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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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クインティナからの呼び出し

 宿に戻ると受付の女性から伝言を渡された。金色の長い髪を後ろで束ねた美人が訪ねてきて、不在だと伝えたら伝言のメモを渡されたとニヤニヤしながら言ってきた。誰が来たのかは想像できたが、念のため中身を確認してみた。


『話があるからエイミィちゃんの宿に集合 クインティナ』


 用件だけの味も素っ気もないメモだ。何の用だろうか。わざわざこちらの宿に来るなんて珍しい。ともあれ、こちらも用事があるから好都合ではある。

 外に行こうとしたら後ろから楽しそうな声で「いってらっしゃーい」と聞こえた。何か勘違いをしているようなのでパーティーリーダーの呼び出しであることを伝えたうえでメモを見せたら、明らかにつまらなさそうな顔をされた。

 エイミィの宿に着くとクインティナはいなかった。まだ到着していないのだろうか。念のため受付に確認をしてみることにした。

 宿の中に入ると、受付の女性から挨拶をされた。エイミィ絡みで何度か話をしているので憶えられているようだ。こちらから言うでもなくエイミィは在室しているが来客中だと教えてもらった。そして、その来客者からカナメが来たら部屋に通すように言われていると言って部屋に案内された。部屋へ向か途中、エイミィは肩の怪我をしてからあまり元気が無いのでなんとかしてあげてほしいと頼まれた。そうしたいのは山々だが、現実的に難しい。仕事で会わないとなると同じパーティーメンバーとはいえ殆ど顔を合わさない。仕事はしないといけないので頻繁に見舞いに通うわけにもいかない。自然と話す機会は減ってしまう。何か方法があればいいのだが、特に思いつかない。そのうち清掃作業の仕事でも一緒に行ってみようかとも考える。

 案内をしてくれた受付の女性が階段を上ってすぐのドアの前に立つ。ドアの向こう側では女性の声が聞こえ、何やら物を動かしているような音もする。何をしているのだろうか。2人で顔を見合わせて首を傾げる。とはいえ、このまま様子を伺っていても意味は無い。受付の女性がノックをする。ドアの向こうが急に静かになった。


「カナメさんがお見えになりました。」


 受付の女性が声をかけると先程とは逆に慌ただしく動き始めた。エイミィの悲鳴にも似た声が聞こえる。

 しばらくしてドアが薄く開きクインティナが顔を出した。額に汗がにじんでいる。


「カナメくん、もう少し時間がかかりそうだから下で待ってて。終わったら呼ぶわ。」

「分かりました。でも、さっきから何をしてるんですか?」

「うん。ちょっとね。男の人には見せられないというか……。」

「あぁ、包帯の交換とかそんな感じですか。」

「そ、そう!そうなの!だから下で待ってて!」

「そういうことなら、焦らずにやってあげてください。じゃ、下にいってます。」


 カナメは部屋の中で何が行われているのかなんとなく分かっていたが敢えて乗っかることにした。ここでエイミィに恥をかかす必要は無い。

 階段を下りていると、後ろから受付の女性が話しかけてきた。


「お優しいですね。嘘だと分かってるのに。」

「何の話ですか?僕は包帯を変えるとしか聞いてないので、それが全てです。」

「そうでしたね。それにしても、あの女性も優しいですね。」

「世話焼きだから放っておけないんですよ。」

「エイミィさんがいい仲間と巡り会えて良かったです。最初はどうなることかと思ったものですから。」

「あの頃のエイミィは当時唯一の取り柄である元気すらもなくなってましたからね。」

「ご存知だったんですね。もしかして、エイミィさんを釣りに連れて行った方ですか?」

「そうです。なんでそんなこと知ってるんですか?」

「ある時、エイミィさんが楽しそうに帰ってきたので聞いてみたら釣りに連れて行かれたって話していたんです。あの時を境にそれまでの暗い雰囲気から一変したのでよく憶えてます。なるほど。あなたでしたか。」

「大したことはしてないですよ。」

「それでもいいんです。あの子に笑顔が戻った、私たちにはそれが重要でしたから。少し元気すぎて注意することはありますが。」

「それについてはご迷惑お掛けしております。」

「気にしないでください。あれはあれで楽しいので。これからもエイミィさんのことをよろしくお願いしますね。」


 受付の女性は「ふふっ」と笑うと受付に戻って仕事を再開し始めた。受付に静寂が訪れる。

 この女性は本当によくエイミィを見てくれている。前にも思ったが、エイミィはこの人のいる宿にいられて良かった。こうやって気にしてくれている人がいるというのはありがたい。

 階段の上からドアの開く音が聞こえた。どうやら掃除、いや、治療が終わったようだ。階段を下りる足音が聞こえ、クインティナが顔を出す。


「お待たせ。やっと終わったわ。こっち来て。」

「分かりました。でも、本当にいいんですか?曲がりなりにも女の子の部屋ですよ?」

「なによ。エイミィちゃんはれっきとした女の子よ。」

「ごめんなさい。言葉を間違えました。その女の子の部屋に男が入っていいんですか?」

「大丈夫よ。どうせあなたは変なことしないでしょ?」

「するわけないじゃないですか。」

「それが分かってるから宿の部屋にしたの。というか、他の場所が思いつかなかっただけ。……エイミィちゃんの部屋が一番何も無いと思ってここにしたんだけど、失敗だったわ。」

「え?最後なんて言いました?」

「気にしないで。さ、エイミィちゃんが待ってるわ。」


 クインティナに促されて階段を上る。先程は閉まっていたドアが開け放たれている。換気中なのだろうか。これはこれで迷惑な気もするが、まあすぐ閉めるつもりだから面倒だったということなのだろう。

 部屋に入るとエイミィがベッドに座っていた。腕を吊る包帯が真新しい。本当に包帯を交換したようだ。発言に矛盾が生じないようにするためだろうか。よく見ると服も以前と比べて綺麗で肩の辺りに余裕がある。最近買った新しい服のようだ。

 室内は清掃が行き届いており綺麗だった。窓際には鎧が置かれ、その横に槍が立てかけられている。折れたホーンラビットの槍は床に寝かされていた。鏡台の下には花の入った瓶が置かれている。部屋の中で唯一女の子らしさを感じる。それにしても、部屋の隅に置かれた大きな布袋が目を引く。これには触れてはいけないと考え見て見ぬふりをする。

 エイミィは何事もなかったかのように綺麗に整えられたベッドにすまして座っているが、凄く気になることがある。


「おはようエイミィ。その、なんで頭が濡れてるんだ?」


 髪の毛がまるで今洗ったかのように濡れている。自分で頭を触りながら釈明する。


「こ、これは、寝癖を直したばかりだからです!片手だとやりにくいのでクインさんに手伝ってもらったんです!」

「いや、なんでそんなに必死なんだよ。それにしても、寝癖を直しただけにしてはいい匂いがするよな。」

「わ、私だって曲がりなりにも女の子なのでそういうのを付けたりします!」

「あ、ご、ごめんなさい。」


 怒ったような口調で言われてしまった。先程階段の下で話していた言葉が聞こえてしまっていたようだ。軽く拗ねているようにも見える。それにしても『そういうの』とは何のことだろうか。


「まったく。何やってるのよ。」

「いや、気になるじゃないですか。」

「だからって指摘するものではないわ。」

「気をつけます。」

「それにしても、ずいぶん早く来たわね。もう少し時間がかかると思っていたわ。」

「まぁ支部でスコットと話してきただけでしたから。」

「スコットって、カナメくんの数少ない友だちの?」

「数少ないは余計です。あいつ、知らない間に情報屋になってました。正確には弟子入りしたばかりの見習いってとこですかね。それで、この前のレオの件で何か知ってることがないか聞いてみたんですよ。」


 レオの名前が出た瞬間、2人の空気が変わった。真剣な表情になる。


「それで、何か分かったの?」


 クインティナが声を低くして問いかけてきた。


「まず、レオは南街西側に逃げたようです。アルベルトと戦った場所の近くの路地裏であいつの着ていた襤褸と靴が見つかったそうです。」

「あいつ、あんな所に住んでたの?その話し方だとまだ捕まってないのよね?」

「はい。捜査状況は分かりませんが、逮捕していないのは確かです。そして、一週間程前からレオの姿を見かけなくなったらしいです。」

「逃げたのかしら?それとも誰かに匿ってもらってる?」

「分かりません。ただ、雲隠れしているならしばらくは安全じゃないかと思います。」

「それもそうね。貴重な情報ありがとう。」

「あいつ関連の情報は、何か分かり次第教えてもらうことになってるので、その時は共有します。」

「うん。そうしてもらえると助かるわ。」


 話していたクインティナも、話を聞いていたエイミィも、少しだけ緊張が解れたようだった。


「それにしてもクインさん。なんでここに集まったんですか?」

「それは安全だからよ。お店じゃ周りを気にする必要があるじゃない。」

「それならクインさんの部屋でも僕の部屋でも良かったじゃないですか。」

「怪我人を歩かすのは良くないと思ったのよ。」

「そういうことですか。それで何か話したいことがあるんですよね。」

「そうなの。色々考えたんだけど、このパーティーの欠点を改善しようと思って相談しようと思ったの。」

「欠点?」

「住居問題よ。」


 得意満面に問題点を挙げたが、カナメもエイミィも全くピンときていない。一体何を言い出したのか理解ができていない。気まずい沈黙が流れた。

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