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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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狼退治②

 オルセンは猛然と狼の群れに飛び込むとその大きな斧を振り回した。それはかすりもしない攻撃であったが、狼たちの注意を引くのには十分であった。

 狼が怯んだ隙にピーターとロルフが飛び込みそれぞれが一撃を浴びせた。しかし浅い。完璧なタイミングと距離だったはずだ。にもかかわらず槌の一撃は多少怯んだ程度。ロルフの手斧に至っては無効化されているように見える。

 普段剣を使う2人が剣を使わない理由はあの白い体毛にある。かなり硬そうに見える。実際、ギルドの書庫で情報を調べた際に、注意すべき点として牙と爪による攻撃の他に体毛の硬さによる防御力が挙げられていた。そのせいで先程の1頭にもかなりの時間を要したのだろう。

 そうなるとオルセンの戦斧は理に適っているともいえる。森の中で戦斧を使うのは酔狂だと思うが、この中で最も有効な攻撃を繰り出せるのはオルセンだ。彼の攻撃を軸に組み立てなくてはならない。

 だが、3人で相手にできる数も限られている。狼が3頭抜けてきた。


「カナメ!クインティナ!そっちに行ったぞ!」

「ピーターさん!こっちに構わず目の前に集中して!」


 クインティナを守れ。パーティーリーダーであるオルセンから与えられた唯一の指示。遂行する。


「石棘!竪穴!」


 抜け出してきた3頭めがけて石棘を地面から突き出すが、狼たちはそれを察知して飛び越える。

 だがこれは想定内。先程の狼に避けられている以上、こうなることは予想できていた。だからこその竪穴だ。石棘を飛び越えた先に竪穴を設置した。落ちろ!

 しかしこれで落ちたのは1頭だけ。他は想定以上に長い距離を飛んでいた。くそ!


「ちっ!だが1頭は仕留めた!あと2頭!」


 左手で穴の中に石棘を生成。狼の鳴き声が聞こえる。刺さったかは分からないが、少なくとも打撃として相当のダメージを与えたはずだ。穴から出てくることは無いと考える。

 その間に右手で石の斧を生成。突進してくる狼を迎え撃つ。

 その時、視界の端で淡い光が靡いた。


「木杭」


 クインティナの短い言葉が聞こえた瞬間、カナメの顔の横を通り2本の木の杭が狼へ飛んで行った。しかし速度が遅いため回避行動をとられてしまう。それでも1頭は胴体に当たり絶命。もう1頭も後ろ足に直撃し倒れ込んだ。そこにカナメが石斧を振り下ろすことで倒すことができた。


「クインさん!助かりました!」

「ふふん。あれは私のとっておきよ。飛距離は短いし遅いけど、当たれば威力は凄いんだから。でも、今はこんなこと言ってる場合じゃないわ。前衛のフォローに行かないと。」


 前方を見ると5頭倒しているようではあったがあまり戦況は良くなさそうだ。狼に囲まれている。


「まずいですね。とにかく、僕は3人の前にいる狼を攻撃します!」


 カナメはその場にしゃがみ込み地面に魔力を通した。狙うは狼の腹部。四足獣は総じて腹部に毛は生えていない。おそらくそれはファングウルフにも言えるはず。厄介なのは体毛なのだから、毛の無い箇所を狙えばいい。


「カナメくん!おかしい!狼の数が足りない!」

「え?どういう―――!!」


 顔を上げてクインティナを見る。すると、クインティナの後方から狼が飛び掛かってきているのが見えた。クインティナは気付いていない。


「石壁!」


 瞬時に生成された壁にクインティナは驚いていたが、その後に聞こえた壁への衝突音と狼の声を聞いて状況を理解する。


「回り込まれてたのね!向こうの狼の数が少ないのはそういうことね!」

「くそ!完全に分断された!」


 奇襲が失敗したことを理解したのか、さらに2頭の狼が姿を現した。1頭は負傷したとはいえ3頭の狼に囲まれてしまった。

 前衛3人を見るとこちらより形成が悪い。リーダーが出てきて4頭の狼に囲まれている。


「早く行かないと皆やられちゃう。」

「焦らないで。何か方法を考えましょう。」


 そう言ってみたものの、このように詰め寄られてしまうと厳しいものがある。なにしろ接近戦が苦手だと言っているクインティナがいるのだ。


「カナメくん、一か八か、やってみたいことがあるの。黙って見てて。」

「分かりました。」


 クインティナはそう言うと杖に魔力を通した。


「水球」


 杖から空中に伸びた魔力が空中で水の球になって狼へ射出された。しかし、木杭同様遅い。狼も難なく避けて水球は地面で破裂した。だが、この水を浴びた狼が大きく飛びのき怯え始めた。


「やっぱり、こいつら水に弱い。」

「どういう?」

「いいから、カナメくんも水を撃って!」

「え?水を撃つ?撃てないです。」

「それなら水を出して!」


 言われるがまま清掃作業の要領で水を出した。すると、狼たちは水を避けて遠ざけることに成功した。


「これで魔法使いの距離になったわ。目に物見せてやるんだから!木壁!」


 水を見て怯えている狼の下から巨大な一枚板の壁が突き上がる。これが直撃した狼は大きく跳ね飛ばされ地面に落下した。生死は不明だが動く気配は無い。

 カナメもしゃがんで地面に魔力を通す。先程狙っていた腹部への攻撃を実行する。


「石棘」


 目の前に立っていた狼2頭の腹部に石棘が見事に刺さった。これでここの狼は全滅だ。後は前衛のフォローだ。

 前衛を見ると狼がリーダー個体だけになっているが、人数が少ない。ロルフがいない。

 行方を捜すとリーダー個体の足元にいた。


「オルセン!ピーター!今行く!」


 カナメとクインティナは走り出す。ロルフがやられた?やはり短い手斧では無理があったんだ。

 リーダー個体は群れが全滅している状態を確認すると雰囲気が一変した。


「まずい!耳を塞げ!」


 ピーターの指示に従い耳を塞いだ瞬間、リーダー個体が大きな声を上げて吠えた。腹に響いて気持ちが悪い。眩暈もしてきた。

 声が止むと一瞬の静寂が訪れた。しかし、それも束の間、ピーターが弾き飛ばされた。


「ピーター!」


 リーダー個体の速度が明らかに上がっている。先程から遠めに見ていた限りではギリギリ反応できる速度だったはずだ。だが、今はピーターが反応できない速度だった。まずい。速すぎる!


「オルセン!一度距離を取れ!」


 だがカナメの言葉はオルセンには届いていなかった。オルセンはリーダー個体の一番近くにいたせいで耳を塞いでも声の影響を回避しきれなかった。そのため、鼓膜が破れ音が聞こえなくなっていた。平衡感覚も怪しい状態だ。

 そんな状態でもオルセンは攻撃を辞めようとしなかった。戦斧を振り上げ足に斧を叩きつける。リーダー個体もその衝撃に怯んだものの、大きな傷はつけられなかった。そして、オルセンも弾き飛ばされた。

 リーダー個体とカナメ、クインティナが向かい合う。

 ハッキリ言って、現状は打つ手なしだ。あの速さだ。急所である腹部を狙ったところで当たるわけがない。かといって他の攻撃手段を試しても躱されるか、当たったところでダメージにもならないだろう。


「とりあえずまた水を撃ってみるよ!」


 クインティナは先程と同様水を撃ち始めた。しかし、リーダー個体は全く動じない。水球が当たってもゆっくり歩いてくる。


「くそっ!あいつ、こっちに有効な攻撃手段が無い事を分かっていてゆっくり歩いてやがる!」


 考えろ!こっちをなめてきている今のあいつにならなにか有効な攻撃があるはずだ!


「くっ!土柱!」


 現在持っている攻撃手段の中で最も面での打撃力の高い土柱を当てる。しかし、よろめきもしない。土柱が崩れてしまう。


「それなら!木柱!」


 クインティナも続けて魔法を行使する。しかし、当たると思った瞬間には躱されている。


「嘘だろ?当たりすらしないうえに当たっても無傷なんて。」


 土柱なんて脆いから避けるまでも無いとでも言いたげだった。くそっ!余裕かましやがって!何かないか。油断しているあいつに当たるだけで何とかなる魔法は!


「⋯⋯あった。」

「え?何があったの?」

「一つだけ、あいつに当たりさえすれば形成が逆転できるかもしれない魔法。」

「なにそれ?」

「まだイメージだけで使ったことが無いから成功するか分からないし成功したらどうなるかも分からないけど、今はやるしかない。クインさん、鼻と口、隠していてくださいね。」


 カナメは両手に意識を集中させる。水を細かい粒状にして正面に噴射するイメージをする。どこまでできるか分からないが、相手の油断を誘うためには攻撃には見えないものにしなくてはならない。できる限り細かく小さな水の粒を噴射させる。イメージを具体化させていくと、それに従い魔力が手の中に注ぎ込まれていくのが分かる。このままだと危険だ。だが、ここで無茶をしなくても死ぬのなら構わない。やってやる。


「白煙」


 言葉を紡いだ瞬間、体から魔力がごっそり持っていかれた。全身に激しい倦怠感を覚えその場に膝をついた。まずい。鼻と口を塞がないと。

 目の前には細かい水の粒が煙のように舞い上がっている。前方へ煙のように広がった水が邪魔でリーダー個体がどうしているのかは見えない。だが、動いていないのは分かる。音が聞こえない。戸惑っているだろうか。周囲に静寂が広がる。


「カナメくん、これは一体⋯⋯。」


 すると、突然煙の中から激しい物音が聞こえた。


「リーダー個体が倒れたようです。」

「どういうこと?」

「魔法で作った水を飲むと味覚障害と舌の痺れを起こすのは知ってますよね?」

「えぇ。それがどうしたの?」

「これは、水で作った煙状の物なんです。ということは、これの中にいるとどうなると思います?」

「うわ。えげつないわね。つまり、これは毒の煙ってこと?」

「そうなりますね。初めてやったからどんな効果があるのか分からなかったですけど、ちゃんと毒としての効果があって良かったです。」

「だから鼻と口を塞げって言ったのね。」

「そういうことです。それじゃ、見に行きましょうか。あ、肩を貸してください。魔力疲労で立てないです」


 魔法で作った煙状のものを消すと、その中には泡を吹いて倒れているリーダー個体がいた。息が非常に弱くなっている。


「なるほど。あれを食らうと呼吸器系が麻痺するんですね。飲むと舌が麻痺するから、吸い込むと呼吸器がやられると。」

「カナメくん。こんな恐ろしい魔法、どこで思いついたの?」

「みんなが馬鹿にしているどぶさらいです。」

「え?あの作業中にこんな魔法使おうとしていたの?どれだけ街の人に腹立ててんのよ。」

「いえ、さすがにこれを街で使うつもりは無かったです。元々は、もっとこう、じょうろみたいに水を出したいなって発想から始まったんです。で、試してみたらもっと細かい粒にできそうなことに気が付いて。でもそれを試したら物凄く迷惑をかけることになる未来しか見えなかったので試せなかったんです。」

「それは正解ね。これを街中で試し撃ちなんかしたらきっと大勢死んでる。」

「ですよね。」

「で、カナメくんはこの魔法、どう思う?」

「二度と使いたくないです。危険だし、魔力凄い使うし。近くに仲間がいたら巻き込みますし。」

「そうだね。それが賢明だと思うよ。」


 こうしている間もリーダー個体は弱々しく呼吸を続けている。やはり飲んだ時同様、死なない程度に辛い状態に陥るらしい。だが、放置するわけにもいかないのでここで止めを刺すことにする。

 止めはクインティナが刺した。カナメは魔力疲労で動けず、他のメンバーは生死不明だからだ。一番嫌な役をやらせてしまって申し訳ないが仕方ない。

リーダー個体は体高150cmくらいです。馬くらいのイメージです。


白煙の魔法は、散水ホースの先に付けるノズルのイメージです。あれを更に細かい粒子状にまでしたので、そのまま漂っているだけです。あくまで水撒きの延長です。

ちなみに、水を粒子状にしたせいで魔力を大量消費しています。それはもう吐きそうなくらいです。

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