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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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魔物との戦闘

 南門を出た一行は、魔の森へ続く道を歩いていた。前方には先に門を出ていた傭兵集団が見える。慣れているのか道中でふざけて遊んでいるように見える。対して、こちらはケントが緊張し始めていた。


「前にいる人たち、リラックスしてますね。」


 ケントの緊張が移ってしまいそうなのでリーに話しかけることにした。


「あーあれな。リラックスできているのはいいんだけど、絶対マネするなよ。こんな所で無駄に疲れるわけにはいかないんだから。」


 なるほど。いざ戦闘となった時に疲れていて動きに精彩を欠くことになってしまっては意味がない。また、大きな声を出していると魔物が突然襲撃してくるかもしれない。


「たしかに、いろいろ考えると危険かもしれないですね。とはいえ、緊張しすぎて動けないよりは良さそうですけど」


 チラリとケントを見遣る。明らかに顔色が悪くなっている。


「な、なんだカナメ。俺は緊張なんかしてないぞ。戦闘のイメージトレーニングをしていただけだぞ。」


 見たこともない相手のイメージトレーニングに何の意味があるのか。思わず疑いの目で見てしまう。


「だ、大体なんでお前はそんなに落ち着いてるんだよ!魔物も見たことないんだろ!?」


 そう言われてみれば確かにそうだ。ケントが緊張していなければ自分が緊張することも無かったと思う。


「さぁ?なんでだろ?狩りと同じ感覚なのかもな。でも、ケントが緊張しすぎていてこっちも緊張しそうなんだよな。」

「たしかに、ケントは緊張し過ぎだな!もっと楽にしてないと体が持たないぞ!」


 ニコラスがケントに肩を組みながら会話に参加した。ニコラスなりに緊張を解そうとしているのだろう。


「斥候をやるときに緊張していたら動きが固くなって上手くできなくなるぞ。もっとリラックスしようぜ。そうだ、お前、女はいるか?」


 ニコラスはケントに恋愛の話をし始めた。ケントは明らかに動揺している。緊張など吹き飛んでしまっていそうだ。さすが先輩だ。緊張の解し方をよく心得ている。しかしケント、故郷に女を置いてきたとか随分なことを言っているじゃないか。今すぐ故郷に帰れ。


「カナメはどうなんだ?」


 ニコラスの標的がこっちに変わった。平等に振る気か。


「僕の故郷には同年代の女の子がいないので、色恋とは無縁でした。1番年の近い人が5歳上か、5歳下かですからね。既婚女性とか幼い子相手にそんな気は起きないわけで。」

「⋯⋯⋯⋯。お前、大変だったんだな。だからやることなくて魔法を頑張ったのか。」


 ニコラスが絶句した後に伏目がちにそんな事を言ってきた。たしかに恋愛対象はいないし、狩り以外でやることも殆ど無いから魔法の訓練に時間を費やしていたけども。そこまで哀れまれることではないと思う。


「まぁ、なんだ。ここに来たんだからいい出会いもあるはずだよ。」


 ケントも急に上から目線で慰めてきた。なんか無性に腹が立つ。

 リーとマイクは目を合わせないようにしてるじゃないか。そんなに気を遣われるようなことなのか?


「一応言っておきますが、嫁探しで街に出てきたわけではないですからね。」


 出会いを求めて街に出てきたと思われると嫌なので釘を差しておく。そこまで切羽詰まっていない。


「分かった分かった。まぁ、もしこれからそういうことがあるようならいつでも相談に乗るぜ!」

「俺にも相談してくれよ!アドバイスするぜ!」


 ケントとニコラスがそう言ってくるが、2人ともただ面白がって話を聞きたいだけなんじゃなかろうか。少々イラッとくる。

 この後はカナメに話を振られることはなくニコラスとケントは恋愛の話で盛り上がっていた。おかげでケントの緊張は解れ、斥候の相棒となるニコラスとも打ち解けたようだ。やり方には文句を言いたいが、最善の結果を齎している以上は的確だったと認めざるを得ない。

 しばらく歩いて森の中に入った。ゴブリンは多くの場合森の端からそう遠くない場所に出てくるらしい。慎重に足跡を探しながら進む。ゴブリンは素足で移動するのだという。足の形状は人間に似ているため、地面に残る足跡も人間の物によく似た形になるとのことだ。

 周囲を警戒して進むこと10分。ニコラスが足跡を見つけた。ニコラスとケントがしゃがんで足跡を確認している。ケントが指導を受けているようだ。カナメも気になって後ろから覗き込むと、そこにはたしかに人間の足跡のような物があった。その足跡は目の前の獣道に続いている。


「この足跡は恐らくゴブリンのものだ。人間にしては小さい。この感じからするとわりと新しいものだ。獣道に入っている。追いかけるぞ。突然の遭遇には注意しろ。」


 ニコラスが指示を出す。全員目立たぬよう、頭を低くくして音を立てずに歩く。一行に緊張感が漂う。

 しばらく進むとニコラスが手を挙げた。視線の先には背中を丸めながら常に膝を曲げたような状態で二足歩行する異形の生物がいる。ゴブリンだ。2匹いる。肌が緑色で森の中だと保護色になっているせいで遠くからではよく見えなかった。妙な声を出していなければ気が付かなかったかもしれない。


「ゲェゲェ」

「ギョゲェ」


 何を言っているのか分からないが、2匹で会話でもしているようだ。

 目と鼻の先でなんとも異様な光景が繰り広げられているが、森の狩人は動じない。経験が違う。お互いが目配せをした後、リーがカナメとケントに指示を出す。


「カナメ、ケント。お前たちはゴブリンを見るのは今回が初めてだ。だからこの2匹は俺らが手本として仕留める。次に発見したゴブリンはお前らにも参加してもらう。今回はゴブリンがどんな生き物なのかを憶えるんだ。」


 活躍の場を失ったケントは若干不服そうにしていたが、言われていることの正当性も分かるのか文句は言わなかった。カナメも異論は無かった。


「じゃあ行くぞ。3、2、1!」


 合図と同時にリーとマイクが獣道の茂みから飛び出した。ゴブリンは物音に気が付きこちらを見るが、動揺のせいか動きが硬い。1匹は回避に失敗してその腕をマイクの斧に切り落とされた。もう1匹は足がもつれて転んだことにより無傷での回避に成功していた。しかし、そのゴブリンにはオセロットの容赦無い矢が突き刺さり絶命した。

 腕を落とされたゴブリンは背を向けて逃げ出していたが、その背中にニコラスが切りかかった。しかし、切られる直前にゴブリンが大きな声で叫んだ。


「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョ!!!!」


 叫んでいる途中でニコラスによりゴブリンは切り捨てられた。


「おぉ。森の狩人、さすがだな。連携が出来ていて手際がめちゃくちゃいいじゃねぇか。」


 ケントが森の狩人の動きを見て目を輝かせている。

 だが、それとは対照的に森の狩人の面々の表情は硬い。焦りを感じる。


「おい、やばいぞ。仲間を呼ばれた。」


 リーが普段よりも低い声で呟き、そして大声で全体に指示を出す。


「お前ら!今すぐここを離れるぞ!走れ!」


 言うや否や森の狩人の面々は血相を変えて来た道を走り始めた。これを見てカナメとケントも走り始めるが、状況が飲み込めない。


「リーさん!どうしたんですか!?」

「ゴブリンに仲間を呼ばれた!詳しくは後だ!まずは逃げる!」


 そのまま走り続け森の外へ出たところでリーに改めて問いかけた。


「リーさん、ゴブリンに仲間を呼ばれるのは危険だっていうことは分かります。もしも同数のゴブリンが相手なら苦戦を強いられることもあるでしょうから。でも、皆さんの今の逃げ方はそんな生易しい感じではなかったです。どういうことなのでしょうか?」


 座って休んでいたリーはカナメを見上げながら答えた。


「ゴブリンが仲間を呼ぶっていうのはな、2~3匹増える程度じゃないんだ。その辺をうろついているゴブリン全部を呼びつけるから、10匹を超えることなんかザラだ。そんな数を相手に無傷で勝てる気がしねぇ。」


 説明を聞いて納得した。狭い森の中で10匹以上のゴブリンに包囲された場合、死ぬことはないだろうが重傷を負うリスクが跳ね上がる。怪我をすると仕事はできなくなるし、治療にも費用がかかる。装備品が破損すればその修理や交換にも費用がかかる。生活が成り立たなくなるので是が非でも避けなければならない状況だ。必死になるのも頷ける。

 リーの説明を受け納得していたところ、マイクがやってきた。


「リー、すまねぇ。俺が仕留め損ねちまったせいで。」

「気にするな。相手に防御されちまったんだろ。俺なんか空振りしてるんだぞ。人のこと言えねぇって。」


 たしかにリーの空振りは残念だった。ケントはそれに対するフォローが良かったと言っているが、空振りしなければフォローは不要だ。


「とりあえず、しばらくしてほとぼりが冷めたらさっきの場所に行こう。ゴブリンの討伐証明を取らないとな。それまでは一旦休憩だ。」


 思わぬ形での休憩となってしまったが、これもまた魔物相手の依頼の難しいところなのだろう。これを教訓とするなら、ゴブリンは一撃で仕留めるか喉を潰せということか。そもそも喉を器用に狙えるかは怪しいものだが。

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