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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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情報

 あれから2週間が経った。レオが捕まったという情報は未だに聞こえてこない。あれだけ派手に暴れて、多くの目撃者がいるにも関わらず逮捕に至っていない。

 あの後、警備隊がやってきて事情聴取のために詰所まで連行された。そこでは自分の知っている情報を伝えた。レオの襲撃だったこと、どうやら自分が狙われたらしいということ、レオの両米噛みに血管が浮き出ていたことから薬物中毒者のようだったこと。動機は分からないが復讐と言っていたので決闘の件で逆恨みをされたのではないかとも伝えた。最初は厳しい態度で質問してきていた警備隊員も、こちらが被害者で身を守るために反撃しただけだということが分かると態度を軟化させて話を聞いてくれた。

 詰め所にはクインティナもやってきていた。本来ならエイミィと一緒にいたかったそうだが、こちらも事情聴取のために連れてこられたらしい。カナメほど聞かれることは多くなかったため、わりと早く終わったとのことだった。

 クインティナによると、エイミィは怪我の正式な治療のため病院へ移送されていた。あの場で南門の医務室にいる医師から治療を施されたとはいえ、応急処置が限界だ。しかも途中で門兵が斬られている。エイミィの治療どころではなくなっていた。やむなく近くの病院へ行くことになってしまったそうだ。

 一緒に詰所を出てエイミィのいる病院へ向かった。その道中、クインティナは終始浮かない顔をしていた。レオの変貌ぶりに衝撃を受けているようだった。最終的に死ぬ薬である明気薬に手を出している可能性が高いことを知って、元パーティーメンバーとして思うところがあるのだろう。今回は自分の命を狙われているのだから同情は不要だと思うのだが、そう簡単に割り切ることもできないようだ。

 病院でエイミィと合流した。肩と腕を固定されていた。痛々しい見た目に反して本人は至って元気な様子だった。ただ、折られた槍を見て悲しそうにしていた。謝られもした。自分のために買ってもらった物なのに壊されてしまい申し訳ない、と。それに関しては止むを得ないことだから気にしないでもらいたいのだが、本人はそうもいかないらしい。折られたのは自分の技量の低さにあると思っていた。また、アクアリザードの槍であれば魔力で柄が硬くなる特性があるので折られるようなこともなかったはずだと後悔していた。それらはたしかにそうなのだが、そんなものは結果論でしかない。誰が非難できようか。

 エイミィの怪我は完治までに1ヶ月程度かかるとのことだった。筋力を戻すことも考えると復帰には更にかかる。そうなるとしばらくはパーティーでの戦闘系依頼は受けられなくなりそうだ。自分のために怪我をさせてしまったのだからポーションを買ってあげたいところだが、今はその蓄えもない。後日クインティナに相談することにした。

 この翌日、今度はギルドから呼び出された。登録している傭兵が門前で暴れたのだから仕方ない。被害者側とはいえ話を聞かざるを得ないのは理解できる。初めて会った職員から話を聞かれた。ここでも警備隊にした説明と同じ話をした。この時、レオが引退していることを知った。元々そういう約束で決闘をしてはいたが、その約束を守るとは思っていなかった。思っていたよりも律儀な人間だったようだ。

 その後は捜査の進展を待ちつつ、日々の生活が困らない程度に依頼を受けていた。クインティナと2人で適当な魔物を狩ったり、久し振りに清掃作業をしていた。しかし、警備隊からは初日以降何も話が無い。そもそも当日にかなりの人数を動員して追跡をしていたはずなのに捕まえられなかったのが痛い。レオの影を気にしながら生活するのは疲れる。せめてもう少し情報が欲しい。自分でどうこうするのは無理でも、パーティーメンバーの身の安全を確保するためにも情報が欲しい。

 そこで、一人の男を思い出した。ほぼ同時期に傭兵になったものの戦闘の腕は絶望的だったがゆえに事務系の仕事しかしていない男。将来の展望として情報で戦うと言っていた男。スコットだ。スコットなら朝のギルド支部に行けば会える可能性が高い。話を聞ければ噂話程度でも情報が出てくるはずだ。ダメ元で会いに行ってみることにした。

 朝、支部のロビーに顔を出す。朝ということもあり多くの傭兵が掲示板前に集まっている。スコットなら街中の仕事が貼り出されている掲示板側にいるはずだ。掲示板前の人集りを確認するが姿は見えない。仕方なくロビーの椅子に座って観察する。

 1週間前に南門のような人目につく場所で戦ったせいか、決闘後よりも見られている気がする。こちらを見ながらヒソヒソと話す者が増えた。あれから日が浅く、目立ちすぎたせいだ。

 居心地の悪さを感じながら入口を見ていると、あくびをしながら入ってくるスコットが見えた。椅子を立ちスコットへ向けて真っ直ぐ歩く。途中にいる傭兵がカナメの姿に気が付き道を開ける。足音に気が付いたのかスコットがこちらを見た。気の抜けた笑顔を見せる。


「よーカナメじゃないか。こんな時間に珍しいな。」

「おはようスコット。ちょっと聞きたいことがあるんだ。こっちに来てくれないか。」


 スコットを促してロビーへと移動する。


「で、なんだ。聞きたいことって。」

「先週、俺が南門で襲われたって話は知ってるか?」

「あぁ、知ってるさ。災難だったな。エイミィちゃんは大丈夫か?」

「大丈夫だ。まだ腕を動かせないから大変そうだがな。それに、頭を使う仕事が苦手らしくて今はほぼ休業状態だ。今後は金銭的な面倒も見てやらないといけなくなりそうだ。」

「お前は助けてもらったんだからそれくらいしてやれよ。」

「分かってるさ。エイミィが納得しなさそうだけど。それにしてもよくエイミィに庇ってもらったって知ってたな。」

「当たり前だろ?友だちが殺られそうになったんだ。情報を集めるに決まってんだろ。」

「そうか。それじゃあ、そんなお前を見込んで頼みがある。あの件について知ってることがあったら教えてくれ。」

「そんなの警備隊にでも聞いてくれよ。あいつらの方がよっぽどよく知ってんだろ。」

「教えてくれないから聞いてるんだろ。」

「そりゃそうか。じゃあ、ここから先は有料ってことでもいいか?」

「友だちから金取んのかよ。」

「これでも新米情報屋なもんでね。」

「いつの間に情報屋になったんだよ……。」

「最近弟子入したのさ。」

「情報屋ってそんな仕組みがあんのか。ちなみに金額ってどんなもんなんだ?」

「それは情報の重要度や難易度によるな。ただ、この件に関しては格安にしてやるよ。お前らが狙われたのが許せねぇ。情報屋としてどうかとは思うが、どうしても肩入れしたくなっちまう。」

「ありがとな。じゃあ、まずはあいつがどこに逃げたか教えてくれ。」

「南街西側の路地裏というところまでは分かっている。そこに血塗れの靴と血のついた襤褸が捨てられていたらしい。そこから先の足取りは不明だ。」

「それの詳しい場所は?」

「それは分からん。」

「は?」

「仕方ねぇだろ。俺が聞いた話もその辺の酔っ払いから聞いたんだからよ。どうやってそこに行って、どうやってそこから帰ったのか憶えてねぇとか言っていたぞ。騒がしくて目を覚ましたら警備隊が騒いでいたってんだよ。」

「泥酔していたのか……。そうなるとその情報自体怪しいな。」

「いや、俺も裏取りで現場を見てきたけどたしかに血痕が点々とついていたから間違いないと思うぞ。」

「じゃあ信用できる情報なのか。……。いや、お前場所特定してんじゃねぇか!」

「あ!やべっ!」

「言え!どの辺りだ!」

「くそ、ミスった。後で高値で売ろうと思っていのに。場所は南街西側の川沿いの区画だ。収容所のある区画に比較的近い。大きめの通りから少し入った所に捨てられていた。」

「なるほど。あの辺りならだいたい分かる。」

「たしかに、お前が年末に戦った場所に近いな。」

「――っ!お前、どこまで知ってる。」


スコットから予想外の話が出てきた。アルベルトとの戦闘は知られてはいけないことが多い。特に悪魔の話は絶対に知られてはならない。思わず声を低くし目に鋭さが増す。


「怖い怖い。そう睨むなよ。知っているって言っても、お前らを遠くで見ていた酔っ払いから聞いただけだから会話の内容までは知らねぇよ。」

「それならいいんだが……。それにしても、あの辺の酔っ払いとずいぶん仲がいいんだな。」

「情報収集の基本だからな。あの辺の酔っ払いはだいたい友だちさ。お前と仲のいいウォン爺さんもな。」

「知らないところで人に交友関係を探られるのはいい気がしないな。」

「まぁそう言うなよ。悪い噂は無いから安心しろ。」

「それは喜ぶべきなんだろうか。そんなことより、他に今回の件で知ってることはないか?」

「他に?そうだな。昨日だったか……?最近レオを見かけないって聞いたぞ。」

「見かけない?」

「あぁ。今回の件って犯人はレオだなんだろ?一週間くらい前から見なくなったって何人かの爺さんが言ってたぞ。」

「マジかよ。まさか、街を出たのか?」

「いや、それは無いだろ。門兵を1人斬ってるんだ。正規ルートで街を出られねぇよ。」

「それもそうか。そうなると、どこに行ったんだろうな。」

「さぁな。そこを調べるのは警備隊の仕事だ。」

「確かにな。分かった。ありがとう。あいつが雲隠れしたのなら、しばらくは大丈夫そうだな。」

「そうだと思うぜ。まぁ、また何か分かれば教えてやるよ。」

「助かる。そういえば、あの斬られた門兵は大丈夫だったのか?」

「ギリギリのところで助かったらしい。ポーションが間に合ったそうだ。」

「それは良かった。しかし、兵士は仕事中の怪我ならポーションを使ってもらえるからいいよな。傭兵は自己責任だもんな。」

「仕方ないだろ。正規兵との違いってやつさ。」

「あ〜、エイミィにもポーション使ってやりてぇ。」

「それなら俺に金を払うような無駄遣いをしなけりゃいいんだよ。」

「くそ、言い返せねぇ。」

「とりあえず、今日のところはエイミィちゃんのために安くしとくぜ。トータルで50,000ルクでいい。」

「高ぇなぁ……。」

「何言ってんだ。こんなのほぼ原価だぞ。」

「はいはい。分かったよ。じゃあ、これでいいか?」

「まいど!じゃあ、またな。今日は真面目に依頼を受ける日なんでな。」


 紙幣を受け取るとスコットは依頼掲示板へと歩いていく。心なしかギルドに入ってきた時よりも足取りが軽く見える。

 さて、今の話で当面の危険は無さそうだということが分かった。一応2人にも共有しておいたほうが良さそうだ。ポーションの件も相談したいし、ちょうどいい。まだ朝だ。これからパーティーで集まるのもいいかもしれない。

 ロビーのイスから立ち上がり、一度宿に戻って薄くなった財布を厚くしてから誘いに行くことにした。

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