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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
プロローグ
11/12

別れの日

 あれから2週間が経った。初めて石を作れるようになった日から毎日毎日ひたすらに石を作り続けた。初めのうちは小さく歪な形をした石しか作れなかったが、徐々にその大きさが増し、形も歪さが消えてきた。これは魔力操作が上達した証なのだという。魔力を正確に制御できるようになると滑らかな石を作ることができるようになるらしい。

 だが、作った石の硬度が問題だ。たしかに石なのだが、脆い。細長くすると手で折れてしまう。これは魔力制御の練度や石への理解、そして医師と魔力の相性によって左右されるらしい。そのため、魔力制御の練習として石の形状を整える作業を行うこととした。

 また、未だに石を飛ばすことができない。実際に石弾の魔法を見ているからイメージはできているのだが、魔力をどう制御するのかが分からない。そもそも浮かせることができないのだ。この状況に焦りを感じていると、カミュが焦ることは無いと言ってきた。難易度の高い魔法だからすぐにできるようになられては立つ瀬がないとのことだった。

 そして今日、魔法の訓練をしている中でカミュが切り出してきた。


「カナメくん、ちょっと話があるんだ。魔力切れになる前に話しておくよ。」


 いつにも増して真面目な顔をしている。何か問題でもあったのだろうか。


「どうしたんですか?」

「これからの話だ。私たちは2日後にここを発つことになった。」


 急な話に驚きを隠せない。


「え!?どういうことですか!?」

「バルドの怪我が治り街への護送が可能な状態になった。それで、明日街から護送用の傭兵が来る。そして明後日、その傭兵と我々がバルドとその部下11名を護送する。だから、明日が最後の訓練となる。」


 たしかに最初からそういう話だった。寂しいし、残念ではあるが、致し方ない。


「そうですか。でも、カミュさんがいなくなったらどうやって魔法の訓練をすればいいんですか?」

「訓練のやり方については今まで教えてきたやり方が基本だ。だからこれからも続けていくように。魔力による理解もいろんなものに試してみるといい。一度理解したものも、何度も理解しようとしてみるといい。精度を向上させることができる。ただ、魔力切れはさせないようにしてくれ。正しい対処ができる者がいない状態で魔力切れになると命に関わる。」


 たしかに魔力切れは1人の時になるものではない。実はカミュがいなくなることでこれが一番不安だった。一安心だ。カミュがいなくなるのは残念だが、魔力切れになる必要が無くなるのは嬉しい。


「それと、ハヤテとの約束で、たまにカナメくん宛に手紙を出す。魔法について教えられるようにする。」


 父が自分の知らない所でそんな約束をしていた事に驚いた。おかげで魔法で分からないことが出た時や壁にぶつかった時に1人で悩まなくてよくなる。数か月に1回というのは残念だが、教えてもらえる環境が残っていることは大いに助かる。


「ありがとうございます。それと、ご指導ありがとうございました。」

「その挨拶はまだ早いよ。それに、また近くに来たら寄らせてもらうから。その時までに腕を磨いておくんだよ。」


 カミュはそれまでの硬い表情を崩し、笑顔で答えた。


「とにかく、明日が最後の訓練だ。といっても、明日来る傭兵との顔合わせがあるから午前中だけなんだけどね。最近はカナメくんも魔力量が増えて魔力切れを起こすのは午後になっていたから、明日は魔力切れの練習は無しかなぁ。」


 お!強制魔力切れは今日が最後ということか!ちょっと嬉しい。思わず頬が緩んでしまう。


「カナメくん。魔力切れの練習をしないって言った瞬間にニヤけるのはどうかと思うよ。」


 おっと、顔に出すぎていたようだ。


「ごめんなさい。でも、魔力切れは本当に辛くて。魔法の練習は楽しいのですが、これだけは本当に嫌で⋯⋯。」


 これのせいで魔法訓練から逃げ出したくなったほどだ。


「まぁそうだろうね。本当はやる必要無いし。」


 は?今なんて言った?


「カミュさん、いま、なんて⋯⋯?」

「いや、魔力切れを利用した魔力量増加訓練はやる必要ないんだよ。魔力量は成長と共に増えるものだし、魔法を使っていれば自然と増える。限界を超えて増やしたい人がやるものなんだ。」


 え?聞いてた話と違う。


「カミュさん、前に『体力や魔力量は訓練しないと増えない』って言ってましたよね?」

「あぁ、あれ?あれはね、短期間できみを成長させるための嘘だよ。ああ言えばこの訓練法を受け入れると思ってね。」


 今、過去最大級にカミュへの怒りがこみ上げている。魔法の師匠としての尊敬なんか吹き飛ばすほどの怒りだ。


「カミュさん、あなたに子供を思いやる気持ちは無いんですか!この人でなし!」

「まぁまぁ落ち着いて。その甲斐あってきみの魔力量は大人でも驚くほど多くなってるんだから。だって、何時間もぶっ通しで魔法を使っていても魔力切れも魔力疲労も起こらないだろ?普通はそんなに魔法を使うことはないから、余程のことがない限り魔力切れは起こさないよ。」

「それはそうでしょうけど、この2週間どれだけきつかったことか⋯⋯!」


 怒りのあまり涙が出てきてしまった。まったく、とんでもない嘘をついてくれたものだ。


「ごめんごめん。そんなに泣かないでくれよ。騙していたのは謝るから。」

「もうカミュさんの言うことなんて信じられません!」


 謝るカミュに対してそっぽを向いて抗議の意思を見せる。


「まいったなぁ。⋯⋯そうだ!そしたらこの件のお詫びとして、今度きみにちょうど良さそうな武器があったら送るよ!」


 なにやら面白そうな話を持ち掛けてきた。詳しく話を聞いてみることにする。


「武器、ですか?」

「そうだよ。きみは魔法も剣も使える珍しい人だけど、もし街に出たら両方できることを隠さないといけない話はしたよね。その隠すためにも武器が必要だと思うんだよ!」

「たしかにそんな話はしましたね。でも、魔法使いは武器を持たないって言ってましたよね?ということは剣ですか?魔法は隠して剣を使えと。」

「いや、その判断はまだ先にした方がいい。だから方向性を決めたら教えてくれ。それに見合う武器を用意する。」

「いや、魔法使いは武器を使わないんですよね?」

「たしかに魔法使いは武器を使わない。でもね、持たないわけではないんだ。代表的なものでは杖。杖も立派な武器だけど、魔法の威力を底上げするための触媒として持っている魔法使いが多い。あくまでも触媒として持っているだけだから杖で戦ったりはしないんだけどね。世の中には杖術といって杖で戦う武術もあるんだけど、そんなものを修めている魔法使いなんかほとんどいない。折れたら嫌だからだろうな。」


 なるほど。武器は持っているけど使えないというわけか。魔法使いって大丈夫なのか?


「でも、杖にした場合、僕の強みが消えますよね。剣が使えないじゃないですか。」

「たしかに、杖を持って腰に剣を下げたら丸わかりだ。両方使いますと言っているようなものだから。だから剣を持って魔法が使えるのを隠した方が自然だと思う。杖は無くても魔法は撃てるからね。でも、世の中には変わった杖があるんだ。仕込み杖っていって、一見すると普通の杖なんだけど、その中に剣が入っているんだ。これなら見た目は魔法使いとして活動していても、いざという時に剣を使うこともできる。」


 仕込み杖?なにそれカッコいい!めちゃくちゃ特別感ある!


「じゃあ仕込み杖をお願いします!」


 カミュの話を聞いて即答してしまった。


「え?いいの?今決めちゃうの?」

「はい!それに、今は街に行く予定も無いですし、傭兵になることも無いでしょうから、何をいただいても変わらないと思うんです。それなら、少しでもカッコいい方がいいなと思いまして。」


 自分で言っておきながら、今考えた即興の理由としては上出来ではないかと思う。


「ま、まぁきみがそれでいいなら構わないさ。じゃあ私の行った先で良さそうなものがあれば送ることにするよ。」

「ありがとうございます!ところで、今日は魔力切れの訓練はしなくていいですよね?本当は()()()()()()()なんですから。」


 わざと棘のある言い方をして魔力切れ訓練を回避しようと試みる。


「それはダメだ。今日の訓練メニューはしっかりやるぞ。」


 あっさり却下されてしまった。



 2日後、カナメは父と共に村の門にまで来ていた。盗賊襲撃の際に燃えてしまった住宅は未だに残されている。詰所と物見櫓は撤去されているものの、まだ資材も置かれていない。もともと詰所の建っていた場所にはテントが張られており、これが臨時の詰所となっているようだ。

 詰所の中から兵士とカミュたちと昨日来た傭兵が出てきた。バルドたちは既に馬車の中に収容されているようだ。

 カミュがこちらに気が付いて近寄ってきた。


「ハヤテ、この一件が片付いたらまた遊びにくる。その時はまた一緒に飲もう。」

「おう。楽しみにしてるぜ。気をつけてな。死ぬなよ。」


 父の挨拶は不穏なものだったが、傭兵としてはこれが普通なのだろう。2人とも笑っている。


「カナメくん。きみの魔法の訓練は楽しかった。次に会う時にどれだけ成長しているか楽しみにしているよ。」

「カミュさん、短い間でしたがありがとうございました。手紙、待ってますね。あと、例の物も。」

「あ、あぁ、分かった。ちゃんと探しておくよ。じゃあ2人とも、またな」


 カミュは振り返って馬車の方へ歩いていく。そこにはカミュのパーティーメンバーがおり、皆がこちらに向かって手を振ってくれている。カナメは彼らに大きく手を振って応えた。

 カミュと兵士の上官が軽く会話した後、御者が馬に指示を出して動き出した。ついに出発だ。

 ガラガラと大きな音を立てて馬車が進む。馬車が進んだ後には砂埃が舞っている。カミュたちはこの砂埃によって見えなくなってしまった。

 カナメは馬車が見えなくなるまでその場で見送っていた。かなり遠くまで馬車が進んだところで父が話しかけてきた。


「なぁ、カミュに言っていた『例の物』ってなんだ?」

「秘密。」


 父には顔を向けずに震える声で簡潔に答える。今顔を向けてしまうと、恥ずかしい姿を見られそうだからだ。父もそれが分かったのだろう。そのあとは話しかけてこなかった。

 今は別れを惜しんでしまっているが、これで会えなくなるというわけではない。いずれ再会する日のために、魔法の訓練を続け、再会した暁にはカミュを驚かせるほど成長しようと心に決めた。


 しかしその5年後、カミュが行方不明になったという噂を耳にすることになる。

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