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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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装い探し

 エイミィは中央広場噴水前のベンチに座っている。クインティナとの待ち合わせのためだ。

 最近もこの場所に来た。その時は遅刻しそうになった。だが、今日は約束の時間より早く来ている。

 待ち合わせ中とはいえ、1人でこの場所にいるのは随分と久し振りだ。1人だとこの場所に来る用事が無い。自分のいる宿は旧市街東門側で、行くのは専ら南街と新市街東門側。訓練で走る時も人の多いこの広場を通るのは避けている。なんとなく恥ずかしいからだ。それに、エイミィはこの国の宗教の敬虔な信者ではない。敬虔な信者なら礼拝や告解をするために中央広場にある教会に来ることもあるだろう。だが、エイミィは礼拝に来るくらいなら寝ていたいと考えてしまう。だから教会に来ることもなく、当然中央広場にも来なかった。

 ベンチに座りながら教会を見て時間を潰している。たしか、カナメは教会の教えは嫌いだが建物は好きだと言っていた。建物が綺麗だからだという。そんなことを思い出しながら見てみると、たしかに外壁にはレリーフが貼られ、窓ガラスにはステンドグラスが使用され、所々に彫刻が配置されており綺麗だ。少し装飾が過剰ではないかと思うが、よく見るとレリーフには連続性があるようだった。なにを伝えようとしているのかは分からないが、レリーフの枚数が多い理由はなんとなく分かった。

 そんな観察をしているとクインティナがやってきた。いつもの魔女ファッションではなく長袖のシャツに丈の長いスカート。長い髪を後ろで束ねている。束ねている髪飾りは木の枝や蔓を組み合わせたものだった。普段と異なる印象で、おしゃれなお姉といった装いだ。ほのかにいい香りもする。


「待たせちゃったかしら。」

「いえ、大丈夫です。少し早く来すぎていただけなので。」


 そう。今日はシャオとの待ち合わせの時のように遅刻しないように気合を入れた結果、待ち合わせ時間の1時間前には到着していた。さすがにやることが無かったため、普段はやらない建物の観察なんかをしていたのだ。


「そう?それなら良かったわ。それにしても、随分熱心に教会を見てたわね。」

「前にカナメさんが教会の建物を見るのが好きだって言ってたのを思い出して見ていたんです。たしかに凄いですね。見ていて飽きないです。」

「ふ〜ん。そうやって知らないものを観察するのはいいと思うわよ。それに引き換えカナメくんときたら……。」


 クインティナが急に嫌な顔をした。何かしたんだろうか。


「カナメさんがどうしたんですか?」

「この前、出張所で待ち合わせをしていたら、他の街から来た女傭兵の体ばっかり見ていたわよ。何考えてるのかしら。」

「あれだけ女性傭兵の薄着を批判してたのに……。」

「実際に仕事で関わるのは嫌だけど見る分にはいいんじゃない?」

「そんなものなんでしょうか。」

「さぁね。試してみる?」

「私がですか?」

「そう。他の街の傭兵みたいな格好して反応見てみる?」

「嫌です。あんな恥ずかしい格好できません。」

「冗談よ。でも、他の街に行ったら私たちの方が恥ずかしい格好なのかもしれないのよね。」

「そ、それは……。今は考えないようにします。とにかく、今日はこの街で使える仕事用と普段用の服が欲しいんです。」

「分かってるわ。西側のお店に行きたいんでしょ?」

「なんで分かったんですか?」

「やっぱりね。わざわざ私と行きたいって言うからには、いつもと違う感じにしたいのかなって思ったの。でも北側だと高級すぎるから西側じゃないかなって。」

「あ、当たりです。東側は東側でいいんですけど、最近になって西側の方が綺麗な服が多いのを知って行ってみたかったんです。」

「でも、仕事用には向かないかもしれないわよ?」

「それなら後で東側に行くので大丈夫です。」

「そう?それじゃ、行きましょうか。」


 2人は新市街西側へと歩き出した。

 西側には高級な店舗こそ少ないが小綺麗な店が多い。それは飲食店に限ったことではない。服屋、家具屋、雑貨屋、果ては青果店まで綺麗で清潔感を感じる。その中でも服屋は数日前にシャオとこの辺りを歩いた時から気になっていた。

 あの時は2人とも西側の雰囲気に飲まれて目的の店以外に入ることができなかった。だが、今日は違う。クインティナがついている。夜営をした頃からローブの下に着ている服がおしゃれなのは知っている。どうやら流行の服を取り入れつつ自分なりに組み合わせているようだ。そして流行の服はだいたい西側で売っているらしいことを最近知った。ということは、クインティナは西側で服を買っているのではないかと思った。

 実際、エイミィが睨んだ通りクインティナは西側の店をよく知っていた。通りを歩きながらエイミィに説明してくれる。あの店は高い、あの店は服の種類が多い、あの店は店員が話しやすい、あの店は――。一体どれだけの店を見て回っているのか。

 そのお陰で買い物は非常にスムーズに進んだ。今後のことを考えて全体的にゆったりとした服を選んだ。シャツだけでなくズボンも購入した。普段用にスカートを提案されたが、それは拒否した。たしかに足に筋肉がついてもスカートならサイズを気にする必要はないのだが、どうにも好きになれない。親に押し付けられていた反動だろうか。

 また、最新のファッションとして露出の多い服も売っていた。中にはどうやって着るのか分からない形のものや着ている意味があるのか分からないものもあった。クインティナが笑いを堪えながら勧めてきたが試着するまでもなく却下した。たしかに「カナメくん喜ぶと思うわよ?」という言葉には一瞬グラッときた。だがその顔には人を騙そうとしている笑顔が見えた。仕事で着ていったら怒られるのは間違いないし、普段用として着ても目を逸らされてしまいそうだから着る理由が無かった。

 こうしていくつかの服を揃えられたところで、クインティナが生花店に行きたいと言い出した。ここまで買い物に付き合ってもらったのだからその程度は問題は無い。むしろどんな花を買うのか気になったのでついていくことにした。

 そこでクインティナが買ったのは数本の花だった。色も種類もバラバラ。選ぶ時に妙に匂いを気にしていた。なにをしようとしているのかイマイチ分からなかった。


「お待たせ。これで私の用事は終わったわ。」

「クインさん。そのお花、どうするんですか?飾るにはちょっとバランス悪いですけど。」

「あぁこれ?これはね、香油にするのよ。」

「香油、ですか?」

「この花をね、油に漬けるの。何週間かかけてじっくりと漬けると油に花の匂いが移るから、それを髪につけたり首筋にちょっとだけ塗るのよ。そうすると髪は綺麗になるし、いい匂いがするしで気分が良くなれるわよ。」

「へぇ~。そんな物を作ってるんですね。あ、もしかして今日もつけてます?」

「分かる?最近できた新しいやつをつけてみたんだ。」

「やっぱり。会った時にいい匂いするなぁって思ってたんです。何の花を漬けたんですか?」

「なんだったかな?たぶん森の中で摘んできた花だったと思う。」

「そういえばたまにお花摘んでますよね。この前は枝とか拾ってましたけど。あれも漬けるんですか?」

「あれはこっちよ。」


 軽く後ろを向いて髪飾りを指で指し示す。


「あの時拾ったもので髪飾りを作ってたの。」

「それを作ったんですか?凄いですね。お店で売ってそうです。」

「ありがと。やってみると意外と簡単よ。休みの日の暇潰しにもなるし。やってみる?」

「いえ、私、手先は器用じゃないのでやめておきます。でも香油の方は気になります。」

「香油は漬けるだけだから楽よ。今度教えてあげる。」

「ありがとうございます!」

「なんなら少し分けてあげるわよ?そのかわり、エイミィちゃんのができたら私にもちょうだいね。」

「ありがとうございます。なんか、自分で作った物を交換しあうって面白そうです!」

「じゃあ今度こっちの宿屋に来てもらおうかしら。いつがいいかしらね。」

「それならいつでもいいですよ。今、鎧を調整に出しちゃって討伐依頼受けられませんから。」


 これを聞いてクインティナの空気が変わった。明らかに怒っている。


「は?なにそれ?聞いてないんだけど。」

「ご、ごめんなさい!昨日槍を赤髭部防具店に持っていったら、その場で鎧を調整する話になっちゃったんです。それで、カナメさんの鎧の修理と一緒にお願いしちゃいました。」

「なるほど。これはカナメくんにお仕置きが必要ね。エイミィちゃんはこれからお説教よ。」

「うぅ……。お手柔らかにお願いします。」


 その後、近場のカフェに場所を移して説教をされることになってしまった。

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