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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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転居

 引っ越し、と言っていいのか分からないが、パーティーで借りた家に入居するのはすぐだった。

 部屋の契約は家を見に行ったその日に行った。契約時、クインティナが家賃の値下げ交渉を始めた。セインもこれにはなかなか応じなかったのだが、最終的に250,000ルクで話がついた。一体何を言って2割近くも値下げさせたのか。横にいたがさっぱり理解できなかった。

 契約をしたらその足で家具を買いに行った。と言っても買うのはベッド、食器、調理器具程度だ。他は随時購入することとした。

 ベッドフレームは新居の近くにある家具屋に作ってもらうことになった。同じ物を3つなので大した時間はかからなかった。正直なところ、もう少しかかると思っていたので拍子抜けした。

 入居前に簡単な荷物の搬入を行った。カナメ自身の荷物は衣類程度しか無い。エイミィは怪我の影響があるため荷物を運ぶのを手伝ったがカナメと似たようなものだった。しかしクインティナは色々と小物が多く1人では運べないという理由で手伝う羽目になった。何に使うか分からない油漬けの花が入った瓶がいくつもあるため、見た目以上の重量がある。これを南街の宿屋から支部近くまで運ぶ。徒歩20〜30分くらいの距離だ。それを荷車も用意せず1人で運べと言われた時には正気を疑った。すぐにギルド出張所へ行って荷車を借りた。節約したいのは分かるが、ここで節約するのは間違っていると思う。

 そうして契約から1週間が過ぎ、家具類の搬入も完了した頃、正式に住み始めることになった。宿屋の部屋を出て鍵を受付に返却しに行く。受付の女性が1人で仕事をしていたが足音で気がついて顔を上げた。


「おはようございますカナメさん。今日が最後ですね。」

「はい。今日までお世話になりました。」

「いなくなっちゃうのは寂しいです。綺麗に使っていただけていたので残念です。」

「そう言ってもらえて良かったです。ギンガさんの二つ名を冠した所で変なことはできないですからね。」

「もしカナメさんにまともな二つ名が付いたら宿の名前を変えてもいいですよ。」

「やめてください。ギンガさんの後の名前になるなんて恐れ多いです。このままでいてください。それじゃ、また宿泊が必要になった時はこちらに来ますね。その時はまたよろしくお願いします。」


 この街に来た頃からカナメの常宿であった銀熊(ぎんゆう)荘を出る。いつもの鎧を装着して手には武器である杖と小さな手荷物のみだ。他の荷物は既に新居に搬入済みだ。

 ここから新居までの間にエイミィの泊まっている宿があるので迎えに行くことにした。初夏とはいえ日向にいると暑いぐらいだ。鎧を脱ぎたくなる。手荷物が増えるのでそのようなことはしないが、鎧の下はじっとりと汗をかき始めている。やはり鎧も先に運んでおくべきだったか。

 自らの選択に若干後悔しているうちにエイミィのいる宿に着いた。見ると中ではエイミィが受付の女性と抱き合っていた。色々と面倒を見てくれて助かるとは思っていたが、少し感情移入し過ぎではないだろうか。邪魔しては悪いかと思いつつも、待っているわけにもいかないので声をかける。


「おはようエイミィ。」

「――わひゃい!」


 声をかけただけなのに大きな声をあげて飛び上がってしまった。受付の女性はその声量に驚くとともに耳元で発せられた声で耳をやられたようだ。片耳を抑えてエイミィから離れた。嫌な顔をしてこちらを見てくるが自分のせいではないと思う。


「か、カナメさん!驚かせないでください!」

「いや、普通に声をかけただけじゃないか。まさかそんなに驚くとは思わなかった。」

「驚きますよ!こっちに寄るなんて思ってなかったですから!せっかくお別れの挨拶をしていたのに。」


 エイミィから激しい抗議を受ける。なんだか釈然としないが驚かせてしまったことは事実なので謝っておく。


「悪い悪い。じゃあ積もる話もあるだろうから先に言ってるぞ。」

「あ、待ってください!もう行くところだったので!」

「そうか?気にしなくていいんだぞ?」


 見かねて受付の女性が話に加わった。


「大丈夫ですよ。最後にエイミィさんが抱きついてきただけですから。」

「そうなんですか?」

「えぇ。話自体はもう終わってます。カナメさん、エイミィさんを幸せにしてあげてくださいね。」

「はい?」

「え?結婚するから一緒に住むことになったんじゃないんですか?」


 どういう勘違いをしたらそうなるんだ。

 エイミィを見ると顔を少し赤らめ「私、そんなこと言ってないです。」と言いながら斜め下を見ている。ろくに説明できてなくて恥ずかしいのは分かるが勘弁してもらいたい。


「違いますよ。パーティーで同じ家に住むだけです。その方が合理的なので。」

「合理的……。ちょっと、エイミィさん。こっちへ。」


 受付の女性はエイミィを呼ぶとカナメから少し離れた所に連れて行って耳打ちを始めた。なんなんだろうか?


「エイミィさん。結婚するから一緒に住むことになったんじゃないんですか?」

「結婚するなんて言ってないですよ。カナメさんと一緒に住むことになったとしか言ってないです。」

「そういうのは正確に言いなさい。ということは、あの金髪の美人さんも一緒に住むってことよね?」

「はい。みんなで一緒に住むんです。楽しそうですよね。」

「あなたはそれでいいの?」

「どういうことですか?」

「エイミィさんはあのカナメさんのことが気になってるのよね?」

「な、なな、何を言ってるんですか。そんなことないです。」

「そんなことある態度よ。いいの?ライバルと一緒なのよ?」

「や、やめてください。さぁ〜そろそろ行かないとなぁ。」


 密談が終わったのか半笑いのエイミィが歩いてきた。この顔は何かを誤魔化した顔だ。何してるんだ。


「エイミィ。ちゃんと説明するなら今だぞ。誤魔化してないで説明しとけよ。」

「か、カナメさんまでなな何を言っているんですか!」

「ほら、その反応、図星なんだろ?」

「そんなことないです。ちゃんと説明はできてます。もう大丈夫です。」


 さっきよりも顔を赤くして必死に否定し始めた。


「はぁ……。カナメさん。エイミィさんからちゃんと説明されましたので大丈夫です。私の早とちりでした。失礼しました。」

「そうですか。誤解が解けれていればそれでいいです。それでは、長い間エイミィの面倒を見てくれてありがとうございました。」

「いえいえ。こちらも楽しかったです。エイミィさん、何か困ったことがあったらいつでも相談に来てくれて構いませんよ?」

「ありがとうございます!それでは遠慮なく相談に来ますね!」

「はい。お待ちしてます。」


 受付の女性は満面の笑みで応えた。こういうのは社交辞令だと思うのだが、エイミィなら本気で相談しかねない。ちょっと不安だ。

 こんなやり取りをしているといつ宿を出られるか分からない。ちょうどいいタイミングなのでエイミィを促して宿を後にした。エイミィは少し寂しそうにしながらも受付の女性に手を振ってついてきた。

 ここから新居まではそう遠くない。怪我の状態を聞きながら向かう。どうやら順調に回復しているらしく、今は痛みは無いらしい。寝る時もだいぶ楽になったと言っていた。ただ、まだ腕は固定していないといけないので不便ではあるらしい。この様子ならポーションを使うような時間は無さそうだ。

 家に着いて玄関の鍵を開ける。この1週間で何度かやってきた動きだが、今日からここに住むと思うとなんだか特別な感じがした。鍵の開く音が聞こえると思わずエイミィと顔を見合わせてしまった。エイミィも同じように感じているようだ。

 ドアを開けると冷たい空気が流れてくる。外に比べて涼しい。快適だ。カナメは部屋の隅に置かれた真新しいベッドの方へ歩いていく。1階は玄関兼カナメの部屋だ。とりあえず鎧を脱いでベッドに倒れ込んだ。真新しい布団が気持ちいい。

 エイミィは家に入るなり真っ直ぐに階段を上っていった。エイミィの部屋は3階だ。階段を上る足音が聞こえる。たまに天井がミシミシというが、木のしなる音だから問題無いだろう。

 少し休憩した後にカナメも2階へと上る。階段の途中から室温が上がっていくのが分かる。先程まで涼しかったのに今は暖かい。なんとなく空気が澱んでいる気がしたので中庭側の木窓を開ける。外の空気が吹き込んできた。吹き抜ける風が気持ちいい。通り側の窓も開けようかと思ったが、それはやめておいた。路面が少し汚くなっているので臭いや浮遊物が怖い。

 上からエイミィが下りてきた。薄っすらと汗をかいているように見える。


「カナメさん、上、暑いです。」

「窓開けたか?」

「いえ、すぐ降りるつもりだったから開けてないです。」

「それもそうか。でも、これから夏になっていくにつれてどんどん暑くなっていくだろうから対策を考えないとな。」


 そんなことを言っていると下の階でドアの開く音が聞こえた。クインティナが来たようだ。足音が近づいてくる。


「あ、エイミィちゃんも着いてたんだ。どう?部屋の方は。」

「まだベッドしかないから分からないですよ。ただ、部屋は暑いです。窓は開けたほうがいいです。」

「そうなんだ。じゃあ窓だけは開けておこうかしら。」

「あ、それなら私も行きます。さっき窓を開けてこなかったので。」

「じゃあ一緒に行きましょうか。カナメくん、そんなわけだからちょっと待ってて。下りてきたら今後のことについて話し合うわよ。」

「分かりました。じゃあそれまでに井戸から水を汲んでおきます。」

「ありがと。助かるわ。」


 2人が3階へ上がっていったのを見届けると、バケツを持って1階に下りる。裏口から井戸へ行くと上の方から声が聞こえた。見上げると部屋の窓が開いている。2人が何やら楽しそうに話しているのが聞こえてくる。2人の様子から、パーティーで同じ家に住むという選択は悪くなかったのかもしれないと思った。

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