シャオの戦い方
カナメは遠くに四足獣のような魔物を発見した。全身が茶色い保護色となっているため、動かなければ気が付かなかった。あまり見たことのない魔物だが、おそらくクレイボアだろう。どういう原理か分からないが体の表面に付着した大量の土を硬化させて体を守っている。見た目は猪のようだが、実際は獰猛な肉食獣のような牙を持っている。周囲の土に擬態していることが多く、今回のように動いている姿を見るのは稀だ。
「遠くにクレイボアがいる。1頭だ。まだこちらに気づいていない。」
要点だけ報告する。皆が言われた方向を見るがどこにいるのか分からないようだ。たしかに、少しでも目を離したら見失いそうではある。
少し経ってようやくクインティナがスッキリしたような顔になる。
「ようやく見つけたわ。よくあんなの見えたわね。」
「偶然です。たまたま歩いていたから分かっただけですよ。さて、どうやって倒しましょうか。」
2人で相談をする。今、発見できているのはカナメとクインティナの2人だけだ。そうなると魔法で遠距離から貫くのが一番早そうだ。さっさと片付けてしまおう。
「私がやりたいです。」
不意にシャオが名乗りを上げた。少し驚いた。たしかに、シャオとドミンゴの実力を知りたいとは思っている。しかし小柄な彼女にクレイボアのような硬い魔物を倒せるのだろうか。いくらメイス使いとはいえ厳しいのではないだろうか。実力を測るのに適切な相手とは思えなかった。
「大丈夫か?あいつ意外と大きいぞ。それに、まだ見つけてないだろ。」
「問題無いです。どの辺にいるか教えてもらえればなんとかします。」
「その自信、信じていいか?」
「はい。イーノックのような破壊力は無いですが、そこは技術でカバーします。」
「分かった。クレイボアはあの木の下にいる。危なくなったら助けるぞ。」
「ありがとうございます。行ってきます。」
シャオが1人で前に出ていく。その足取りに迷いは無い。いや、躊躇が無いといった方がいいか。隠れようとすらしていない。
さすがにクレイボアがシャオに気がついた。顔を向けて警戒態勢に入ると同時に全く動かなくなった。擬態し始めた。これではシャオが見つける前にやられしまう。助けたほうがいいだろうか。
だが、そんな心配を他所にシャオは地面に落ちている石を拾ってクレイボアへ投げ始めた。場所が分かっていないから当てる気は無いのだろう。とはいえ、ある程度の場所は分かっているのだから時々当たる。
何個か当たったところでクレイボアが動いた。自分が見つかっていることが分かったのだろう。擬態の必要が無いと思ったのか、単純に頭にきたのか。とにかく体を動かしてシャオに正対する。ようやく正確な位置が分かったシャオもメイスを構えた。
クレイボアが頭を下げて突進してくる。重い体を激しく揺らし4本の脚で地を蹴る。土が弾け飛び重く低い音が地面を伝わり聞こえてくる。酒樽のような巨体が迫ってくるその様は、体に纏っている土の影響もあり巨岩が突っ込んでくるようであった。
その巨岩が衝突する直前にシャオはほんの数歩だけ横に移動した。たしかにそれだけ移動すれば避けることは可能だろう。だが、避けたあとはどうするのだろうか。走り抜けていってそのまま逃げられるのではないか。シャオの様子を見る限り、それで終わりには見えなかった。
クレイボアの突進を避けつつ、シャオはメイスを振った。クレイボアの頭部にメイスの鉄の塊が打ち付けられる。メイスの金属音と、何かが潰れるような音が聞こえた。
衝突の衝撃でシャオの腕は弾き上げられてしまう。対するクレイボアはシャオから少し離れた場所で倒れ、突進の勢いそのままに数mを滑っていった。見ると頭蓋が陥没している。あの様子だと脳に深刻なダメージを負っているだろう。今はピクリとも動かない。
「あの子、なかなかやるじゃない。」
「いや、あれは危ないですよ。結果的に倒せたから良かったですが、失敗したら危険でした。ちなみに、イーノックならどうやった?」
「自分なら躱した瞬間に杖を思い切り背中に叩き込みやす。」
「はは、たしかにお前ならそれで背骨を折れそうだ。ドミンゴならどうだ?」
「俺すか?そうっすねぇ。あんなのとまともにやったら剣が折れちゃうんで逃げます。1人じゃやらないッスね。」
「それも正解だな。」
「逆にカナメさんとクインティナさんならどうやって倒すんすか?」
「俺なら遠くから魔法で貫く。」
「私は魔法で潰す。」
「潰すって怖いッスね。」
「私は点での攻撃が苦手なのよ。」
皆でクレイボアの倒し方について話していると、シャオが戻ってきた。メイスを利き手とは別の手に持っている。
「どうでした!?1人で倒しましたよ!」
目を輝かせて成果を報告してくる。きっと思った通り倒せたから褒めてもらえると思っているのだろう。だが、そうはいかない。
「お疲れ。よく倒したな。お前の腕力だけだと倒せないから、クレイボアの勢いを利用して倒したってとこか。」
「その通りです。うまくいって良かったです。」
「そうだな。でも、今のは危なかったぞ。お前のその手、痺れてうまく動かないんだろ?」
「よく分かりましたね。」
「当たり前だ。わざわざ利き手と反対側に持ってるんだからな。あれだけ派手に弾かれて痺れないほうがおかしい。メイスを落とさなかっただけマシだ。」
「でも、他に倒し方なんか思いつかないですよ。何かいい方法はありますか?」
「そうだな。脚を狙えばいいんじゃないか?脚は他の部位に比べて細いし脂肪がついてない。多少硬いかもしれないけど、破壊しやすいはずだ。それに、これは小柄なシャオだからできる戦い方だ。イーノックには脚を狙うのは大変だと思うぞ。」
「自分は脚なんて狙えないです。そっちを狙うくらいなら頭や体を狙いやす。」
「なるほど。今まで力いっぱい振ることしか考えてなかったです。ありがとうございます。」
シャオも今の戦闘の反省がしっかりできたようだ。エイミィから聞いた話だと彼女が武器を持つようになったのはエイミィより少し前だという。その短い戦闘経験では戦い方についてまで考える余裕が無かったのだと思う。とにかく強く振って敵を倒す。とかく技術を軽んじるギルドの風習を考えるとそういう傾向に陥ってもおかしくない。おそらくは男の傭兵ならそれでなんとかなるのだろう。だが、シャオは小柄なうえに細身だ。戦いに身を置くのであれば、戦い方を考える必要がある。さもないとそう遠くない未来で死んでしまう。魔の森外縁部で仕事をこなしているうちに技術や考え方を身に着けてもらいたいものだ。
クレイボアの討伐証明を取ったあと、一行は移動を開始した。今まで森の中に異常は感じられなかった。魔物の出現率も至って普通。ちょっと珍しいクレイボアという魔物がいたくらいだが、珍しいだけでおかしなことではない。
もうそろそろ昼時になろうとしている。帰る時間も考えて休憩を挟まなくてはならない。クインティナと休憩に良さそうな場所を探しながら歩いていると、向かって西側の木々の向こうに少し開けた場所があるのが目についた。ちょうど良さそうな場所なのでそちらへ向かう。しかし、近づくにつれてそこは魔の森らしからぬ場所であることが分かった。
「なんだ、ここは……。」
目の前には同じ種類の草が等間隔で列になって生えている。列と列の間には人が通れるくらいの空間がある。そして森と草の間には木の柵が設けられている。そこにはまさに農園と呼べる空間が広がっていた。




