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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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帰路

 一行は魔の森から街へ続く道を歩いている。気を失っているニコラスは最も体力の残っているマイクに背負われている。

 まだ日は高い。そんな時間のため、魔の森に行く人も帰ってくる人も少ない。だが、時折すれ違う人たちは一行の姿を見て驚きを隠せずにいた。

 リー、マイク、ケントはゴブリンの返り血を浴び血塗れ。マイクの背中には骨折の他にも痛々しい傷を負い意識を失っているニコラス。空の矢筒を背負うオセロット。そして剣と杖の両方を持ち、ゴブリンの耳の先端がはみ出しパンパンになっている革袋を下げているカナメ。明らかに激しい戦闘を行って帰還しているところだということが分かる。だがその表情は皆明るかった。無事勝利し、全員が生きて帰れているのだから。


「そういえばカナメ、ゴブリンリーダーを殴り倒してたけど、なにか武術でもやってるのかい?魔法使いとは思えない動きをしていたからビックリしたよ。」


 オセロットが質問してきた。答えにくいことを訊いてくる。ただ、何もしていないのにゴブリンより強い魔物を殴りましたっていうのは明らかにおかしすぎる。まぁ、剣を使えることを言わなければいいかと考えることにした。


「はい。齧る程度ですが、杖術を少し⋯⋯。」


 杖術を修めている魔法使いもいるらしいので、そういうことにしておく。


「へぇ~。やっぱりそういうのをやっていたんだね!凄かったなぁ、あれ。」

「そんなに凄かったのか?」


 リーが話に加わってきた。


「凄かったよ。ゴブリンリーダーの振り下ろした剣を杖で受け止めたと思ったら、剣を受け流してそのまま杖で殴り飛ばしたんだから。」


 アクション付きで説明している。しかし、オセロットは近接戦闘は本当にダメっぽい。妙な動きをしている。


「剣を受け止めた?ニコラスの剣はひしゃげて使い物にならなくなっているのに?杖で?しかもそれで殴った?なんで折れてないんだ?」


 リーが混乱している。まぁ無理も無い。一般的に杖は木製だからな。


「そうだよ。な、カナメ。」

「はい。杖で受け止めました。まぁ受け止めた場所は金属の装飾の部分なんですけどね。」


 カナメは杖を上げて受け止めた場所を見せる。少し傷がついている。


「本当だ。たしかに傷がついてるし擦れたような跡もある。しかし、杖なんて所詮木製だろ?これで思い切り殴ったら折れるだろ。」

「いや、実はこれ、中に鉄が入ってるんです。だからそう簡単には折れないですよ。持ってみます?」


 リーに杖を渡す。本当は仕込み杖なのだが、仕込みを解除する方法はコツがいるため仕込み杖であることがバレる心配はない。


「うお。意外と重いな。おまえ、こんなものいつも手に持っていたのか。」


 この仕込み杖、本当に重い。剣なら腰に差して歩けるのに、見た目は杖だから腰に差すわけにもいかず手に持つより他ない。お陰で手が痛くて仕方ない。


「うわ、これ見た目以上に重いな。この先っぽの金属部分で殴ってたよね。こんなので殴られたらそりゃ倒れるわ。」


 オセロットも試しに持ってみて妙に納得していた。今オセロットの言った箇所は杖の下部、地面に当たる部分のことであり、そこは地面につけても摩耗しないようにするために金属製の装飾が施されている。


「うわ、重っ!お前、なんでこんな重いの使ってるんだ?」


 なぜかケントまで杖を持ってみている。いつの間に輪に入ってきたのか。 


「なんでって言われてもなぁ。師匠に貰ったんだよ。ある日旅先から突然送ってきて『いいのがあったから買った』とだけ手紙に書いてあった。なんでなのかは知らない。」


 仕込み杖だからなのは間違いないが、詳しい理由は不明だ。カミュのことだから何らかの思惑があると思うんだが。


「お前の師匠、いい加減だな。それにしても、ずいぶんシンプルだよな。上の方も小さめの球が付いてるくらいだし。」


 ケントの言う杖の上の方、つまり剣にした際の柄頭の部分には主張しすぎないくらいの大きさの石が付いている。何の鉱石なのかは知らないが綺麗だ。ちなみにこの鉱石に魔力を通すことはできなかった。


「まぁ駆け出しの新人傭兵が派手な杖を持っていたらおかしいだろ?だからこれでちょうどいいんじゃないか?」


 師匠をいい加減と言われたのは納得いかないが、碌な説明も無かった以上そう思われても仕方ない。ケントは執行猶予期間ということにしておこう。


「師匠からの贈り物なのか。それなら大切にしないとな。」


 ケントがカナメに杖を返却すると、リーがそのように言ってきた。


「そうなんです。大切なものなので、なるべく傷つけたくないんです。今回は仕方ないですけど。」


 杖を見つめながら返答する。

 ふと横を見るとマイクが寂しそうにこっちを見ていた。杖を見たかったようだ。


「あ、マイクさん、もし杖を見たければ後でお見せしますよ。」


 マイクの顔に笑顔が戻った。


「お、ありがとう!みんなが見ていて気になっちゃってな!ところで、お前が使えるのは杖だけなのか?さっき槍も使ってなかったか?」

「あ、槍も使ってたよ。魔法で石の槍を作って攻撃してた。」

「おいマジかよカナメ!お前なんでもできんじゃん!」


 マイクが訊いてきたことによりオセロットが思い出して再びアクション付きで説明し始めた。なんであんな不思議な踊りみたいになるんだ?

 ケントはケントで目を輝かせてるし。


「で、カナメは本当に槍も使えるのか?」


 リーだけは真面目な顔で訊いてきた。

 でも、これはあまり言いたくない。言いたくないけど、槍も使えるという話になるとややこしくなる。

言わなきゃダメか。


「使え……ないです。」

「え?でもあの時すごくカッコ良かったよ。」


 やめろ!やめてくれ!褒められる方が恥ずかしい!


「いえ、あれは……その……石の魔法で槍が作れるようになったばかりの頃に、"カッコいい槍の使い方”を考えて遊んでいた時期がありまして……。その時の動きが出たのかと……。」


 自分の黒歴史を話したせいで顔から火が出そうなほど熱い。

 周囲の空気が一変したような気がする。


「あ、そういう時期のやつだったんだ……。やけに綺麗な動きをしていたから勘違いしちゃったよ。」


 オセロットがフォローしてくれているようだが、フォローになっていない気がする。むしろ抉られた気がする。


「そんなにいい動きをしていたんだったら見せてくれよ!」


 ケント、お前……。まだそういう時期の人か?俺の恥ずかしさに気が付いていないだけか?とにかくこいつにはちゃんと言わなきゃ伝わらん気がする。


「うるせぇケント!こっちは恥ずかしいんだよ!これ以上俺の黒歴史を掘り返すな!」

「なんだよ~。いいじゃんカッコいいんだったら。オセロットさんのお墨付きなんだし。」

「嫌なものは嫌だ!人に見せるようなものじゃないんだ!先に行くぞ!」


 恥ずかしさのあまりケントを振り切るようにして歩き始めた。ケントは引き続き見せろと言っているが知ったことではない。さっさと街に入ってしまえば言われることも無いだろう。

 ケントを振り切るために先に歩いてきてしまったが、森の狩人はどうだろうかと振り返ると、2人の様子を見て笑っていた。


 街に着くと、門番の衛兵がニコラスの様子を見てすぐに医務室へ運んでくれた。医務室には専属の医師がいるとのことだ。魔の森が近いため、負傷した傭兵をすぐに治療できるようにこのような対策がとられているのだとか。

 南門の医務室にニコラスを預けた一行は傭兵ギルドの解体用倉庫へ向かう。そこではゴブリンの討伐証明部位を渡した。ゴブリンの耳が入った革袋をカウンターに置くと担当者が驚いた。


「おい、どうしたんだこの量は!スタンピードの前兆か!?」

「いや、ゴブリンリーダーに襲われた。最初に倒したゴブリンが仲間を呼んだからその場を離れて、だいぶ時間を空けてその場に戻って討伐証明を取っていたら囲まれた。待ち伏せされていたんだろうな。」

「お前ら、それでよく帰ってこれたな。」

「あぁ。死ぬかと思ったよ。新人のこいつらがいなかったら帰ってこられなかっただろうな。」


 リーがカナメとケントを見ながら担当者に説明をした。


「へぇ。お前ら新人なのか。よく頑張ったな!そうなると、リーよ。ちゃんと高評価点けてあげないとダメだぜ?」

「当たり前だろ?ちゃんと評価して、しっかり報告するさ。」

「良かったなお前ら!うまくいけば等級上がるかもしれないぞ!」

「いや、それはまだだな。研修中だもんでね。」

「そうか。それは勿体ねぇな。まぁ規則だからしょうがねぇな。」

「あぁ。まぁ、どうせこいつらならすぐ2等級にはなるだろ。じゃ、ギルドの方に行ってくる。」

「おう。ただその前にお前ら全員着替えてから行けよ?そんな恰好で行ったら追い出されるぞ。」

「……たしかにな。それじゃ、3時間後に今朝と同じ場所に集合だ。各自着替えてこい。それと、俺とマイクとケントはそこの井戸で頭流していくぞ。返り血で大変なことになってる。」


 リーの指示により一時解散となった。カナメの汚れは他のメンバーに比べると大したことが無いため、一足先に宿屋へ戻ることにした。

カナメ12歳。石槍を作って振り回して遊んでいたところ、父にあっさり敗れる。

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