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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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門前

 早朝、真新しい鎧に身を包み南門へ行く。フォルクスに直してもらった鎧は以前と同じ色の革が張られ、新品同様の状態になっていた。朝日に照らされて反射している。

 2日前にこれを渡された時はあまりにも綺麗で本当に驚いた。試着してみるとサイズ感も良くなり、今までなんとなく感じていた鎧の擦れる感覚もなくなった。率直に言って動きやすい。

 これはエイミィも同じようだった。想像以上に動きやすくなって驚いているようだった。また、自分での手入れ方法を教えて貰っていた。フォルクスも丁寧に教えていた。まるで親が子に物を教える時のように見えた。ただ、その後に手入れ道具一式を定価で売っていたのには商売人だと思わされた。

 アクアリザードが持っていた槍は綺麗に錆が落とされていた。研いでみた結果、この槍は可もなく不可もないものだったようだ。フォルクスによれば、この槍の刃は一般的な槍と同様に突く、斬るということに対応でき、突き特化とも言えるホーンラビットの槍に比べて扱いやすいとのことだった。とはいえ、金属自体はさほどいいものというわけでもなく、総合的に見るとホーンラビットの槍よりも性能は良いが、一般的な槍と大差の無い程度の物であるそうだ。だが、この槍には1つの特徴がある。アクアリザードの槍は程度の差こそあれ必ず魔力を流せるらしい。どうやらアクアリザードの鱗を模した模様の部分に魔力が流れて少しだけ硬くなるようだ。柄の部分が硬くなってもあまり意味が無いような気がするが、所詮はアクアリザード程度の持っていた槍なので仕方が無い。

 鎧と槍を受け取ったあと、その足で2人はクインティナと仕事の話をしに出張所までいった。

 約一週間ぶりに会ったクインティナはカナメに対して厳しい目を向けてきた。理由は分かっている。無断で鎧の修理を依頼して討伐依頼を受けられなくなったのを報告しなかったからだ。会って早々に先制の謝罪をしたが、当然その程度で許されるわけもなく滾々と説教をされた。周囲の目が痛かった。

 こういう時はなぜか思考が別の方向へ行きがちだ。この時、なぜか2人から同じ匂いがすることが気になってしまった。2人からは妙にいい匂いがした。花の匂いだ。同じ香水を使っているのだろうか。いや、エイミィは香水を使うようなタイプではない。ということは誰かに使い方を教えて貰ったのか?友だちか?いや、友だちなら同じ匂いというのはどういうことだ?そもそも香水なのか?石鹸の可能性もある。

 こんなことを考えていたら話を聞いていなかったのがバレて更に怒られてしまった。さすがにエイミィも庇ってはくれなかった。


「あの時はどうかしてたなぁ。さすがに何考えていたかなんて言えなかったわ。――ん?」


 出張所前の通りを歩きながら独り言を呟いていると、誰かに見られているような気がした。周囲を見回すが誰もこちらを見ていない。気のせいかと思う。だが、この感覚は花橋を渡ってきた時から時折感じる。こちらの様子を伺っているような、ねっとりとした気配だ。杖を持つ手に力が入る。

 最初は南門へ行く傭兵たちがカナメを見ているのかと思った。奇しくも2日前に多くの傭兵の前で説教されていたのだ。変な噂が流れて注目されてしまっている可能性も考えられた。しかしそれにしては周りの傭兵の目線がこちらに向いていない。当然、傭兵以外の目線もだ。

 不審に思いつつも、実際に何も無いのであれば気のせいだと思うしかない。首を傾げつつ緊張を解いて再び歩き始めた。

 南門に着くと、南門の開門待ちをする傭兵たちで混雑していた。その中でクインティナとエイミィを探すのは困難かと思われたが、魔女風の服は思いの外目立つ。特に春から初夏に移ろうとしているこの時期に黒いローブは目立つ。さすがに暑すぎるだろうと思う。それについてはカナメの藍色の服も人のことを言えたものではないのだが。


「おはようございます。」


 2人にいつも通り挨拶をする。朝の弱いクインティナはいつものようにムスっとしている。それとは対照的にエイミィは元気だ。満面の笑顔で迎えてくれる。


「エイミィは今日はホーンラビットの槍にしたんだな。」

「はい。この槍でまだ不満は無いですから。アクアリザードの槍はこの子に比べたら重いから取り回しが不安ですし。」

「なるほどな。まぁ納得できるまで考えればいいさ。――ん?」

「どうしました?」

「いや、また誰かに見られてるような気がしてさ。さっきから時々感じるんだよ。」

「そんなんですか?でも、こっちを見てる人なんていないですよ?」


 エイミィが南門前の広場を見渡すがこちらを見ている者はいないようだ。


「どうせ一昨日怒られてるのをいろんな人に見られたから気になってるだけでしょ?自意識過剰よ。」

「う……。それは……否定しきれない……。」

「カナメさん、そんなことを気にしてたんですか?」

「まぁ……多少は。だって狂犬だとか飼い主だとか言われてるのに、あんな姿見られたら新しいあだ名がつきそうじゃないか。」

「バカね。そんなのどうにもできないわよ。私はもう諦めたわ。」

「私はまだ諦めてません。少なくとも飼い主にはなりたくないです。」

「はぁ……。予定を変更して街出ようかな。」

「何言ってるんですか。まだ4等級にもなってから自由に他の街には行けないですよ。――危ない!」


 エイミィに突き飛ばされた。突然のことで対処できず地面に転んでしまう。


(いって)ぇ。何すんだよ。」


 地面に座って俯いたままエイミィに文句を言うと棒の落ちるような音が聞こえた。クインティナが叫ぶ声が聞こえる。周囲の人の悲鳴も聞こえる。何かおかしい。

 目線を上げるとエイミィが肩を押さえている。槍を持っている手は力無く垂れ下がり、服の下から血が流れ落ちている。何が起きた。よく見ると槍も半分ほどの長さになっている。


「ちっ!女に守られるなんて恥ずかしい野郎だ。」

「後ろから斬り掛かってきた人が何を言っているんですか!」


 エイミィが襤褸を纏った者と言い争っている。相手は声からして男だ。なんとなく聞いたことがあるような声をしている。


「エイミィ!大丈夫か!?何をされた!」


 慌てて立ち上がりエイミィに駆け寄る。肩の傷を診ようとするが目線で制止される。


「こいつがカナメさんの後ろから剣で斬り掛かってきたんです。」

「エイミィちゃんがカナメくんを庇って斬られたわ!早く手当てしないと!」


 なるほど。突き飛ばされたこと、エイミィが俺を庇って肩を負傷していること、槍が折れていることを考えると状況が飲み込めてきた。後ろから斬り掛かってきた暴漢にエイミィが気がついて俺を突き飛ばし、槍で受け止めようとしたが柄を切断され肩を斬られたということか。槍と鎧のお陰で大事には至らなかったようだが、一歩間違えば死んでいた。

 エイミィと男の間に入り杖を構える。


「おのれ、ふざけたことを――!クインさん!エイミィを頼みます!」


 クインティナがエイミィを少し離れた場所へ連れていく。途中で何人かがエイミィの周りに集まり手当てが始まる。


「ふん。やっと隙を見せたから好機だと思ったんだがな。仕方ない。やってやるよ。」

「やっと?やっとだと?まさか……。」


 さっきから感じていた視線はこいつからのものだったのか。迂闊だった。たしかに襤褸を纏っていれば視線なんか分かるわけがない。多少の違和感はあっても南街である以上は南街西側からそのような格好をした者が流れてきてもおかしくはない。


「そうだよ。俺はずっと尾けていたんだ。花橋からずっとな。」

「あれはお前だったのか。何が目的だ!」

「復讐。お前と、後ろにいるクインティナへのな。」

「は?俺とクインさんへの?そんなことをされるような事をした覚えはない。人違いじゃないのか?」

「間違えるわけが無いだろ。あの日から俺の人生は狂った。お前らのせいで俺は全てを失った。それなのにお前らは毎日ヘラヘラとしやがって。許せないんだよ!死にやがれ!」


 男は片手に持った剣を振りかぶる。だがそのような大振り、当たるわけがない。その音や剣の速さから大した威力だと分かる。剣を受けずに躱す。

 顔の横を剣が通り過ぎようというところで、剣が横に曲がってきた。不自然な動きだ。体のバランスを崩しながら強引に軌道を変えてきた。

 咄嗟に杖で受け止める。重い。変な動きをしているくせに重い一撃だ。受け止められはしたが、両手を使わざるを得ない。思わず顔を歪める。


「くっ!」

「ふはは!いいねぇその顔!」

「なんなんだお前は。こんな動きをするようなやつは知らないぞ。」

「そんなことはない。この顔、忘れたとは言わせないぞ。」


 男は頭から被っている襤褸をずらして顔を見せる。その顔を見たカナメの驚愕の反応に満足したのか、すぐに顔を隠す。


「……。まさかお前、レオ……なのか?」

「憶えていてくれてありがとよ。だが、今すぐ死ね。」


 正体を明かした直後、再び斬り掛かってくる。驚きのあまり大きく後退して距離を取る。

 レオの顔は変貌していた。目は窪み、頬はこけ、唇は紫色になっている。声と髪色、そしてカナメとクインティナに因縁のある相手という情報がなければ分からなかった。この短い期間に何があったんだ。ただ、分からないことは多いが普通の状態ではないことは分かる。エイミィのこともある。全力で迎え討つ。剣を抜くことも視野に入れ、再び杖を構えた。

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