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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
プロローグ
12/15

魔法の実践と不穏な噂

 カミュが村を離れてから数カ月後。カナメはあれからもひたすらに魔法の訓練を続けた。その結果、現在は石の魔法以外も土の魔法を少しは扱えるようになった。以前、カミュは土を理解しようとしたが魔力が通りにくくて理解ができなかったと言っていた。不思議に思って魔力で調べてみて分かった。土の中には水が含まれているからだ。カミュは水には魔力を通すことができなかったようだから、土を理解するのが難しかったことも頷ける。

 ただ、自分は土に対する理解ができているので、土の魔法が使えるようになった。水にも魔力を通せているので、いずれは水についても理解ができるかもしれない。そうすれば石、土、水の3種類の魔法が使えるようになれる。きっとカミュも驚くだろう。


 そんなある日、カナメは父と森に狩りに来ていた。狙いは猪か鹿だ。

 以前同様ナイフと弓を持っている。エルシャールの指導により剣も上達しているのだが、森の中ではまだまだ扱いづらい。そのため、剣の実戦投入はもう少し先になりそうだ。

 森の中は涼しかった。しかし夏場なので草木の成長が早い。少し前に来た場所でも初めて来たかのように生い茂っている。そのような場所を父が剣で打ち払いながら進むと、草の生えていない道のようなものが出てきた。獣道だ。

 父はその場でしゃがみ込むと、地面を観察している。獣の足跡を見ているようだ。実はこの技術、昔エルシャールに教わったのだという。傭兵として現役の頃は使うことはなかったそうだが、狩りをするようになってからは非常に役立っている。

 父は観察を終えると立ち上がり、森の奥へ進み始めた。あの様子だとどうやらこの先に猪がいるようだ。気を引き締める。

 しばらく歩くと猪がいた。珍しく2頭いる。2頭ともこちらに気がついた様子は無い。どう仕留めるか。茂みの中で父と相談する。


「カナメ、お前の魔法であいつらの動きを抑えられるか?」

「ちょっと遠いかな。まだあんな所に作り出せない。でも、ここになら罠を作れる。そこに追い込めば足止めくらいならできると思う。」

「そうか。ならやってくれ。俺はあいつらの後に回って誘導する。お前も罠を作ったら移動しろ。移動したら合図を出せ。」


 父はそう言ってその場を去った。しかし合図?何をすればいいんだ?

 よく分からないが、とにかく魔法で罠を作り始める。まずは土の魔法で穴を作る。とはいえ、まだ使えるようになって日が浅いので大したことはできない。草や木の根もあるのでバランスを崩させる程度のものだ。

 手を地面につけて念じる。土が移動して四角い箱のような穴ができる状態をイメージする。すると、カナメの前方に幅1m,奥行50cm、深さ20cm程の穴ができる。バランスを崩す程度の物だが、ここに入り込ませればなんとかなるだろう。

 念のため、石の魔法で作った尖った棒を10本ほど穴の周辺に斜めに差し込んでおく。穴に入らなくても石の棒が刺さるようにするためだ。

 ここまで準備をして横に移動。穴が確認できる位置で止まる。父に合図を出すため、槍のように長い石を作り出し上に掲げた。

 これを見た父が猪を罠の方へ追い込むため、罠とは違う方向を向いている猪の正面に躍り出る。驚いた猪はそれぞれ前方へ走り出す。父に向かった猪は一刀のもとに斬り伏せられた。もう1頭は罠の方へ走ってくる。

 カナメは弓を構えながらその様子を見守る。果たして罠にかかるだろうか。あの大きさの穴で大丈夫だろうか。一抹の不安を覚える。

 猪は速度を落とすことなく罠のある茂みに突っ込んできた。物凄い速度に驚いたが、次の瞬間には猪は穴に足を取られもんどり打って倒れた。その際、魔法で作った尖った棒が猪に当たっていた。しかし強度が足りないようで体に刺さることは無かったようだ。

 だがここまでは想定内。倒れている猪に向けて矢を放つ。矢は猪の体に当たった。猪が痛みで叫ぶ。逃げようとしてジタバタとしながらも起き上がる。

起 き上がると、狙ったのか偶然なのか、猪の頭がこちらを向いていた。まずい。こちらに走ってくる。逃げなければ。

 そう考え咄嗟に逃げようとしたところ、足元に露出していた木の根に足を取られ転んでしまった。

 猪は再び走り出していた。こっちに向かってきている。もうそれほど距離もない。避けられない。


「く、来るな!来るな!あっち行け!」


 恐怖のあまり思わず叫び、手で猪を払い除けるような動きをした。

 その瞬間、猪の体が突如として横へ弾き飛ばされた。


「え?」


 猪は弾き飛ばされた先で倒れたまま動いていない。何が起こったのか分からず目の前を見る。そこには巨大な土の柱が斜めに出来ていた。どうやらこれが猪を弾き飛ばしたようだ。

 なぜこんなものが。自分が作り出したであろうことは分かっている。あの瞬間、猪がいなくなることを願い、これをイメージしたのだろうか。咄嗟のことだったからよく分からない。

 呆然としていると父が駆けつけてきた。


「カナメ!大丈夫か!?猪は!?ってなんだこれ!」

「俺は大丈夫。ちょっと転んだだけ。猪はあそこ。動いてないから気絶してるか死んでるかだと思う。で、それは俺が魔法で作ったみたい。それで猪を弾き飛ばした。」

「作ったみたい?」

「うん。咄嗟のことでどうやって作ったのか憶えてないんだ。」

「そうなのか。でもまぁ、いいんじゃないか?カナメも無事、猪も狩れた、魔法も成功した、大成功じゃないか!」

「結果だけ見ればね。その過程は失敗だったよ。」

「気にすんな!この失敗をもとにしてダメだった部分を直せばいいんだからよ!」


 そう言うと父は大きく笑った。たしかにそのとおりかもしれない。今はこの状況を素直に喜ぶ方がいい。なにせ初めて大きな魔法が成功したんだ。強度、生成速度、大きさ、いずれも申し分無い物が。


 こうして、カナメは魔法を使って初めて狩りを成功させた。この日を境に、カナメの魔法はさらなる成長を始めることになった。



 そして5年後。15歳になって成人したカナメは広場へ行くため歩いていた。

 今、広場には行商人が来ている。行商人は月に1回ほどのペースで村にやってくる。その時に手紙も一緒に持ってきてくれる。この手紙をカナメは楽しみにしていた。カミュからの手紙が来るからだ。

 カミュは約束どおり手紙を書いてくれた。カナメが魔法の近況報告と相談をすると、それにしっかり答えてくれた。2年ほど前には以前約束していた仕込み杖も送ってくれた。若干シンプルすぎる気もしたが、そのギミックの面白さゆえに家で何度も抜き差ししていたら父に怒られたものだ。

 しかし、この1年程手紙が届かない。どうしてしまったのだろうか。忘れられたのだとしたら寂しいものがある。


「ハインツさんこんにちは。手紙あります?」


 すっかり顔馴染みになった行商人のおじさんに手紙を確認してもらう。


「おぉ、カナメくんか。今回も君宛ての手紙は預かってないよ。それに、これなんだけど、前に預かった手紙が戻ってきた。」

「え?どういうことですか?」

「詳しくは分からないけど、受取人がいないみたいだよ。」

「そんな⋯⋯。」


 カミュが移動するのは分かる。仕事上各地を転々としているのだから。だが、普段は移動先に送られるようになっている。だがそれをやっていないとなると、カナメを避けようとしているのではないかと思ってしまう。


「その⋯⋯言いにくいんだけど、きみが手紙をやり取りしてる人って銀騎士のカミュだよね?」


 ん?何が言いにくいんだ?


「そうですけど⋯⋯。まさか、カミュさんからもう連絡を寄越すなとか言われたんですか!?」

「い、いや、そういうわけではなくてね。銀騎士のカミュなんだが、パーティーメンバーを含めて1年ほど前から行方不明という噂がある。」


 カミュが⋯⋯行方不明?一体どういうことだ?

 カナメは眼を鋭くし、ハインツの両肩を掴んだ。


「その話、詳しく聞かせてください。」


 ハインツはその気迫に圧されてたじろいでしまった。


「い、いや、あくまでも噂だから。私も詳しいことは知らないんだ。傭兵ギルドに行けば何か分かるかもしれないけど。」

「傭兵ギルドに行けば分かるんですね?」

「いや、ギルドにも守秘義務があるから教えて貰えないんじゃないかな?って聞いてる?」


 カナメは考えた。カミュが行方不明になるなどまともではない。絶対何か事件か事故があったはずだ。そうでなくては説明がつかない。カミュたちの強さは知っている。そう簡単にやられてしまうとは思えない。何かがあったんだ。確かめねば。


「ありがとう、ハインツさん。また来るね。」


 ハインツに礼を言って広場を出る。

 カミュに不測の事態が起こった。弟子として、安否を確かめずにはいられなかった。

この国の成人年齢は15歳です。ついでに言うと、数え年です。

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