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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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昇級

 ゴブリン討伐から2日が経った。

 討伐時の状況が激戦だったということで、ギルドから強制的に休みを入れられた。仕方ないので昨日は1日中街を散策していた。そうして分かったのは、中央広場と北門の間に貴族街があり、その中心に領主の館があるらしいということ。貴族街は雰囲気が違いすぎて足を踏み入れられなかったが、近くを歩いていた衛兵に訊いてみたら教えてくれた。そしてその時に教えて貰ったのは、貴族は傭兵が嫌いな人が多いということ。学が無く粗野な者が多く、肉体労働や魔物討伐などの仕事をしていて汚いからだという。だからあまり近づかない方がいいと助言された。

 そして、今日は研修最終日。集合場所である北門へ行く。今日の仕事は引っ越しの手伝い。結婚を期に引っ越すのだそうだ。

 今回も2等級の先輩傭兵が指揮を執って作業するわけだが、人数が少ない。一般家庭の引っ越しで屋内作業だから3人が限界なのだそうだ。

 なんだか今までで1番雑用感が強いと思いつつ作業をすることとなったが、思っていたよりも体を酷使した。まず、今の住まいが北門近くの3階部分だったのだが、転居先は西門の近くの4階なのだ。遠いし階数が多いしで面倒なのに、家財の搬出入も一苦労だった。偏に階段が狭い。ゆえに大型家具を持ち出すのが困難を極めた。

 最終的に作業が完了したのが日暮れ前。これだけの時間拘束され、肉体を酷使ししたにもかかわらず、報酬は8,000ルクだった。割に合わなすぎる。もう2度とやらん。なぜあの先輩傭兵はこれを好んで受けているのか分からない。

 この依頼を完了したことで、無事に研修終了となった。これで依頼を自由に選べる。カミュの捜索に役立ちそうな依頼はまだまだ受けられないが、とりあえずはギルドからの受けを良くする必要がある。受けの良さそうな依頼を選んでこなすことにしよう。街の評判も上げれば何かの時に役立つかもしれない。

 それからというもの、常設依頼の街の清掃とゴブリン討伐を中心に依頼をこなし始めた。時折、森の狩人と一緒に行動することもあった。

 ニコラスはあの後、仕事を再開できたが以前のように剣を振ることができなくなっていた。左腕の骨が酷い状態だったらしく、元の状態に戻せなかったのだ。ただ、それを補うために使い始めた短剣が意外にも性に合っていたらしく、以前同様活躍できている。そしてケントはゴブリンリーダーの剣をニコラスから譲り受けニコラスの代わりに戦っている。剣の腕も明らかに上がっている。ただ頭の弱い剣士ではなくなっている。

 街の清掃を行っていると、徐々に街の人から憶えられてきた。街を歩いていると声をかけられるようになった。どうやらこの仕事をこんなに受けている傭兵は多くないらしい。そのため最近では差し入れを貰うようになった。たまに食事代としてお金を渡されることもあった。

 また、依頼をこなしているうちに同年代の傭兵とも仲良くなった。ただ、彼らは剣の才能も無く、魔法も使えない。そのため何かにつけてカナメを頼ってくる。仲良くはなったが、一緒に仕事をするのは避けたいところだ。そう考えるとやはりケントは凄かったのだ。先輩傭兵のパーティーに勧誘されるだけはある。

 そんなことをして過ごし半年ほど経ったある日、いつものように受付に行って依頼完了報告を行ったところ、2階の部屋に呼び出された。何か悪いことをした覚えは無く心当たりが無い。不思議に思いつつ部屋に入ると人事担当のイアンがいた。以前、握手をした瞬間に剣を使えると見破られたことを思い出し身構えてしまう。


「カナメくん。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。別に怒ろうとしているわけじゃないんだから。」


 イアンは優しく話しかけてくるが、イマイチ信用できない。


「そうは言いますけど、人事担当の方が一傭兵を呼び出すってのは普通ではないですよね。僕、なにかやってしまいましたか?」


 心当たりは無いが確認をしてみる。


「いや、特に悪い話は出てないよ。」


 よし。説教ではない。なら少しは安心だ。


「それなら、何の用なんですか?」

「そうだね、きみに朗報を1つと、依頼を2つだね。まず朗報から。カナメくん。2等級昇級おめでとう。一応最短コースだ。これはきみの仕事の内容、成果、日頃の生活を総合的に判断してのものだ。特に凄まじいのは街の住民からの評価だ。清掃依頼後の住民アンケートではきみを名指しで褒めるものが多数見受けられている。今までも評判のいい奴はいたけど、きみほどのはいない。そんなに好きか?清掃の仕事。」


 よし!これでさらに上の等級の仕事を受けられる。そうすれば上の等級の人たちとも関わる機会が増えてカミュ捜索の糸口が掴めるようになるかもしれない。一歩前進だ。

 だが、それはそれとして訂正しなければならない。


「ありがとうございます。ただ、清掃の仕事は好きじゃないですよ?むしろ嫌いです。感謝するくらいなら街を綺麗に使えと思っています。」

「ずいぶんぶっちゃけるね。その割にはよく受けてるじゃないか。」

「好きで受けてるわけじゃないですよ。報酬額が悪くないのと水の魔法の訓練にちょうどいいので割のいい仕事だと考えて受けているだけです。お陰で水の魔法を攻撃用にできる可能性を見出したところです。」

「物騒なことを言うなよ。まぁいい。昇級の件はそういうことだ。それじゃ次は依頼の件だ。最初に簡単な方から。3日後のゴブリン討伐の依頼で新人研修の教育係をやってくれないか?」

「教育係ですか?構いませんよ。でもなんで3日後なんですか?」

「それは研修の都合だ。そいつはさっき4つ目の研修が終わってな。休暇を挟んで受けさせることになっているんだ。」


 そういうことか。たしかに慣れないうちに肉体労働を4回連続でやれば疲労も溜まる。自分も休みを入れてもらっていたしな。


「もう1つは明日の朝、魔の森へ行ってファングウルフの討伐をお願いしたい。」

「ファングウルフですか。それはまぁいいですけど……。なぜイアンさんから依頼の話が出るんですか?」


 不思議だ。この人は人事担当のはず。ファングウルフは1等級では受けられないから教育研修ではないはずだ。どういうことなんだ?


「これは本当に申し訳ない話なんだが、きみがコブリンリーダーを一騎打ちの末に倒したという話が広まっていてね。それを嘘だと言って騒いでいる輩がいるんだ。それでこの前、ケントくんがそれを言っていたやつと喧嘩寸前まで行ってね。これ以上そんな状況が続くと面倒だから、ちゃちゃっときみの実力を見せてあげて欲しいんだ。」


 なんだよそれ。ギルドが対処するのが面倒で押し付けてきただけじゃないか。


「…………それ、ギルドで対処してもらっていいですか?僕にはどうでもいい事なんで。」


 この反応は予想外だったのだろう。イアンは明らかに動揺して説得に入った。


「いやいや!ちょっと待ってくれ!君は悔しくないのかい?疑われているんだよ?嘘つきだって言われてるんだよ?それを聞いた友人が身を挺して否定してくれたんだよ?」

「いえ、別に何とも。言いたい奴には好きに言わせておけばいいと思いますよ。自分で情報も集めずに嘘だと決めつけるような奴は所詮その程度なので。ケントのことだって、あいつが勝手にやったことなので。いや、訂正しようとしてくれたことは嬉しいんですよ?ただ、それとこれとは別というだけで。」

「あーもう!それだとギルドとしても困るんだよ。我々としてはきみは期待の新人だから変な噂は無くしたいんだ。そして噂を消すにあたって、ギルドが揉み消したらまた新しい噂が立つ。それじゃ意味が無い。自力で何とかしてもらいたいんだ。そもそもきみ、自分が出張所で何て呼ばれてるか知ってるかい?」

「いえ、出張所には討伐報酬の受け取りだけでしか行かないので知りません。」

「そうだろう。きみはね、『嘘つきどぶさらい』と言われてるんだ。ゴブリン討伐の件なんか奴らは見ていないんだよ。」

「へぇ~。どぶさらいもやらない人たちが何を言ってるんでしょうかね。面白い人たちだ。」

「これでもやる気は起きないかね?」

「起きませんね。むしろ、そんな人たちと関わりたくない気持ちが強くなりました。面倒すぎます。」

「くっ……仕方ない。そしたら、報酬を上乗せする。」

「報酬を?」

「あぁそうだ。ただ、金額にするとあとでバレる可能性がある。何にするかは追って通達する。」


 追加報酬か。まぁ仕方ない。落としどころはそんなところだろう。


「はぁ……。仕方ないですね。それで手を打ちますよ。」

「済まないな、面倒なことを押し付けてしまって。」

「いえ、こちらも意地の悪いことを言って申し訳ありませんでした。」

「まったく。心にもないことを。とにかく、これで話は終わりだ。明日、よろしく頼んだぞ。」

「はい。それでは、失礼します。」


 そう言って部屋を出たが、納得いかない。面倒なこと押し付けられたものだ。力を示せって言われても、ファングウルフとなんか戦ったことないぞ。とりあえず、書庫に行ってファングウルフの情報を集めておくか。

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