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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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初仕事

 翌朝、中央広場の噴水前に行くと4人程の集団が見えた。他に集団が無いことを考えると、これが街の清掃の仕事をする傭兵たちなのだろう。

 集団の近くに行くと何人かは見知った仲のようで談笑していた。そのうちの1人がこちらに気が付き声をかけてきた。


「あ、きみ、清掃依頼を受けた新人さん?」


 どうやら同じ依頼を受けた先輩傭兵のようだ。この依頼を何度も受けているのかこなれた感じがある。ただ、少し身なりが悪い。


「はい。カナメです。こちらが受注書です。」


 昨日ギルドで渡された受注書を渡す。


「おう。俺は2等級のジャックだ。今日は俺がリーダーだ。よろしくな。」


 ジャックと名乗った男はカナメから渡された受注書を確認すると、今回のメンバーを集めた。


「さて、全員揃ったから今回の仕事について説明するぞ!新人さんもいるから少し詳しく話すことにする。今日やるのはここから見えるあの裏通りだ。最近汚れが目立つようになってきたということで役所から依頼された。路面の清掃と排水溝の清掃を頼む。出てきたゴミは下水道に続く穴に流してくれ。清掃道具はギルドから借りてきた。各自持っていってくれ。とりあえず12時までやって、終わっていなければ昼休憩後に再開だ。仕事が終わったら受注書を返却するから、それを持ってギルドに行って報酬を貰うように。そして、新人のケントとカナメは俺に着いてこい。やり方を教える。その後はそれぞれで作業してくれ。以上、作業開始!」


 説明を聞くとそれぞれで動き出した。2人は道具を持って早速裏通りへ歩いていく。そしてケントと呼ばれた男とカナメはジャックのもとに集まった。


「で、2人とも、この仕事は初めてだな?」


 そんなことよく分かったなと思ったが、そもそも仕事の評価をしなければならない立場なのだし、初めのうちは同じような仕事は回さないと言われていたのを思い出した。それなら知っていて当然だ。


「はい。なんで分かったんですか?」


 だがケントはそのことを忘れているのか考えていないのか、素直に質問している。


「当たり前だろ?ギルドから新人教育の依頼が来てるんだから、清掃の仕事が初めてに決まってんだよ。」


 なるほど。新人教育の依頼なんてものもあるのか。きっと昨日の夜に通知が行ったのだろう。


「とりあえず、2人にはこの箒と布を渡しとく。布は鼻と口を覆うといい。だいぶ舞うからな。」


 だいぶ舞う、だと?昨日見たアレがか?絶対にまずい。

 想像するだけで恐ろしくなったカナメはすぐさま布を巻いた。それを見ていたケントは不思議そうにしながらカナメを真似る。

 そこでふと気になったので訊いてみた。


「あの、もしかして、先輩方の服が少し汚いのって、それの対策ですか?」


 ジャック以外の先輩傭兵の身なりも良くなかった。最初は2等級の傭兵は稼ぎが悪いのかと思った。だが、アレが舞うという話を聞いたら、その対策で捨ててもいいような服を着ているのではないかと思いなおした。


「そういうことだ。この仕事でお前らみたいなキレイな服で来るのはもったいないからな。もっとも、女性傭兵はあまりみすぼらしい格好はできないとかで俺等みたいな服は着ないんだがな。」


 たしかに女性で穴の空いた服とか着ていたら色々まずい気がする。まぁ個人の感覚次第なのだろうが。


「じゃ、2人とも行くぞ。あの2人にいつまでも任せてるわけには行かないからな。」


 カナメはジャックに連れられて裏通りへ入る。やはり裏通りは臭い。それはそうだ。あんな物を道に撒いているのだから。昨日は1軒しか見ていないが、路面を見る限りどこの家も同じようにやっているようだ。もしかしたら今日も落ちてくるかもしれないと思うと怖くて窓の下を通れない。

 ジャックは作業の手順や注意事項を教えてくれた。道の中央部分から端にある排水溝までゴミを掃き、排水溝に溜まったゴミ等を木製の板を使って押し出していく。その先には下水道へ続く穴があるので、そこへ流し込むというものだ。箒を使う際は、近隣住民に配慮して水を使うことが推奨されているらしい。たしかにアレが家の中に入ってくるなんて嫌だ。

 一通りの説明を聞き、ジャックの指導のもと実際に作業を行ってからそれぞれで別れて作業を開始した。

 ジャックは説明を終えると1人で井戸へ向かった。ひたすら水を撒き続けるつもりのようだ。そのような作業、いつまで体力が持つだろうか。

 とりあえず指示されたように水を撒かれた場所からゴミを掃いていく。だが、思った以上に路面にこびりついていてうまく掃き取れない。

 周りを見ると、先輩方はいつの間にか大量のバケツに水を汲んできてきて惜しげも無く流している。ケントはカナメと同じような状況で苦心している。やはり新人はうまくできないようだ。思っていたより難しい。

 その後しばらくはジャックが水を撒き、そこを重点的に清掃するという作業を繰り返した。ジャックも少し辛そうだ。基本に忠実にやろうと思って黙って作業していたが、そろそろ好きにやらせてもらおう。何より水を待つ時間がもったいない。

 ジャックが離れたタイミングで手を前に突き出して魔力を集中させる。手を覆っている淡い光が水へと変化して路面に流れ落ちる。水が路面に落ちたことにより飛沫が舞い上がる。こうなることが分かっていたから手を前に出したのに、思っていたよりも跳ね返る水が多くて脚に少しかかってしまった。

 だが、これはいい。遠慮なく水を撒けるから作業が捗る。そして今まで殆ど使ってこなかった水の魔法の練習にもなる。

 少し座って水を出してみる。飛沫は飛ばないのでこれだけでも十分そうだ。だが、高い所から水を落とした方が汚れを落としやすいので、低い所からの水では効率が悪いように感じる。

 そこで、水の勢いを強くするようにイメージして水を作ることにした。森の中の川を思い出す。石と石の間を流れる川の水のような勢いにしたいと考え、イメージする。

 立ち上がって手を斜め下に向けて魔力を集中させた。その瞬間、手から勢いよく水が噴き出した。あまりの勢いに驚いて魔法を解除したが、水の流れた箇所は汚れが流されていた。これはいい。手応えを感じてにやけてしまった。

 その場でニヤニヤしていると、後方から頭を引っ叩かれた。後を見るとそこにはケントがいた。


「痛っ!ケント?何すんだよいきなり!」


 突然のことで訳がわからず食って掛かってしまった。


「うるせぇ!それはこっちの台詞だ!俺等は掃除しに来てんだぞ!なに汚してんだ!」


 ケントは物凄い剣幕で怒っている。ただ、心当たりが無さすぎて何を言っているのか分からない。


「汚す?汚してなんかいないぞ?」

「黙れ!こっちが必死に掃除してるときに、よりによって道の真ん中で⋯⋯。恥を知れ!」


 何を言っているんだ。意味が分からないぞ。道の真ん中で?恥を知れ?⋯⋯ん?まさか⋯⋯。


「お前、まさか勘違いしてないか?こんな所で用なんか足さないぞ。」


 きっとこういうことだろう。水が出た瞬間をどこからか見ていて排尿したように見えた、と。


「誤魔化せるわけないだろ!そうでもなきゃこの水の跡は説明つかないだろ!」


 いや、水の跡は掌ほどの太さのものが数mは伸びてるのだが⋯⋯。


「こんな太い訳がないだろ⋯⋯。魔法だよ魔法。」


 説明するのが面倒になりその場で水を出した。それを見たケントが目を丸くする。


「おまっ!魔法使いだったのか!てか水を出せるなら最初から出しとけよ!」


 もっともな意見だ。反論できない。


「そうなんだけど、最初は基本に忠実にやりたくてさ。それに、この通りの清掃となると水がどこまで必要になるか分からない。途中で魔力疲労や魔力切れなんか起こしたくなかったから。」

「魔力疲労?魔力切れ?」


 ヤバい。魔法の基礎を全く知らないらしい。予想外すぎる。


「要するに、魔法を使いすぎるとぶっ倒れるから節約したいってことだ。」

「なるほど!そういうことか!なら仕方ないな。疑って悪かった。」


 意外にも簡単に自分の非を認めて謝罪してきた。案外良いやつなのかもしれない。頭は弱そうだけど。


「ところでさ、その水ってどのくらいの距離飛ばせるんだ?」

「さぁ分からないな。前に水を出したのもさっきが初めてだからな。ちょっと試してみるか。」


 そう言うとカナメは両手を前に出して、先程と同じイメージで水を放出した。さっきの2倍の水量になったが、思っていたより魔力は消費しないようだ。


「うん。このままもうしばらくは水を出せそうだ。」

「お、それならちょっとあの辺に水を撒いてくれよ。これだけの量があの勢いで当たれば汚れが弾き飛ばせて掃除もしやすいからな。」


 目の前の路面に再び水を撒き始めたところ、ジャックがバケツに水を汲んで戻ってきた。そして目の前の光景を見て唖然とした。


「お、おい、そりゃぁ⋯⋯一体⋯⋯。」

「あ、ジャックさんおかえりなさい。魔法で水を出してみたら思ったより遠くに水を出せるし意外と魔力が持ちそうなんですよ~。」


 カナメは笑顔で迎えた。ケントは無言で作業を続けている。


「お、お前、そういうことができるのは先に言えーーー!!!!」


 この後、ジャックや他の先輩方から怒られたものの、水の魔法で作業を行うことにより作業効率が格段に上がった。カナメが水を出し、他の4人が水の撒かれた箇所を重点的に掃いた。排水溝に溜まったゴミ等も水の魔法で押し流したり、水で緩くなったものを木の板で押し流したりした。

 結果、依頼された区域の清掃は12時までに終了。早々にギルドへ行って仕事の完了を報告すると、受付の方が目を白黒させていた。

 この依頼を完了したことで得られた報酬は10,000ルク。2等級ならもう少し貰えるらしい。

 とりあえず生活していく分には過不足無い程度の報酬だ。しかし傭兵としての武器防具を揃えることを考えると足りない。となると、やはりもう少し実入りのいい依頼を受けねばならない。自分の目的を達成させるにはまだまだ先が遠いことを実感した。

カナメくんが同世代と話す最初の話。

そして水の魔法が成長する回。

なのにいいのか、こんなに汚い話で。

でもさ、中世の街の汚さは書いておきたかったんだよ。そしてケントくんとお話するタイミングが分からなかったんだよ。だから許して。


ちなみにケントは健人でもいいしKentでもいいです。

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