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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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不覚の結果

 周りが騒がしい。市民の悲鳴が聞こえる。門兵を呼べという声も聞こえる。周りにいる人々が慌ただしく動いていることが分かる。逃げ惑う人々をその場合に居合わせた傭兵が誘導しているのが見えた。エイミィの治療にあたっている女傭兵も医者を呼べと叫んでいる。クインティナがエイミィの止血をしながら心配そうに戦況を見守っている。

 レオを警戒している多くの傭兵は剣を抜いて構えている。しかしレオが執拗にカナメを狙って攻撃を繰り返している事から無差別的な犯行ではなくカナメを狙ったものだと判断した。そしてカナメの動きから加勢の必要性を感じなかった。

 市民も傭兵もカナメとレオを中心に一定の距離を取っている。円形の空間が出来上がる。即席の闘技場のようになった広場で、カナメは戦っている。

 レオは相変わらず力任せの大振りが主体だ。だが、その攻撃は不自然だ。まず、構えからして異常だ。片手に剣を持って力無く背中を曲げて立っている。これでは攻撃パターンが読めてしまう。レオ程度の技量ならなおさらだ。だが、ここから力任せに振られる剣は重く速い。遠心力を利用した斬撃を繰り出してくる。それだけなら大したことはない。受け流して隙ができた所へ打ち込むだけだ。だが、そこに不自然な動きが混ざる。軌道が途中で曲がる。普通の筋力ならあり得ない角度に曲がる。そのせいで受け止めざるを得ない。

 とはいえ、これは大きな問題ではない。最も厄介なのはその耐久性だ。何度も腕や体に杖を打ち込んだのだが怯む様子がない。痛みを感じていないかのようだ。

 今もまた、肩を杖で打ち据える。骨が砕けたような感触が伝わってくる。しかしその砕かれた腕で剣を振り回してくる。無理矢理筋肉で動かしているようだ。


「時間をかけすぎた。そろそろマズイな。門兵が来る。」

「逃がすと思うか?」


 目で周囲を確認し始めたレオを見て逃走を図ろうとしていると判断。そうはさせじと石棘を放つ。速度重視の棘だ。小さく脆いが人の足を貫く程度の威力はある。レオ程度の雑魚なら当てることも容易い。

 レオの足元が光り棘が飛び出す。足元が光った瞬間に気がついたようだが反応が遅い。赤く染まった棘が両足の甲から突き出る。


「ぐあぁぁぁ!!」


 ようやく痛みを表に見せた。その場にうずくまり足を押さえている。全く感じていないわけではなかったようだ。


「これで終わりだ。言いたいことがあるなら門兵か警備隊にしてくれ。」


 下を向けている顔の側面に杖を振る。死にはしないだろう。多少後遺症は残るかもしれないが、エイミィの怪我に対する報復なら安いものだ。本来なら殺してやりたいところだ。しかし、このような衆人環視の中でそこまでのことはできない。ここは踏みとどまるべきだ。


「――!?」


 杖が顔面に当たる寸前、レオの雰囲気が変わった。口から漏れていた声が消え、痛みを堪えているような体の震えが止まった。何かがおかしいことは分かったが、ここで止めるわけにもいかない。むしろ攻撃を当てないとまずい気がした。振り抜くことを意識する。

 しかし、杖は止められた。素手で止められた。一瞬何が起こったか分からなかった。だが実際に目の前で止められている。まずい。杖を掴まれる。

 慌てて杖を引いて構え直す。一体何が起きたのか。警戒を強める。

 レオはその場でゆっくりと立ち上がり、足に刺さった棘を抜いて一歩前に出てくる。


「畜生。やってくれたな。おい、お前。憶えてろよ?こんなボロボロにしやがって。」


 なんだ?なんでこんな他人事のように話すんだ?さっきまであれだけ痛がっていた足も全く気にする様子がないのも気になる。だが、事実は1つだ。


「知るか。お前が仕掛けてきたんだろ。」

「そうだ。確かにそうだ。とはいえ、このまま捕まるわけにも殺られるわけにもいかねぇ。」


 襤褸の内側で手が動き、腰の辺りから小瓶を取り出した。


「ん?おい、まさか――!」


 瓶の中に入っている液体を足と肩に素早く振りかける。足から噴き出していた血が急激に止まる。

 まさか、レオのような輩がポーションを持っているとは思わなかった。


「ちぃ!面倒な!」


 回復をされてしまったが、それならばまた足を貫くだけだ。今度は簡単に抜けない長さにしてやる。

 魔法をイメージして発動させようとしたところ、2人を包囲している人の壁が割れた。そこから槍を持った門兵が入ってくる。


「お前ら!こんな所で何をしている!剣を下ろせ!」


 門兵が2人に槍を向けて包囲する。


「俺に槍を向けてどうする!襲ってきたのはあいつだ!」


 両手を上に上げて門兵に抗議する。とはいえ、持っている武器が杖であることから門兵の警戒も大したものではない。向けてくる槍も力が入っていない。

 対照的にレオは無言だ。剣を手放す様子は無いが、腕をダラリと下げ手に持った剣は下に向いている。一見すると攻撃の意思は無いように見える。だが、先程もこのような姿勢から攻撃してきた。油断はできない。門兵へ注意を促す。


「門兵さん。あいつはあの状態から攻撃してきます。気をつけてください。」


 だが、レオの近くにいる門兵は聞こえていないのか大した警戒もせずに近づく。足が血まみれということもあり動けないという考えもあったのだろう。その考えが致命的なミスに繋がる。


「ぬぅぅうあぁーー!!」


 門兵が取り押さえようと手を伸ばしたところ、レオが渾身の力を込めて剣を振り回した。手に持っていた槍が弾き飛ばされる。槍を失い無防備になった門兵は急いで腰の剣を抜こうとするが間に合わない。剣が無慈悲に振り下ろされた。

 肩口を斬られた門兵から血が飛び散る。再び周囲の群衆から悲鳴が上がる。門兵が到着したことで緩でいた空気が一変する。

 斬られた門兵が膝から崩れ落ちカナメとレオの間に倒れる。レオが顔をこちらに向ける。その瞬間、頭に被っている襤褸がふわりと浮き一瞬だけ顔が見えた。目元が先程とは違う。米噛み辺りまで血管が浮き出ている。ハッとする。見覚えのある異変だ。どっちだ?薬か、悪魔か。あの相貌からすると薬の方か?いずれにしても危険だ。


「門兵さん!あいつ、薬物中毒者だ!中毒症状が出てる!気をつけて!」


 レオが慌てて襤褸で顔を隠す。そしてそのまま後ろへ振り向いて走り出した。


「追え!逃がすな!」


 その場にいる門兵は、倒れた門兵とカナメの所に数人を残してレオを追って走り出す。

 先に走り出したレオは既に群衆の壁に到達している。壁の内側にいた傭兵がこれを迎え撃つ。そのうちの一人にレオが剣を投げつけた。飛んできた剣を咄嗟に弾く。剣を投げつけたことに、よって投げつけられた傭兵も、その左右にいた傭兵も怯んでしまった。そこをつけ込まれた。

 剣を弾いた傭兵に飛び込みながらその体に鞘を叩き込み傭兵が倒れた。傭兵の後ろにいた市民が悲鳴を上げ逃げ惑う。恐慌状態に陥った群衆の中に突っ込んで行った。こうなってしまっては門兵も追跡しにくくなる。逃げられる。


「くそ!なんなんだあいつは!」


 レオを追いかけていく門兵についていこうとするが、カナメ自身も門兵に止められてしまう。両脇に門兵がついた状態でその場に待機するよう求められる。こうなってしまっては門兵や応援に来るであろう警備隊に任せるしかない。一旦落ち着こう。

 周囲を見ると斬られた門兵のもとに医師が走っていくのが見えた。そういえばエイミィはどうなった?


「すみません。仲間が斬られたので、様子を見に行ってもいいですか?」

「分かった。どの辺りだ?一緒に行く。」


 先程までエイミィたちのいた場所に目をやると既に治療が終わったらしく腕を布で吊って座っているのが見えた。顔色は悪いがこちらを見て笑顔を見せる。無理をしているようだが、座って笑顔を作れるくらいなら心配無いだろう。


「エイミィ、大丈夫か?さっきは助かった。」

「大丈夫……ではないですけど、動けます。幸い、肩の切傷は深くないそうです。ただ、鎖骨が折れてるらしいので少し仕事が受けられなくなりそうです。」

「そんなことは気にするな。お前が無事ならそれでいい。」

「無事ではないんですけどね。」


 そう言って軽く笑うと、肩を動かしてしまったようで少し痛そうにする。


「カナメくん。さっきの、レオ……よね?」

「そうだと思います。他に思い当たる人物もいないですし、本人も否定しませんでした。」

「あの顔、どうしちゃったのかしら。」

「分かりません。ただ、最後にチラッと顔が見えた時には目元から米噛みの方に血管が浮き出ていました。顔の色が変わっていなかったから薬の方だと思うんですが、それにしては逃げ出すような判断ができていたのが気になるんです。途中で人が変わったような瞬間もありました。」

「嘘でしょ?」


 クインティナは信じられないといった表情を浮かべて絶句した。そしてそのまま思い詰めたように黙ってしまった。

 あの決闘以降、噂も聞いていなかったから完全に忘れていた。さっき、あいつは『あの日以降全てを失った』と言っていた。ということは決闘で負けた後に約束通り引退したのだろう。そして逆恨みをしつつ薬に溺れたということか。しかも最後は死ぬ薬だ。なんとも救いの無いやつだ。少しだけ哀れに感じてしまった。

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