、普段から2人で行動することが多いだろうと判断して攻撃を依頼した。しばらく観察を続けていた2人はコブリンたちが後ろを向いた瞬間に木陰から飛び出し襲いかかると、その背を斬り確実に1匹づつ仕留めた。残りの1匹は逃げ出そうとしていたが、カナメが石棘を作り出し絶命させた。


「それがコブリンリーダーの足を貫いたという石棘か。たしかに、当たれば大ダメージ必至だな。」


 トールが冷静に分析している。まぁこれで少しは見直してくれただろ。


「うん。上手いこと倒せたな。今のうちに討伐証明部位を切り取るぞ。エイミィ、こっちに来てくれ。」


 エイミィを呼び寄せて討伐証明部位の取り方を実演する。あまりこういう作業に慣れていないのか少し顔を歪ませている。

 3匹の討伐証明部位を切り取ったところで、再び警戒を強めて討伐を再開した。

ウルは女の子です。ウザすぎてカナメの心が全く動かなかったせいで女の子扱いされていません。

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