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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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野良パーティー

 早朝、木窓を開けていない薄暗い部屋の中でカナメは藍色の服を着て鎧を装着する。今日はクインティナと南門へ行くことになっている。2人で募集した野良パーティーで魔の森へ行くためだ。魔の森に行くと言ってもこれといった目的があるわけではない。常設依頼の外縁部調査に行くだけだ。エイミィの怪我がまだ癒えていないので、2人でできることとして受注した。本当はもっと奥に行っても問題無いのだが、万全を期すためにレベルを下げて受けることにした。だが、ギルド側から横槍が入った。

 出張所で受注したのが良くなかった。受付で手続きをしている際にたまたまその内容をディアスに見られてしまった。どうせ余裕なんだからついでに下の等級の傭兵も連れて行けと言われた。こんな指示をされたら断るわけにいかない。仕方なく2等級の傭兵を募集して野良パーティーを結成することになったのだ。

 支度が終わったので2階へ行く。クインティナはまだいない。支度中のようだ。

 新居に移ってきて1週間。分かってきたことがある。実は、クインティナは仕事の無い時はいい匂いを漂わせている。その理由はエイミィとの会話を聞いて知った。自作の香油なるものを使っているらしい。新居に運び込んだあの花の油漬けはそれだったのだ。これでようやく合点がいった。今まで仕事中に花を摘んでいたりすることがあったが、その目的が分からずにいた。敢えて訊くことでもないと思い流していたが、そのような目的があるとは思わなかった。やはり分からないことは訊かないとダメだと再認識した。

 そして、エイミィは思っていたよりだらしない。放っておくと昼まで寝ている。片手でできることが少ないから家事が免除されやることが無いせいだということは分かっている。だとしても他にできることがあるはずだ。そろそろ肩も動かせるようになるはずだ。治ったらその鈍った体を鍛え直すと同時に生活も叩き直してやる。

 上の階でドアの開く音が聞こえた。軽快な足音だ。意外な足音に少し驚きを覚える。階段から姿を現したのはエイミィだった。


「おはようございます。」

「おはよう。珍しいな、こんな朝早くに起きるのなんて。」

「今日は引っ越してから初めてお2人が揃って森へ行くのでお見送りをしようと思いまして。」

「そういえばそうだっけ。」


 たしかにこの1週間はそれぞれで適当に時間を過ごしていた。カナメは清掃作業やソロで森へ行ってみたり、クインティナは家具を見に行ったり門の外へ何かの材料を集めに行きつつ魔物を狩ったりしていた。

 そんな時に、たまたま南門の外でクインティナと会い、こんなことをしているくらいなら最初から2人で受けた方がいいという話になり出張所へ行ったら、先ほどの話になってしまったというわけだ。


「久し振りに朝早く起きるのは大変でした。」

「普段気を抜きすぎだ。そろそろ怪我が治るんだから、体を慣らしておけよ。治ったらしごいてやるからな。」

「うぇ〜……。最初から激しいのはキツイです。」

「そこは考慮するさ。ただ、早く体を元の状態に戻してもらわないとパーティーで活動できないから強めに行くぞ。レオの件もあるしな。」

「分かりました……。」


 エイミィが明らかに嫌な顔をしてテーブルに突っ伏してしまった。こうなることは分かっていただろうに。

 ここでようやく上からドアの開く音が聞こえた。ゆっくりとした重い足音が聞こえる。やはり朝は元気が無い。支度が終わったということは起きてからだいぶ経つはずなのだが、なぜこうも朝に弱いのか不思議だ。


「おはよう。それじゃ、行きましょうか。」

「はい。彼らを待たせるわけにいかないですからね。」

「いってらっしゃい!気をつけてくださいね。」

「ソロじゃないから大丈夫だろ。」

「でも、私の研修の時のメンバーとか酷かったじゃないですか。」

「あの時は変なあだ名がついてたせいだ。今も変なあだ名だけど、言うことを聞かせる分には前より便利だ。それに、今回はこちらの名前を見たうえで申し込んできたんだから変なやつはいないだろ。じゃ、行ってくる。」


 エイミィに見送られて家を出る。クインティナと2人揃って家を出るのは初めてかもしれない。やはり新鮮な感覚だ。とはいえ、その感覚を楽しんでいる余裕は無い。集合時間まであまり時間が無い。


「クインさん、急ぎますよ。」

「うぅ……。南門が遠い……。」


 クインティナの文句を聞き流して南門へ向かう。最初のうちは背中を丸めて歩いていたが、徐々に背筋が伸びてくる。南門に着く頃にはいつものリーダーとしてのクインティナになっている。本当に不思議な人だ。


「さて、今回のメンバーでも待ちましょうか。」


 多くの傭兵たちでごった返す開門前の南門前広場で野良パーティーのメンバーを待つことにする。メンバー表は持っているが、顔は知らない。書いてあるのは等級、名前、性別、扱う武器、魔法の有無くらいだ。人物的な特徴も書いていないから特定のしようがない。向こうがこちらを見つけてくれるのを待つだけだ。

 とりあえず人が少ない外壁を背にして立つ。多少目立ちにくいが仕方が無い。またレオが襲ってくるかもしれないのだ。背を見せて立っているわけにもいかない。

 周囲を警戒しつつ待っていると、こちらに真っ直ぐ歩いて来る女傭兵がいる。おそらくあれが参加者だ。背はエイミィより少し低いくらいで黒い髪を結い上げている。腰にはメイスをぶら下げている。


「おはようございます。クインティナさんとカナメさんですよね?」

「そうですが、あなたは?」

「良かった。間違えてなかった。私はシャオです。エイミィとは仲良くさせてもらってます。」

「あぁ、きみがエイミィの友人か。」

「はい。エイミィの怪我の具合はどうですか?」

「そろそろ治るんじゃないか?というかもう治ってそうだな。あとは病院に行って確認するだけって感じだ。」

「良かった。最初に話を聞いた時は心臓が止まるかと思いました。」

「悪いな。俺が不甲斐ないばっかりに。」

「ごめんなさい。責めてるわけじゃなかったんです。」

「いや、あの件は未だに後悔してるんだ。もっとしっかり索敵していればあんなことにはならなかったんだ。」

「やめなさいよ。あんなの分かるわけないんだから。そんなこと言ってたらエイミィちゃんが怒るわよ。」

「う……。たしかにそうですね。気をつけます。」


 言われてみればそうだ。エイミィだって命懸けで助けた相手がいつまでもウジウジしていたら嫌だろう。自分なら嫌だ。気分を切り替えていこう。


「あ〜。取り込み中悪いけど、ここが『狂犬』のパーティー、で間違い無いよな? 」


 あ?なんだ突然不躾に。人の名前より先に変なあだ名の方で呼ぶとは。なんて失礼なケツ顎野郎だ。

 とは思うが、この半年ほどでさすがに慣れた。このような輩を相手に貼り付いた笑顔で対応することなど造作も無い。


「どちら様でしょうか?」


 さすがに狂犬と呼ばれるような相手に笑顔で対応されると驚くらしい。男は身構えながら後ずさりをした。


「くっ――!さすが狂犬。マジかよ。目が全然笑ってねぇ。」


 別に威圧なんかしてないんだがな。勝手に笑顔にビビっただけだろ。


「カナメくん。今まで言わなかったけど、あなたのその笑顔、殺気出てるのよ?」

「え?本当ですか?」

「普段はどうでもいい人しか声を掛けてこなかったからいいけど、今日はダメよ。抑えなさい。」

「分かりました。気をつけます。」


 なんだかさっきから怒られてかばかりな気がする。


「おぉ!さすが飼い主さん!お見事ッス!」

「なんですって?」


 クインティナの顔が歪む。今まで面と向かって言われたことが無かっただけに思わず顔と言葉に感情が出てしまったようだ。今までに見たことがないような威圧感を感じる。


「あ、いや、悪い!つい口が滑った。今の話ナシで!」


 男はクインティナの様子を見てすぐさま謝罪した。自分に対する謝罪が無いのには納得いかないが、この手の輩が相手なら仕方が無い。諦めよう。


「分かればいいのよ。それで、あなたは誰かしら?」

「わりぃわりぃ。俺はドミンゴ。一応これでも『山猫』ってパーティーのリーダーやってるんだ。今日はよろしくな。」


 メンバー表を見る。たしかに名前がある。2等級のドミンゴ。武器は剣。なるほど。たしかに腰に剣を下げている。安物の、いかにも初心者が好みそうな装飾付きの剣だ。この金髪くせ毛のケツ顎野郎はまだまだ剣の腕は大したことはなさそうだ。


「俺さ、今日は狂犬……カナメさんの剣技を間近で見られるチャンスだと思ってここにきたんだよね。噂じゃすげぇって話じゃん。」

「ん?俺は剣なんか使わないぞ。」

「え?マジ?超すげぇって評判なのに?冗談はいいって。」

「いや、基本的に魔法使いだからな。魔法攻撃と杖による打撃しかしないぞ。」


 唖然とした表情のドミンゴはクインティナを見る。クインティナが無言で頷くと、見てわかる程に落胆した。


「なんだよ……。わざわざ期待して来たのに、剣使わねぇのかよ。」


期待していたところ悪いが、合わせてやる気もない。自分の調査不足を恨め。


「これであと1人ね。最後の1人はイーノック。武器は杖となってるわ。でも魔法は使えないみたい。なんなのかしら。」

「ずいぶん珍しいですね。なにかこだわりがあるんでしょうか?」


 その場にいるメンバーも首を傾げている。噂も聞いたことがないようだ。

 すると、目の前から明らかに怪しい人物がやってきた。坊主頭に肩まである長い鉄の杖を持ったガタイのいい長身の男。こちらに向かって早足でやってくる。たぶんあれが最後の一人だ。だが、どこかで見たことのある顔だ。


「兄貴ぃ!遅れて申し訳ありやせん!」


 思い出した。以前、東側の新市街で弟子入りを申し込んできたやつだ。


「お前のようなデカい弟はいない。人違いだろ。」


 あの時と同じように受け流す。

 後ろでクインティナの大きな笑い声が聞こえた。

今、身辺の都合で最新話が上手く書き進められていない状況です。そのため、しばらくは2日〜3日に1回程度の更新になると思います。

あと、近日中にタイトルを変更します。『蒼灰の叙録〜断魔の軌跡〜』となります。

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