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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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帰還

 意識の無いロルフを背負い街へ帰る。南門へ行くと衛兵がロルフを医務室へ運び込んだ。前にも見たことのある光景だ。ただ、あの時と違うのは、今回はさらに2人、オルセンとピーターも医務室で治療を受けることになった。そのため、クインティナと2人で急いでギルド出張所へ向かった。

 出張所のドアを開けると、妙に騒がしかった。やけに装備品が傷つき負傷したパーティーが受付で騒いでいるのが原因だ。何事かと思ったが、それを確認する前にやることがある。森の中の傭兵についてだ。


「2等級のクインティナです。この依頼に関して報告があります。」


 クインティナが依頼受注書を見せて話を続ける。


「先程、魔の森内にてアイアンウルフをリーダーとしたファングウルフの群れに遭遇しました。その群れは全滅させ、メンバーは全員無事です。ですが、重傷者がいます。また、遭遇前に狼たちが大きな獲物を引き摺った形跡を発見しました。当パーティーの斥候によるとそれは人間ではないかと思われるそうです。」


 ここまで言い切ったところで横の受付で騒いでいた傷だらけの傭兵が割って入ってきた。


「おい!お前ら!それはいつのことだ!?どこでだ!?」

「え?に、2時間から3時間くらい前でしょうか?ま、魔の森に入ってゴブリンたちの多く出るところからもう少し奥に行った辺りです。ここから道沿いに行って森の手前で少し西に行った辺りから中に入りました。」

「なんだと……!?俺らがいた方角だ!それはどっちへ向かっていた!」

「は、はいぃ、その、南、森の奥の方へ……。」


 クインティナさんがあまりの迫力に気圧されて受け答えが怪しくなってきた。


「くそ!おい、受付の姉ちゃん!話聞いてただろ!?今の方角へ捜索隊を出してくれよ!」


 なるほど。理解した。さっき見つけた、人の引き摺られたような跡はこの人たちのパーティーメンバーが引き摺られた跡だったんだ。なんらかの理由で奴らと遭遇して戦ったものの1人がやられ、他は逃げて増援を呼びに来たと。ただ、急いで逃げてきたから詳しい場所が分からず、場所が分からない以上は人の派遣もできないためギルド側も返事ができずにいたので受付で騒いでいたと。

 ただ、姉ちゃんと呼ばれた担当者は疲れたような顔をしていた。


「はぁ~。分かりました。今動けそうなパーティーがいないか確認してみます。」

「ありがてぇ!恩に着る!お前たちもありがとな!」

「いえ、私たちはお仲間の方に何もできなかったですから。」

「それでもだ。情報ありがとう!」

「ど、どういたしまして。それでは、私たちはまだ話が残っているので……。」

「あぁ、すまねぇ!邪魔しちまったな!」


 傷だらけの傭兵は手を挙げて受付を離れホール内の椅子に座った。

 こうしている間に傷だらけの傭兵の話を聞いていた担当者が奥へ下がった。捜索の件で相談に行くのだろう。

 これでやっと落ち着いて話ができる。


「それで、クインティナさん。さきほど、ファングウルフの群れを全滅させたと仰っていましたが、だいたい何頭くらいですか?」


 受付のお姉さんが気を取り直して確認を始めた。


「ファングウルフ15頭とアイアンウルフ1頭です。先程言っていた場所にその死体が残っています。」

「そんなにですか。凄いですね。それではその方面に死体の回収をする人たちを派遣しましょう。ちなみに討伐証明は?」

「今持っています。あとで解体の方へ持っていこうと思っていますが、先程の捜索の話もあったので先にこちらに来ました。」

「分かりました。その行方不明者の件も同じ方角のようなので、創作と回収が合同で行えればいいのですけど。急いで報告してくるので少し待っててもらってもいいですか?」


 お姉さんは席を立って走って奥へ行ってしまった。


「なんか思っていたより大変なことになっているわね。」

「そうですね。まさかこんなことになっているとは思いませんでした。」

「これ、私たちが付いて行かないといけないとかないわよね。でもこれ以上動けないんだけど。」

「同感です。魔力が殆ど無いうえにこの疲労感。今から魔の森に再突入するのは無理ですね。」

「ほんとよ。少なくとも今日はもう無理。早く帰って着替えたい。」

「そうですよね。そういえば、クインさんってなんでローブを着てるんですか?」

「なんでって、魔法使いだからよ。」

「でも、森の中だと邪魔ですよね。さっきも歩いてるときにずっと裾持って引き摺ったり引っかからないようにしてたじゃないですか。」

「たしかにそれは認めるわ。でも魔法使いのローブは神秘性の象徴なのよ。そしてそれが精神的な力を強めて魔法の力に還元されるの。だから、ローブを纏っていた方が強くなるって町の神父さんが言ってたわ。」

「そうなんですね。初めて聞きました。参考になります。」


 なるほど。魔法使いらしさを出すためにはローブを着た方がいい、と。でもなぁ、邪魔なんだよなぁ。戦い方を考えると無理だなぁ。

 そんな話をしていると奥の方から先程のお姉さんが小走りで戻ってきた。


「お待たせしました。回収の件、許可が出ました。これから行けるそうです。」

「良かったわ。捜索の方はどうですか?」

「そちらも併せて行うことが決まりました。というか、ここだけの話、捜索だけだと許可が降りなかったんです。」

「どういうことですか?」

「未確定の情報ということと、もし本当に傭兵の方だったとして、既に手遅れの可能性が高いためです。依頼をしても誰も受けないか、受けても明日という可能性が高かったんです。だから、この回収の話は本当に都合がよかったんです。」

「そういうことでしたら、私たちもお役に立てたようで嬉しいです。」

「それで、回収作業には同行されますか?同行していただけると正確な場所が分かるので助かるのですが。」

「いえ、今もここで話していたのだけど、2人とも今日はもう動けそうにないわ。申し訳ないですけど、全部お任せします。」

「そうですか。まぁかなり激しい戦闘をしたようですし、仕方ないですね。それでは、その旨を伝えてまいります。回収後の追加報酬はまた改めてお渡しします。」


 なんとか無事に全ての要件を終えることができた。だが、落ち着くのはまだ早い。討伐報酬を貰わねばならない。解体所へ討伐証明部位を持っていき、受注書にサインをもらい、再び受付へ行って依頼完了報告を行った。

 今回の報酬は基本報酬30,000ルク、追加報酬としてファングウルフ追加分(10,000ルク×15頭÷5人=30,000ルク)、アイアンウルフ(200,000ルク÷5人=40,000ルク)。合計100,000ルクだった。とりあえず、今は他の面々が医務室に入ってしまっているため、報酬は後日受け取ることとした。その頃にはファングウルフ関連の報酬も追加されていることだろう。

 ギルドでの用件を終えた2人は南門へ向かった。医務室に行くと、医薬品の臭いが立ち込める処置室にオルセン、ピーター、ロルフの3人がベッドに横たわっていた。ロルフは未だに意識が戻っていない。どうやら血を失いすぎているらしく、しばらくは入院することになるという。とはいえ、ポーションのおかげで意識さえ戻れば動けるようになるだろうとのことだった。他の2人はしばらく安静にするだけで、数日の入院で済むようだ。全員無事に帰ってこられて本当に良かった。ただ、ロルフはこれから借金返済の日々が待っているのだが。

 医務室を後にして街の方へ歩き出した。ちょうど複数のパーティーが南門から街の外へ出て行こうとしていた。20人くらいいる。こんな時間にあの大人数で行くということは、先程の回収と捜索の依頼の件だろう。よくもまぁこの短時間であんなに集められたものだと感心してしまった。


「ねぇカナメくん。安心したらちょっとお腹すいちゃったね。」

「そうですね。早く帰って着替えたいところですけど、何か食べたいですね。」

「じゃあ何か食べに行こっか!」

「いいですね!どこに行きましょうか!」

「とりあえず花橋前のご飯屋さんに行こう!」

「賛成!」


 2人はやる事を全て終え、全員が無事であったという事実で張りつめていた緊張感から解放されたことで気分が高揚していた。体の疲れなど忘れて花橋へと向かっていった。

ギルドの受付でクインティナが話していたのは、カナメからみて先輩だからです。目上の人が代表して話したということです。


2人とも南門の医務室を出る前に手と顔を洗っています。カナメはロルフの応急処置で手が血塗れでしたからね。


傷だらけの傭兵は捜索隊に加われていません。傷だらけだからです。

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