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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
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宿の確保と下見

「カナメさん、このタグがあれば傭兵として仕事ができるようになるわけですが、最初の5回くらいは等級が上の方が必ず同行します。2〜3等級の方でも受けられる1等級の依頼があるので、必ずそれを受けていただきます。先輩傭兵が5回『問題無し』と判断した場合は、その次から自由に依頼を受けられます。とはいえ、同じような依頼を5回連続で受けても意味は無いので、依頼内容はこちらで指定します。まず、カナメさんには街の清掃をしていただきます。明日の午前8時に中央広場へ集合してください。」


 矢継ぎ早に説明された後、依頼受注書なる紙を渡された。これを現場に来ている上級の傭兵に見せるようだ。

 この依頼は街に不慣れなカナメにとっても有り難いものであった。カナメはこの街に不慣れで道が分からない。そのため、この依頼で街の大通りだけでなく裏路地を知ることができるし、その地区の特色も把握できる。田舎者には非常に優しいものだと思えた。

 この依頼の話を聞いて帰ろうとしたが、1つ重要なことを忘れていた。


「あ、すいません。1つ教えていただきたいのですが、提携している宿屋とかありますか?今日からの宿泊先を探しておりまして。」

「なるほど。そういうことでしたら、新人傭兵の方にお勧めなのが、ここから歩いて5分ほどの所にある『狼の宿』か『銀熊(ぎんゆう)荘』ですね。2軒とも当ギルドを介してであれば1泊5,000ルクで宿泊できます。両方とも新人の方からの評判は良いですよ。」


 ん?銀熊?銀熊だと!?カミュのパーティメンバー、銀熊(ぎんゆう)のギンガ!?


「え!?銀熊ですか!?ギンガさんがやってるんですか!?」


 まさかこんな所でその名を聞くことになるとは思わなかったため、思わず勢い込んで訊いてしまった。受付の方が驚いている。


「え、えぇ。銀熊のギンガさんの2つ名から取った名前です。でも、ギンガさんがやってるわけではないですよ。ギンガさんのファンの方らしいです。」


 なるほど、そういうことか。無口な人だけど、いい人だから好きになる人もいるか。でも、これで行き先が決まった。


「じゃあ銀熊荘の場所を教えてください。行ってみます。」


 もしかしたら何かの情報を持っているかもしれない。泊まれなくてもいいから行ってみよう。

 受付にて銀熊荘の場所を聞いたカナメは銀熊荘へ直行した。その場所はギルドの近くにある宿場の中だった。立地の関係で宿場には傭兵が多く滞在している。恐らく遠くから来た傭兵が宿泊することを前提とした宿屋がいくつか開業したことで宿場が形成されたのだろう。

 宿場に着くとその通りには10軒程の宿屋の他にも飲食店や雑貨店等があった。特に目を引いたのは洗濯屋だ。服を洗うことすら仕事になるのかと思ってしまう。恐らく、長期滞在している傭兵が自分の衣服を出すのだろう。何軒かあるのでかなり需要があるようだ。

 その中の1軒に銀熊荘はあった。何の変哲も無い木造2階建ての宿屋だ。各部屋の窓が開いていて、そこから忙しそうに働く女性の声が聞こえた。

 開け放たれたドアから恐る恐る中を覗いてみる。受付はあるが誰もいない。

 中に入ってみる。受付に飾ってある花のいい香りがした。受付の奥には宿泊者向けの食堂が見えたが、この時間は仕込みの時間なのか誰もいない。物音からするとさらに奥の厨房や2階には人がいるようだ。とはいえ、これ以上勝手に入っていくわけにもいかないので受付の前で待つことにする。

 それにしても、こんな状態で大丈夫なのだろうか。お金を盗ってくださいと言ってるようなものではないか。それとも自分の考えが及ばないような防犯対策がされているのだろうか。

 少し心配になりつつも受付に飾られている花や絵を見ていると、2階から若い女性が降りてきた。


「あ!ごめんなさい!お待たせしちゃいましたか!?」


 小柄な女性がパタパタと音をさせて駆け足で受付の中に入る。


「大丈夫ですよ。さっき来たばかりですから。」

「ありがとうございます。それで、今日はお泊まりですか?」

「はい。今日からしばらくお世話になりたいと思いまして。」

「承知いたしました。今日からですと、先程空き部屋が出たので入れますね。何日くらいにしますか?」

「それじゃ、とりあえず2週間でお願いします。」

「2週間ですね。えっと⋯⋯傭兵の方でしょうか?」

「はい。先程登録してきました。今日はギルドの紹介で来ました。」

「なるほど。そういうことでしたら70,000ルクになります。」


 痛い出費だが父から貰ったお金でなんとかなる。しかしさすがに残りが少なくなってきた。明日から仕事に励まねば。


「ところで、ここの宿屋の名前って銀熊のギンガさんから取ったと聞いたのですが、ギンガさんと仲が良かったとかなんですか?」


 カミュ行方不明について早速掴んだ手がかりなのだ。ここで聞かないわけにはいかない。


「あぁ、宿の名前ですか?特にこれと言って理由は無いみたいですよ。銀熊のギンガさんが駆け出しの頃にここを常宿にしてくれていたらしいんですが、物静かで、礼儀正しくて、部屋の使い方も丁寧だったので父がギンガさんを物凄く気に入ったらしいんです。それで、何年かしたらギンガさんに二つ名がついたというのを聞いた父が宿の名前も変えてしまったって聞きました。」


 ギルドで聞いたギンガのファンというのは本当だったようだ。特に交流があったわけでは無さそうだ。致し方ない。


「そうですか。ギンガさんの行方が分かるきっかけになればいいと思ったのですが。」

「さすがにギンガさんが今どこにいるのかは分かりませんねぇ。父が一方的に気に入っていただけのようですから。」

「そうですよね。あの人も忙しいですから。とりあえず、今回はギンガさんと縁のある宿屋に泊まれることを嬉しく思います。」

「ありがとうございます。お部屋なのですが、今は清掃中なので午後3時頃にまた来てください。そしたらお部屋に案内しますね。あ、大きな荷物は今預かっておきますよ。」


 そう言うと宿屋の娘は革鎧等の入った鞄を受け取って奥へ下がってしまった。

 宿泊先を確保して安堵したカナメは近くの飲食店へ行き食事をした後、しばらく街の中を散策してみることにした。

 ギルドのある東通りへ出て、明日の集合場所だという中央広場へ向かう。中央広場には噴水がありとてもキレイだ。広場に面しては大きな教会に並んで巨大な塔がある。これが街の外から見た外壁よりも高い塔だ。その大きさ、荘厳さに圧倒される。

 だが、その感動に水を差すものがある。時折、くさい臭いが流れてくる。どういうことなのかと周りを見回すと、裏通りの路面が汚れているのが見えた。まさかあそこから流れてきているのかと思い近くに行ってみる。近づくにつれ臭いがキツくなってくる。しかし周りの人は全く気にも留めていない。これが日常的だというのか。

 眉を顰めながら近くへ行くと、上の方から声がした。


「水を捨てるぞー。」


 前方の建物の3階からだった。水を捨てるのならしょうがないかと思って見ていると、明らかに水ではない何かが投げ捨てられた。あれは、汚物だ。

 村ではありえなかった衝撃的な光景を目にして、街の清掃という仕事の本当の意味を理解した。つまり明日やる仕事は、道にばら撒かれた汚物の清掃ということだ。イアンが街の清掃には水の魔法が役に立つようなことを言っていたが、それはこういうことだからだ。こんなことのために水の魔法を使うことになるのはいささか不本意だが。

 とにもかくにも、明日の仕事では絶対に魔力切れを起こさないようにすることを心に誓った。

研修内容は街の中3つと外2つで構成されてます。順番は決まっていません。内容は全て異なりますが、基本的には常設依頼メインです。これは傭兵としての仕事の多様性を実感させるためのものです。だからどんなに腕っぷしが強くても街の清掃はやらされるし、どんなに弱くても戦わされます。

研修は5回『可』の評価が出れば終了ですが、3回『不可』を貰うと解雇されます。つまり、8回あるチャンスのうち5回クリアすれば正式に傭兵として活動できるようになります。まぁ大抵は5回でクリアします。

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