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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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調査開始

 門を出て一先ず森の外縁部を目指す。多くの傭兵が街の南にある森へと歩いていることで自然と列が出来上がっている。しかしカナメたち5人はその列から離れて西側へと進む。調査任務なので普段は人が入らないような場所を進むことになる。

 外縁部の調査任務はほとんどが南門から見て東か西に分かれる。真正面に位置する南面は最も多くの傭兵が通るため調査の必要は無い。東西は手薄となり、離れれば離れるほど傭兵は減っていくため、調査の必要性が増す。ここを調査することにより魔物の異変を確認し魔物災害の発生を予見したりしている。

 カナメはパーティーの先頭を歩いていた。集まったメンバーに訊くと誰も斥候ができないという。仕方が無いので自分でやることにした。研修依頼ではないから斥候のやり方を教えてやる必要は無いのだが、知りたければ教えてやると伝えた。するとシャオとイーノックはくっついてきたが、ドミンゴは殿をやると言って下がっていった。きっとパーティーでもその立場なのだろう。誰かがやらなければならないのだから、これはこれで助かる。


「カナメくん。そろそろ中に入ってもいいんじゃない?」

「そうですね。この辺は人が入った形跡も無いですし、ちょうど良さそうです。」


 手に石槍を作り出して茂みの中に分け入る。それを見てイーノックが目を輝かせている。


「兄貴!魔法で杖を作るなんて凄いっす!こんなところでも杖にこだわる姿に感動しやした!」

「……。感動するのはいいが、その兄貴っていうのはやめてくれ。あとこれは槍だ。」


 適当に作ったとはいえ不格好過ぎたせいで杖に間違われた。ちょっと恥ずかしい。横でクインティナが声を殺して笑っている。


「クインさん、何がおかしいんですか?」

「いや、だって、兄貴だとか杖に間違われるのとか、おかしくって。」

「勘弁してくださいよ。」

「いや〜エイミィちゃんにも見せてあげたかったなぁ。こんなに困った顔したカナメくんなんて滅多に見られないんだから。」

「そうなんですか姐御。」

「姐御……。」


 今度はカナメが吹き出してしまった。こんな反応をするクインティナも滅多に見ることができない。なんとも言えない表情をしているクインティナを見ていたい気もするが、どうしても気になることがあったので確認することにした。


「イーノックはどうして武器が杖なんだ?魔法を使えないんだろ?」


 メンバー表を見たときから気になっていた。実物を見ると更に謎が深まった。鉄でできた黒鉄色の長い棒。もはや昆と言ってもいいような八角形の武骨な棒だ。これなら槍の方が扱いやすいはずだ。


「よくぞ聞いてくれやした!実は兄貴を真似てみたんです!」

「俺を?俺はそんな長い杖使ってないぞ。」

「兄貴に弟子入りするならまずは杖にしないといけないと思ったんです。で、店で勧められた杖にしたんです。」

「いや、わけが分からん。俺は弟子を取ってないし、真似て杖にするのもよく分からん。」

「でもエイミィ姐さんは兄貴の弟子ですよね。だから杖に似た槍を使ってるんじゃ……。」

「そんなわけないだろ。そもそもエイミィは弟子なんかじゃない。成り行きで一緒に行動するようになって、武器も武器屋で適正をみてもらって決めたんだ。俺が教えたことは体力づくりのやり方とか、実戦での基本的な戦い方くらいだ。というか、槍と杖を同じような扱いにするな。全然違うものだぞ。」

「杖を槍と一緒にされたくないということですか?」

「そんなんじゃない。なんて言えば納得してもらえるんだ?」

「カナメくん。たぶん彼、あなたのファンよ。弟子入り云々の前に形から入ったんじゃないかしら。」


 このイーノックという男、かつてカナメに弟子入りを申し込んだものの走って逃げられている。なぜ弟子入りを申し出たのか。それはレオとの決闘を目撃してカナメの技術に惚れ込んだからである。その当時は剣を使っていたのでカナメに指導してもらおうと思った。しかし逃げられてしまった。なぜ逃げられたのか。イーノックは真剣に考えたが分からなかった。

 そこで、カナメのことについて調べた。普段は杖を使っていることを知った時には驚いた。あれだけの剣技を持っていながらなぜ杖を使っているのかを知りたいと思い何人かの傭兵に聞いたらすぐに分かった。彼は魔法使いだったのだ。だから普段は杖を使っている。とはいえ、普段から剣を使っているわけではないのにあの剣技を維持するのは並大抵のことではない。どうやっているのか。ここでまた考えた。そして、1つの結論に辿り着いた。杖は剣術の基礎なのではないか、と。剣を使っているようでは弟子にする資格はないと判断されたから逃げられたのだと考えた。

 その日から彼は剣を捨てた。カナメの行きつけだという赤髭部防具店に行きカナメのような杖を求めた。だがそこではあの杖は売っていなかった。その代わりとして店主自慢の杖を売ってもらった。とてつもなく重い。だが、イーノックには恵まれた体格があった。最初はその重さに振り回されていたが、コツを掴むと難なく扱えるようになった。そこから彼は頭角を現すようになる。この重さと長さが体に合っていたのだ。

 初めてカナメを見てから半年。杖の扱いにも慣れ、自信もついた。そろそろ改めて弟子入りを申し込みに行こう。そんなことを考え始めた矢先に、カナメが野良パーティーを募集していることを知った。雷に打たれたような衝撃を受ける。これは神のいたずらか。こんなチャンス二度と無いかもしれない。震える手を伸ばして野良パーティーの応募用紙を取り、受付へと持っていった。目の前で受理されるのを見て平静を装いながらも内心では叫びたくなるほど喜んでいた。


「お、正面にゴブリンがいる。たぶんあの茂みの向こうです。」


 カナメは周囲を確認しながらクインティナに伝える。これを聞いたシャオとイーノックは耳を疑う。ゴブリンの声も聞こえなければ足跡も見えない。何を根拠に言っているのかと思ってしまう。

 2人のその様子を見てカナメは手短に根拠を伝える。


「単純なことだよ。あの茂みの枝が不自然に折れてる。折れ口が真新しい。動物は無闇に茂みの中になんか入らない。もしあんな所に入る生き物がいるなら、この辺りなら人間かゴブリンだけだ。だが折れた枝の高さが人間より低い。そしてこの辺りに人間がいないのは俺らが一番知ってる。となるとゴブリンしかいないというわけだ。もっとも、もう移動してるかもしれないけどな。」


 2人は今の理由を聞いて「なるほど」と言っているがあまりピンときていないようだ。


「疑いたくなるのも分かるけど、カナメくんの索敵は信用できるわ。どのくらいの距離にいるか分かる?」

「ちょっと待ってくださいね。」


 カナメは地面に手を付けて微量な魔力を流す。土の中の水を感じる。20m程先で生き物が歩いている振動を感じた。二足歩行で歩幅は狭く、体重は軽い。複数感じる。


「たぶん、20m先に3匹ですね。こちらには気がついてないと思いますが遠ざかっています。」

「凄い……。エイミィから聞いてはいましたけど、本当にそんなことが分かるんですね。」

「そうなの。カナメくんは変態なのよ。」

「変態とは何ですか変態とは。今のも一種の魔法ですよ。」

「兄貴は魔法をこんな風にも使えるんですね。おみそれしました。」

「なぁ、話してるところ悪いんだけどさ、ゴブリンがいるなら殺りにいこうぜ。逃げられちまう。」


 後方にいたドミンゴから指摘される。至極真っ当な意見だ。


「ドミンゴの言う通りだな。とりあえず近づこう。ちなみに、誰がやる?ゴブリンなら誰が行っても同じだろうけど。」

「それなら、自分が行きます。兄貴にこの杖捌きを見てもらいたいです。」


 イーノックはその場で軽く杖を振る。見るからに重そうな杖から重々しい風切り音が聞こえる。そして振った杖をピタリと止める。体のどこにも付けず、腕力だけでこれをやっている。どんな筋肉をしているんだ。


「分かった。あとはどうする?」

「3匹程度なら自分1人で十分っす。やらせてください。」

「そ、そうか。じゃあシャオとドミンゴもそれでいいか?」

「はい。」

「ちぇ〜。カナメさんの技が見れると思ったのに。」

「俺なら魔法で一撃だ。ちなみにクインさんだとたぶん凄惨すぎて討伐証明がなくなる。」

「私、ゴブリン相手にそこまで本気の攻撃しないわよ?」

「みんな聞いたか?本気の攻撃だと凄惨な現場ができることを肯定したぞ。」

「ちょっと!変なこと言わないでよ!」

「2人とも仲がいいのはいいんだけどさぁ、これからゴブリンを殺ろうってのに緊張感無さすぎだろ。仮にも魔の森だぜ?」


 ドミンゴに怒られてしまった。今朝の態度が悪かったから忘れていたが、仮にもパーティーリーダーだけある。締める所はちゃんと締めてくる。

 あれ?そうするとうちのリーダーは……?いや、これはまだ距離があるから気が緩んでいるだけだ。きっとそうに違いない。

 自分にそう言い聞かせつつ気持ちを切り替えて茂みの向こう側へ向かうことにした。

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