不安なパーティー
「俺はお前が嫌いだ。」
えぇ~?何言ってんのこの髭。頭おかしいんじゃないの?いきなりパーティーの輪を乱すって馬鹿なんじゃない?
遡ること10分。カナメは今回の集合場所である南門に来ていた。今回は3等級の先輩傭兵がリーダーの5人パーティーになるとのことだ。全員がソロか、パーティーから外れて単独行動といった構成のため野良パーティーのような状態だ。
今回のパーティーのリーダーの特徴については依頼受注書を受付で貰った際に聞いていた。もみあげから反対側のもみあげまで繋がる黒い髭が特徴的な人物だという。
門の前で探してみるとすぐに見つかった。あの髭はこういう時のために生やしているんじゃないかと思うくらい特徴的だ。鎧も革鎧なのだが縫い目で装飾が施されている。植物と鳥か?
取り急ぎその人物のもとへ歩いて行く。ちょうど同じタイミングで別のメンバーも合流した。これで全員揃ったようだ。それぞれの挨拶が始まった。
「オルセンだ。3等級。武器はこの戦斧だ。ソロだ。」
髭傭兵は戦斧を使うらしい。森の中で?余程膂力に自信があるらしい。
「ピーターです。3等級です。普段は剣を使いますが、今日はこの槌を使います。普段は『山猫の爪』というパーティーで前衛をしています。」
線の細い長身だ。槌を使う理由はファングウルフの体毛が硬いからか。慣れない武器でどうなるか。
「クインティナです。2等級です。名前は長いのでクインでいいです。水と木の魔法を使います。あ、木と言っても木材です。生やせたりはしません。接近戦は苦手です。あと、最近ソロになりました。」
おぉ!女性傭兵だ!初めて同じ依頼で会った!魔法使いも自分以外では初めてだ!しかも初めて聞く魔法だ!長い金色の髪を後ろで束ねてローブを着ている綺麗な女性。素敵だ。しかしなぜローブ?邪魔じゃない?
「ロルフだ。2等級で斥候をやってる。得物は普段は短剣だが、今日は手斧だ。速さを売りにしてる。ソロだ。」
小柄ゆえの素早さで敵を翻弄するタイプか。狼相手に通用するのか?
「カナメです。2等級です。石と土と水の魔法を使います。近づかれたら杖で殴ります。ソロです。」
今までゴブリン討伐時に杖で殴るところを何度も見られているからな。今更隠すことも無い。
カナメの自己紹介が終わったところで本題に入るかと思いきや、オルセンが近づいてきた。
「お前か、ゴブリンリーダーを単独で倒したとか抜かしている小僧は。」
なるほど。こいつが昨日話していた輩か。戦斧を使っているということは自分の力に自信があるのだろう。そして、それでありながらもこうやって突っかかってくるということは、ゴブリンリーダーに力負けするからだろうか。その推測が正しければ見掛け倒しにもほどがある。
「僕からそのことを言ったことは一度もありません。単独で倒したとも思っていません。ただ、一騎打ちで倒したというなら本当です。」
そしてここで冒頭の発言に戻る。
オルセンは手を腰に当て見下ろすようにして言い放った。
「俺はお前が嫌いだ。」
「あの、お言葉ですが、これから一緒に戦いに行くというのに和を乱すようなことを言っても大丈夫なんですか?」
「構わん。ファングウルフ程度、連携が無くても倒せるわ。」
うわ、自信過剰タイプか。研修中に予想外の襲撃に遭った身としては迂闊にも程があるように見える。
「そもそも、魔法使いのお前がゴブリンリーダーを倒せるわけがない。それも杖で殴り飛ばしただと?あり得ん。森の狩人が色々言っているが、怪しいもんだ。本当にお前の力で倒したというならなぜあいつらのパーティに入っていない。」
「それは方針の違いです。お誘いをいただきましたがやりたいことが違ったので入らなかっただけです。」
「お前のやりたいことってのはどぶさらいか?」
「自分の目的のために必要なことをしたまでです。その結果が2等級への早期昇級です。」
「ふん。まぁいい。いずれにしてもお前の力は当てにしていない。どぶさらいばかりしている奴の実力なんかたかが知れているわ。」
こいつ、リーダーの器じゃねぇ。別に力を当てにされないことは構わないけども、自分で確認をせず憶測だけで行動方針を立てようとしてる。
「あの、私からもカナメさんに訊きたいことがあります。」
お、女性魔法使いさんからの質問だ。魔法使い同士の質問って初めてだから気になる。
「カナメさん、杖で敵を殴るって言ってましたし、実際にそういう話を聞いたことはあるんですが、本当にできるんですか?だって、私たち魔法使いって魔法の訓練に時間を取られて他の訓練ができないじゃないですか。だからそんなに動けるわけがないと思うのですが。」
なんだ。結局疑いの目か。だいたい何なんだよ、魔法使いは接近戦は戦えませんって。そんなやつ戦闘に出ていいわけないだろ。
「そのことですか。実際動けますよ。僕は村にいた頃、父と一緒に狩りをしていましたから。生憎、剣と弓の才能は無かったようですが、杖でゴブリンを殴り飛ばす程度の力と技術はつきました。」
嘘は言っていない。ただ、剣はそこそこ使える自信はある。自信は。
「なるほど。でも、そんな環境なら3種類も魔法を使えるようになるとは思えないです。」
「いや、むしろそんな環境だからこそ3種類も使えるようになったんですよ。だって、自分の周りには石と、土と、水しかないんですから。暇なときに魔力を通して理解しようとしていれば自然とできるようになりますって。で、理解したら狩りで使って実践して。ほら、こうすれば森の中で動ける魔法使いの完成です。」
「え?いや、そうだけど。魔法ってそんなに簡単じゃないでしょ?根気よく何日も何週間も無駄とも思えるような同じことを繰り返してようやくできるようになるのに。」
「たしかにそうですけど、僕は田舎育ちなもので時間もたくさんあったんですよ。」
「おかしい。絶対おかしいわ⋯⋯。」
クインティナさん、変なスイッチ入ったぽいな。彼女はきっとたくさん練習して、いろんなことを試してみたんだろう。それこそ必死に、真面目に取り組んだのだと思う。だからこそ理解できないのだろう。
「おいお前ら、もういいか?さっさと行くぞ。」
オルセンが勝手に歩き出した。それを見て他の面々も後ろについていく。
今回は森の中に入ったら斥候のロルフが先頭を進む。戦闘になったらオルセン、ピーター、ロルフが前衛、後衛がクインティナとカナメということになった。
道中、重苦しい空気が漂う。パーティーリーダーのオルセンがあんな調子なのだ。そうなるのも仕方無い。というかオルセン、あんなだからソロなんじゃないか?
「カナメくん、はじめまして。ピーターだ。ちょっと確認をしたいんだけど、いいかな?」
「え?あ、はい。大丈夫です。」
長身のピーターだ。少し真面目そうな話っぽい。
「戦闘中の連携についてだ。オルセンがあの調子だからちょっと不安で。きみは3種類の魔法を使えるんだよね。どの程度の威力の物を使えるのかな?」
お、まともな人だ。やっぱり普段からパーティーを組んでる人は違うな。
「そうですね。石の魔法なら棘を出して刺せます。だいたい地面から1m程度の高さまでですね。土の魔法なら穴を掘ったり土の柱を出せます。穴は150cmくらいまで掘れますが、範囲を広げるとそれに比例して浅くなります。土を盛る場合も同じです。水の魔法はまだ戦闘では使えないかもしれないです。」
「なるほど。よく分かったよ。ありがとう。」
「ピーターさんは疑わないんですね。」
「まぁね。ゴブリンリーダーを倒したっていうのもさっき初めて聞いたくらい、きみのことを全く知らないからね。そんななのに人の評価なんてできないよ。」
「良かった。ちゃんと話せる人がいて。このまま無策で飛び込んでいったらどうなるかと思いました。」
「ははは。まぁそうだよね。怖いよね。相手はゴブリンより強いファングウルフだ。速さと連携で攻めてくる。しかも索敵能力は向こうの方が上だ。奇襲される可能性もある。ゴブリンたちより奥に住んでいるから、森に入ってしばらくしたら警戒するようにね。」
「分かりました。ご忠告、ありがとうございます。」
その後、ピーターはクインティナ、ロルフの2人にも同じように話しかけていった。その間、オルセンは一度も後方を気にする事も無く森へ向かって無言で歩いていた。
このパーティー、既にリーダーがピーターに代わっているような気がした。大丈夫か?
ここに来てようやく名前のある女性キャラ。




