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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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メンテナンス

 カナメは一本の錆びた槍を持ってエイミィと共に歩いている。ギルド出張所近くの裏道。いつものように人気の少ない静かな道だ。

 今持っている槍はアクアリザードが持っていたものだ。焦げ茶色の柄に金色の口金。穂先は表面が錆びついた両刃。見た目はシンプルを突き詰めたような形状だ。当初はギルドで引き取ってもらうつもりだった。だが、錆がひどく買い取ってもらえなかった。それどころか引き取り手数料なるものが必要になると言われてしまった。せっかく持って帰ってきたのにまともに処分をすることすらできないのは納得ができなかった。そこで、赤髭部防具店に持っていってどうにかならないか相談することにしたのだ。

 今日はクインティナはついて来なかった。宿でやりたいことがあるらしい。道端で拾った物を詰めた袋を持って帰っていった。最近、そんなことが増えた気がする。春の陽気はクインティナでさえもおかしくしてしまうのかと思い、少しだけ春を呪った。

 店の前に着くと、今日はいつものように静かだった。


「この前クインさんと来たときって、ここでフォルクスさんとお客さんが喧嘩してたんですよね?」

「そうなんだよ。危うく巻き込まれるところだった。今日はそんなことが無くて安心したよ。」

「でも、ここまで静かだとお店としては不安ですけど。」


 軽口を叩きつつドアを開ける。中ではフォルクスが陳列している商品の掃除を行っているところだった。


「こんにちは。今、忙しいですか?」

「ん?カナメとエイミィか。どうしたんだ?」

「実は、今日倒した魔物がこんな物を持っていまして。フォルクスさんにどうにかできないか聞いてみようと思ったんです。」

「それか。見せてみろ。」


 槍を渡すとカウンターへ持って行き観察し始める。


「これはまた珍しいものを。アクアリザードの槍じゃないか。」

「え?そんなに特徴的な武器なんですか?」

「そうだ。あいつらはたまに錆びた武器を持っているんだが、その武器種には統一性がないんだ。ただ、一箇所だけ同じ部分がある。それが柄の部分だ。」


 たしかに柄には蛇革のような模様がついている。特に気にしていなかった。


「あいつらの持っている武器はなぜか柄の部分がアクアリザードの鱗を模したものになっている。あくまでも模したもので鱗そのものではないがな。だから大した効果はない。魔物の中には本物の鱗を使用したものがあってそれは魔力をよく通すから魔法武器として重宝されるんだが、アクアリザードのはそんなものではない。まぁ多少は魔力を通すから副次効果があるものもあるんだがな。」

「へぇ~。そんな物もあるんですね。それにしても、フォルクスさんがそこまで知ってるならギルドでも知ってておかしくないですよね。なんで教えてくれなかったんでしょう?」

「そりゃお前、あいつらは修理して使うって考えがねぇからだよ。そのままの状態で売れるか売れないかが問題なんだ。」

「なるほど。たしかにこの状態じゃ売り物になんかならないですよね。まともな状態にするにはお金がかかる。」

「引き取った後に修理してんのか処分してんのかは知らないが、そのままの状態では使い物にならないのは間違いないんだ。買い取ってもらえなかったからって恨むなよ?」

「それはそうですよ。それで、これは売れそうですか?」

「あぁ。うちなら買い取ってやる。ただ、売るかどうかは錆を落としてから決めたほうがいい。こいつは魔法武器の類ではないが、物によっては化ける。普通の槍か、切れ味のいい槍か。それを確認してから売っても構わないだろ?」

「でも、引き取ったとしてもその槍は誰も使わないですよ?」

「それでもいいじゃねぇか。エイミィの槍のストックだと思えば。それにな、そろそろエイミィもその槍を卒業する頃だろ。」


 これを聞いたエイミィはホーンラビットの槍を抱えて否定する。


「嫌です!この槍、凄く使いやすいですから!」

「そう言うがなエイミィよぉ。見る限り、お前はだいぶ筋肉がついたじゃねぇか。そろそろその槍だと軽くなってるはずなんだ。それにな、その槍は突きに特化している。槍なんだから突きが主体になるのは仕方のねぇことなんだが、使いすぎると悪い癖がついちまう。」

「この軽さがいいんです。正しく突けた時の感触が気持ちいいんです。」

「まぁ気に入っていて手放したくないっては分かる。だが変え時を見失って取り返しのつかないことになっちまったら元も子もない。念のため持っておくのはいいと思うぞ。」

「たしかに、フォルクスさんの言う通りだな。その槍を持っていたアクアリザードはお前が倒したんだし、いいものだったらそのまま貰っておけばいいんじゃないか?」

「でも、この槍はカナメさんからいただいたものですし、変えたくないです。」

「それが理由で変えないんだったらやめてくれ。その槍のせいで傷つくお前を見たくはない。」

「カナメさん……。分かりました。もしいい槍だったら、その時はいただきます。使うかどうかはその後に考えます。」

「うむ。それでいい。そしたら、少し時間をくれ。数日あれば完璧に仕上げてやる。」

「よろしくお願いします。たぶん数日は仕事に出ないので大丈夫です。」


 槍を預けて帰ろうとすると、フォルクスに呼び止められた。


「ちょっと待てお前ら。」

「なんですか?」

「仕事に出ないなら防具の点検をさせろ。2人とも鎧が傷んでるぞ。」


 自分の鎧を改めて見てみると、たしかに細かい傷が多い。特にアルベルトにつけられた傷は大きく目立つ。あの時は地面を転がったりしたから肩当ても傷だらけになった。

 エイミィの鎧を見てみるが同様に細かい傷がついている。彼女の場合は魔物の攻撃や木の枝葉でついたものが殆どだ。森の中での移動がまだ上手くないので無駄な傷がついてしまっている。

 とはいえ、言われるほど傷がついているとは思えない。


「そんなに必要ですかね?まだガタが来るような感じではないんですが。」

「お前の鎧はかなり酷いぞ。その大きな傷、下から抉るようにつけられてるが、死にかけてんじゃねぇか。何と戦えばそんなことになるんだ。革を張り替えて、場合によっては下地も直してやるよ。それとエイミィ、お前は普段の手入れがなってねぇ。鎧が泣いてるぞ。あと、これは2人に言えることだが、鎧の調整が必要だ。サイズが合ってねぇ。」


 言われてみれば、最近少し身長が伸びた。その影響か鎧が少しきつい気がする。


「それはたしかに必要かもしれませんね。それじゃあついでにお願いします。」

「それなら私もお願いします。あと、今度でいいので手入れの仕方を教えてください。」

「分かった。鎧を返す時に教えてやるよ。」


 カナメは鎧を脱いでカウンターの上に置いた。エイミィもその場で鎧を外してカナメの鎧の横に並べた。なるほど。こうやって比べて見るとたしかに傷だらけだ。


「カナメさんの鎧のこの傷ともお別れですね。歴戦の戦士のようでカッコよかったんですけどね。」


 エイミィが鎧の傷を見ながらしみじみと言う。


「別に誇るような傷でもないから、なくなっても構わないがな。」


 それにしても、鎧を着ていないエイミィというのも久し振りだ。たしかに前に比べて服がきつそうになっている。鎧を着ているから分からなかった。このままだと普段の動きも制限されそうだ。クインティナと服を買いに行ってくれることになっていて良かった。


「鎧の修理と調整には1週間くれ。1週間後に来てくれれば槍と一緒に渡してやるよ。」

「分かりました。それじゃ、また1週間後に来ます。よろしくお願いします。」


 槍を見てもらうことにしたら鎧の修理と調整まですることになってしまった。街の外での仕事を受けられないが、その程度問題ではない。サイズの合わない鎧を着て怪我するよりマシだ。

 店を出ると外は暗くなっていた。通りには各家庭の夕食を調理する匂いが漂っている。食欲がそそられる。


「もうこんな時間か。エイミィ、腹が減ったから飯でも行くか。」

「はい!そういえばカナメさんと2人でご飯を食べるの久し振りですね!」

「そうだっけか。ほぼ毎日一緒にいるから久し振りと言っても実感無いな。ま、とりあえず行こう。」


 2人は通りへ出る。宿の方へ歩きつつ飲食店を探し始めた。

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