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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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攻防

 1時間程休憩した一行は、再び森の中へ入っていった。先程ゴブリン2匹を倒した地点を目指す。

 仲間として呼ばれたゴブリンはしばらくその場に留まるが、仲間を呼んだゴブリンがいない場合はしばらくするといなくなるのだという。今回はその時間を考え、少し長めに休憩することでゴブリンたちをやり過ごそうとしたわけだ。

 逃げてくるときに通った道を再び歩き始める。念のためゴブリンが近くにいないか警戒しながら進んだ。

 そのせいで逃げるときは5分程度だった道に30分かけることとなった。

 途中でゴブリンに遭遇することも無く、2匹のゴブリンが倒れている場所に到着。辺りを見回してもゴブリンの姿は見えず、声も聞こえなかった。

 オセロットは頭を射抜かれたゴブリンのもとに行くと、その頭から矢を引き抜いた。矢の損傷状態を確認し再利用できると判断したのか、血を拭って矢筒へ入れた。

 リーはカナメとケントに討伐証明についての説明を始めた。


「いいか。ゴブリンの討伐証明は右耳だ。この尖った耳を斬り落として持ち帰る。ただ、間違ってもギルドの受付には持っていくなよ。狩りをした際に狩った獣を搬入した倉庫に持っていけ。そこで解体担当者が確認したうえで受注書に依頼達成の判を押してくれるから、それを持って受付に行くんだ。たまにそれを忘れた新人がゴブリンの耳を受付に持っていってこっぴどく怒られてるのを見ることがあるが、その後しばらくは街の清掃作業を格安でやらされてるな。そうなりたくなければ間違えないように気を付けてくれ。」


 カナメとケントはそれぞれ1匹ずつ右耳を斬り落とした。耳だけとはいえ血抜きをすべきかと思っていたらリーが自前の革袋にそのまま入れるよう促してきた。そういうことならと遠慮なく入れさせてもらった。


「ゴブリンの死体はそのままにしておいて大丈夫だ。放っておけば死肉を好む動物や魔物に食われて1週間程度で無くなる。じゃ、血の臭いに惹かれて厄介な奴が来ないうちに移動するぞ。」


 これに賛同するように周囲の警戒をしていたマイクとオセロットは動き始めた。しかし斥候役であるニコラスだけは警戒を解いていなかった。表情が優れない。


「どうした、ニコラス。何かあったか?」


 リーは声をかけると同時に警戒態勢に入る。マイクとオセロットも同様だ。カナメとケントはとりあえずマネをして警戒してみる。


「リー、まずい。東からゴブリンがこっちに歩いてきてる。かなり多い。急いでもと来た道を戻るぞ。」

「そうか。仕方ないな。またあの道を戻るのは思うところが無いわけではないが、止むを得まい。一旦森を出たら別のルートで中に入ってこよう。」


 カナメとしても同じ道を行ったり来たりしているだけで依頼をこなしている実感が無い。だからと言って無理をする理由にはならないので森の狩人の後ろからついていくことにした。

 すると、今来た北側の道から1匹のゴブリンが顔を出した。そしてその後ろからさらに5匹出てきた。


「まずい!北側の退路を塞がれた!西側に行くぞ!」


 だが、リーの指示よりも先に西側からゴブリンが5匹現れた。


「なんだと?西側のゴブリンも5匹だと?ゴブリンが集団戦術でも使うというのか!くそっ!全員戦闘準備!オセロットとカナメを囲むように円陣を組め!」


 そして、遂に東と南からもゴブリンが集まり完全に囲まれてしまった。しかも続々と集まってくる。最終的に40匹程にまでなっていた。だが、ゴブリンはなぜかこちらの様子を窺ってその場から動かない。その時、カナメは一番最後に姿を現した南側の集団の中に一際目立つゴブリンがいることに気が付いた。


「オセロットさん、あのちょっと背が高くて剣を持ってるゴブリン、何か分かります?」


 共に円陣の中に入っているオセロットに訊いてみる。


「なに?剣を持ったゴブリン?⋯⋯あれは!まずいぞ!!ゴブリンリーダーだ!!気をつけろ!」


 オセロットは全員に聞こえるように注意を促す。


「ゴブリンリーダーですか?」

「ゴブリンとホブゴブリンの中間みたいなやつだ。個の力はゴブリンソルジャーやゴブリンメイジには劣るけど統率力が高い。今みたいに集団戦術を使うことがあると聞いたことがある。」


 ということは、俺等はゴブリンの策にハマったと。さながら戦場で伏兵に囲まれた馬鹿な傭兵といったところか。馬鹿にしやがって。目にものを見せてくれる。


「皆さん、奴らが動き出しても絶対に前に飛び出さないでください。その場で待機していてくださいね。」


 カナメはそういうとしゃがみ込んで地面に両手をつけた。


「ちっ!言われなくてもそうするよ!ここで陣形を崩したらやべぇからな!」


 マイクが両手に斧を構えながら答えた。


「そうですね。ありがとうございます。ところでケント、さっきからケントの声がしない代わりに剣のカタつく音が聞こえるんだけど、大丈夫か?」

「ば⋯⋯ば⋯⋯ば⋯⋯馬鹿言うんじゃねぇ!俺は大丈夫だ!武者震いで手が震えているだけだ!おお、お前こそ大丈夫なのかよ!」

「それは良かった。俺のことは気にしなくていいよ。いや、やっぱり守ってくれると嬉しいな。」

「お前ら、ふざけているのもここまでだ。ゴブリンリーダーの様子が変わった。」


 南側の集団と対峙しているニコラスがいよいよ戦闘が始まる予兆を感じ取った。

 ゴブリンリーダーを見るとおもむろに剣を上に掲げ始めた。いよいよ襲い掛かってくる。カナメは目を閉じて地面に集中した。


「ギョゲェェェェェーーーーーーーー!!!!!!」


 ゴブリンリーダーが剣を振り下ろしながら咆哮すると、一斉にゴブリンが襲い掛かってきた。目を閉じているカナメにも足音が聞こえ、地面から振動が伝わってくる。

 先程からカナメは地面に魔力を通している。地面に手を付けることで、地面から発生させる魔法の発生速度が格段に上がることを経験として知っている。しかし、これだけの範囲に魔法を展開したことはない。おそらく展開することはできる。だが、その威力は期待できないだろう。土を掘っても盛っても数cm程度で躓くかも怪しい。石で棘を作ることはできないだろう。水はもっての外だ。ではどうするか。


「石菱」


 カナメが魔法の名前を口にすると、自分たちの周囲の地面に光の輪が浮かび上がり、そこから石で出来た撒き菱を作り出した。棘は無理でも尖った小石程度なら作れる。相手は裸足だ。これを踏めば多少なりとも怯むはずだ。そして怯みさえすれば前衛がなんとかしてくれる。


「グゲァーーーー!!!」

「ゲギャァ!」

「キャエェ!」


 カナメの目論見通りゴブリンたちは足に石が刺さったことで混乱に陥った。その隙を見逃すわけはなかった。前衛は一斉に目の前で騒いでいるゴブリンに斬りかかった。混乱しているゴブリンの集団は前衛により早々に崩壊し始めた。石菱を踏むことの無かった後方のゴブリンにはオセロットが的確に矢を当てている。ケントもしっかり動けている。思っていたよりも楽に切り抜けられそうだ。

 だが、そう簡単にことは進まない。奥に控えていたゴブリンリーダーが剣を携えて突貫してきた。円陣を崩せばまだ勝機があると踏んだのだろう。

 これをニコラスが止めようとして剣を交えた。しかし、ゴブリンリーダーの膂力はニコラスを上回っていた。初撃には突貫してきた際の勢いも乗っている。薙ぎ払うかのような一撃を剣の腹で受けることでなんとか防ぐことは出来たものの、横に弾き飛ばされゴブリンの集団の中に消えてしまった。円陣に穴が開いた。

 これを好機と判断したゴブリンリーダーはオセロットとカナメに襲い掛かる。他の前衛たちはこの事態に気がついてはいるが、前方のゴブリンたちの混乱が収まってきてしまったせいで後方に手が回らない。


「オセロット!カナメ!逃げろ!」


 リーがゴブリンを斬り捨てながら指示を出す。

 とはいえ、この場に逃げる場所など無い。南側にはゴブリンリーダー、その他は前衛とゴブリンによって塞がれている。

 ゆえに、オセロットは距離を取りつつゴブリンリーダーに矢を射ろうとした。しかし、その距離すらまともに取れない。この状況でオセロットか有効な攻撃手段を持っていない事をゴブリンリーダーが悟ってしまった。

 ゴブリンリーダーはオセロットに肉薄し剣を振り下ろした。だがオセロットはその場の狭さゆえに回避ができない。斬られる。誰もがそう思った瞬間、ゴブリンリーダーの剣が止められた。


キィィィィン!!


 激しい金属音が鳴り響いた。ゴブリンリーダーの剣とカナメの杖がぶつかり合っている。


「お前、俺を無視するなよ。魔法使いだから近くにいたら怖くないとでも思っているのか?」


 随分と舐められたものだ。腹立たしい。

 たしかに剣術に自信はない。だが、オセロットよりは近接戦闘ができる自信はある。魔法で対抗することもできる。今、他の者が対処できない以上は自分が動くしかない。


「来いよ。俺が相手してやる。」

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