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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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成長の実感

 エイミィが笑っている。一合打ち合っただけで何か分かったようだ。力負けしているのにもかかわらず余裕そうだ。少し距離を取ってカナメに話しかけてきた。


「カナメさん。こいつ、槍が下手です。」


 なるほど。だから余裕があるのか。思ったより単純な理由だ。そんなことは見ていて分かる。ただ、これをエイミィが気づけたというのは上達の証しか。


「だからって油断するなよ。力では向こうが上だし、魔法も尻尾もある。」

「分かってます。でも、ここは私にやらせてください。試したいことがあるんです。」

「大丈夫か?」

「はい。魔法を試すなら魔物相手じゃないとだめですから。たぶんすぐ終わります。」


 エイミィは再びアクアリザードに接近し突きを放つ。力の乗ったいい突きだ。相手に脅威を感じさせるのには十分だ。今度は横に移動して逃げられたが想定内のようだ。すぐさま次の突きを放つ。

 エイミィの槍の扱いは格段に上達している。実力的にはまだまだではあるが、実戦で培った経験がある。人間相手なら分からないが、魔物相手なら問題無い。これで慢心せず基礎訓練を続けていれば人間や技量のある魔物相手にも戦えるくらいにはなるだろう。


「あの子、思っていたよりやるわね。」


 タニアが呟く。後方で様子を見ているウマルらパーティーは静かに戦いを見守っていた。最初は2人で戦うのかと思ったが、意外なことに槍を持った子が1人で戦い始めた。直前にカナメと話していたので1人でやらせてくれとでも言ったのだろう。その子の槍捌きは拙いが、アクアリザードの動きはその子1人でも対処できるくらい悪い。槍の扱いが下手すぎる。時折混ぜてくる尻尾の攻撃や魔法があるから戦いが成り立っているのではないかと思えるほどだ。あれなら警戒するほどのものではなかったと思う。見ている限り、魔法だけが厄介だ。至近距離で射出してくる水は川原の石を爆散させている。当たればただでは済まなさそうだ。だが、それを槍の子は器用に躱している。見て躱すというより予測して動いている感じだ。あれは真似できそうにない。

 アクアリザードが槍を振りかぶり叩きつけてくる。エイミィが横に躱すと地面に叩きつけられた槍で石が弾け跳ぶ。アクアリザードはそのままの姿勢で頭上の水球から水が射出してくる。これを前方へ踏み出してすり抜けると、手を腰の小袋に突っ込む。袋の中で小さな球を意識して魔力を込める。手の中にいくつもの球が形作られた感触を得る。準備は整った。


星屑(スターダスト)!」


 袋から手を抜くと手中にある魔力の球を投げつけた。球は小さく、豆粒ほどの大きさであった。それが20個ほど目の前のアクアリザードめがけて飛ぶ。

 至近距離からの投擲だ。回避などできようはずがない。アクアリザードの顔面や胸部に炸裂する。甲高い破裂音がいくつも響き渡り血飛沫が舞う。


「んなぁ!爆弾!?」


 ザラが驚き声を上げる。


「あの至近距離からあの量の爆弾を投げるなんて、可愛い顔してやることが酷い。」


 タニアは顔を歪めて呟く。明らかに引いている。


「これが辺境のやり方なんでしょうか?」


 ユリは少し納得がいかないようだ。やり過ぎだと言外に言っている。

 ウマルだけは厳しい顔で黙って見ている。

 爆発による血煙が晴れると、そこには皮膚が爛れて肉が剥き出しになったのはアクアリザードがいた。息も絶え絶えだ。膝をついて崩れ落ちたところで喉元に槍を刺して止めを刺した。

 アクアリザードが手に持っていた槍を拾いカナメのもとへ行く。


「終わりました。意外と時間がかかっちゃいました。」

「よくやったな。前は2人がかりだったのに1人でやれるなんて凄いじゃないか。」

「今回は槍が不慣れだったせいですね。前のよりも動きが悪かったです。」

「それでも大したもんだ。それで、やりたかったのはあの魔法か?」

「そうです。本当はもう少し数を増やしたいんですが今はあれが精一杯です。しかも、あの中にも威力が無い物もあったんです。だからたぶん10〜15個くらいしか効果はなかったと思います。」

「なるほど。さっき上手くできないと言っていたのはそういうことなんだな。あの袋に手を入れる動作があって集中できなかったとかはないか?」

「それは無いと思います。それに、今はあれをやった方がいいかなと思って。私の魔法は知られない方がいいじゃないですか。」

「いや、そんなことはないけど……。でも、念のため見せないようにするという判断は間違ってないかもな。」


 後ろの集団の声を聞く限り、袋の中に入れていた小さな爆弾を投げつけたと思っているようだ。魔法を使えることを知られると面倒なことになるかもしれないので、これで良かったのかもしれない。


「2人とも、気を抜かないで。川の上に水球があるわ。」


 クインティナに言われて川を見ると、そこにはまだ水球が浮いていた。アクアリザードは見えない。


「クインさん。あの状態だと魔法は使ってこないんでしたっけ?」

「そうね。たぶんあの下にいると思うんだけど、水中だから攻撃のしようがないわ。エイミィちゃんのなら倒せるけど、環境破壊が酷いからやめたほうがいいわね。」

「そうなると、やるしかないか。水深が浅ければいいけど。」

「なに?なにをする気?」


 クインティナが訝しげにカナメを見る。


「いえ、ちょっと攻撃しようと思いまして。本当は杖のままやりたかったんですけどね。まぁ分からないようにやりますか。」


 カナメはまず石の川原に手をつけて魔力を流した。敵の位置を把握する。ここは石と土と水で構成された川原だ。カナメの魔法と親和性が高い。魔力がよく通る。なるほど。そんなに深い川ではないようだ。アクアリザードの場所もなんとなく分かった。

 杖に魔力流して剣を鞘から抜く。ただ、今回はほんの少しだ。少しだけ鞘から出して刀身が見えないように手で覆う。空いた手で剣の柄部分を握って魔力を通す。


「石棘」


 仕込み杖の補助を得た石棘を放つ。川底から水面へ向けて5本の棘が突き出る。水中を猛スピードで突き進み、その途中にいるアクアリザードを突き刺す。そのまま上昇を続けてアクアリザードの体を水面へと運んだ。

 突如として水面に現れたアクアリザードの死体にウマルらパーティーは驚きを隠せない。カナメらとアクアリザードの場所まで10mはあろうかというのに極大の石の魔法が飛び出してきたのだ。それも、正確な位置が分からない敵を串刺しにした状態で。


「これで終わりですね。意外とあっさり倒せちゃいましたね。」

「そうね。私の出番がほとんど無かったわ。」

「まぁクインさんはアクアリザードと相性良くないですからね。とりあえず討伐証明を取りましょうか。」


 エイミィの倒したアクアリザードの所へ行き、しゃがんで討伐証明を取っているとそこにユリが駆け寄ってきた。


「凄いです!最後の魔法、どなたがやられたんですか!?」

「あ、僕ですけど……。」

「あんなに遠くて敵の場所が分からない状態でなんで正確に魔法を当てられたんですか!?」


 興奮して質問してくるのはいいが、前屈みになるのはやめてくれ。大きく開いた胸元から見える物が揺れるのが気になってしまう。うちの女性陣からの目が怖い。意識的に視線を外す。


「い、いやぁ……。地面に魔力を通すと索敵ができるので、それをやっただけです。」

「地面に、ですか?」


 ユリがその場でしゃがんで地面を触る。

 あ〜もう。この角度からも目に入る。なんだこいつは。パーティークラッシャーか?


「やってみましたが、よく分からないです。」

「そうよねぇ。やっぱりカナメくんがおかしいのよ。」


 クインティナが話に加わってきた。以前、自分もやってみてよく分からなかったから仲間がいて嬉しいのだろうか。いや、この目は違う。明らかに軽蔑の色が含まれている。このままユリと話をさせるわけにはいかないとの判断だろう。邪魔、もとい救済のつもりか。


「やっぱりできないですよね。えっと……。」

「クインティナよ。よろしく。」

「ユリです。よろしくお願いします。あ、さっきはザラを助けていただきありがとうございました。」

「いいのよ。あれを食らうと危険なのは知っていたから。」


 女性同士で話が始まった。ここは引き下がろう。あの服装は目のやり場に困る。とりあえずカナメに代わって討伐証明を取り始めたエイミィのもとに行く。


「エイミィ、大丈夫そうか?」

「カナメさん、いいんですか?こっちに来たら見れなくなりますよ。」

「やめてくれよ。あれが嫌だから逃げてきたってのに。」

「冗談ですよ。あんな格好していたら視界に入らないようにするほうが難しいですし。」

「分かってくれてありがとう。助かるよ。」

「話しているところ悪いが、今、よろしいかね?」


 貴族かぶれの鼻につく話し方が聞こえてきた。ウマルだ。


「なんの用だ?こちらとしては話すことはないんだが。」

「いや、その、もうしわけ……なかった。」

「なんだって?」

「申し訳なかった。アクアリザードとやらの脅威度はよく分からないが、最後のあの魔法が尋常じゃないことくらいは分かる。あの魔法に関しては5等級の魔法だと言われても納得する威力だ。あんな魔法を使えるなら不正を働く必要も無いだろう。早期昇格には何らかの理由があったんだな?」

「ようやくそこに考えが辿り着いたか。その通りだが、何があったかは言えない。」

「それはそうだろう。そういった事情には踏み込まないのが傭兵のマナーだ。」

「どの口でマナーを語っているのやら。ただ、分かったのなら彼女らにも謝ってくれ。『女を侍らせて』などと侮辱したのだから当然だろ?」

「ぐっ……。それは……。」

「さっさと謝りなさいよウマル。さすがに私たちも気分悪いわよ。」


 タニアがウマルの後ろからやってきて促した。


「そ、その件に関しても申し訳なかった。」

「心から言ってる気がしないが、お前に付き合うのも馬鹿らしい。言葉だけ受け取ってやる。」

「本当にごめんなさい。このバカにはしっかり言い聞かせておくから。」

「そうしてください。パーティーリーダーなんですからお願いしますよ。」

「え?私リーダーじゃないよ?」


 タニアがキョトンとした顔でこちらを見てくる。今までその言動からタニアがリーダーだと思っていたためカナメも困惑する。


「え?じゃあ誰なんですか?」

「うちのリーダーはウマルだよ。」

「……。はぁ!?」


 予想外すぎて一瞬思考が止まってしまった。ウマルがリーダー?何の冗談だ。


「そういえば言ってなかったね。私たちは『救世の剣』。私は副リーダーで6等級のタニア。ユリとザラは5等級、ウマルは4等級だよ。ウマルは馬鹿だからリーダーなのに等級が上がらないの。」

「馬鹿は余計だ。」

「本気で言ってる?私たち結構苦労してるんだけど。」


 タニアがうんざりした顔をしている。


「ウマルが4等級なのは納得です。それじゃ、僕もまだ名乗ってなかったですよね。僕らは『飛燕の燈火』です。僕は3等級のカナメ、こちらが2等級のエイミィ。向こうでユリさんと魔法談義に花を咲かせているのがリーダーで4等級のクインティナです。」

「へぇ~。きみがリーダーじゃないんだ。」

「そうですね。たまたま彼女が一番上の等級だったのと、彼女のパーティーに僕が入った形だったのでそうなってます。ところで、なぜそちらのリーダーはウマルなんですか?」

「このパーティーは元々ウマルが立ち上げたからだね。あと、男がリーダーの方が役に立つことがある。頭が悪いから大事な時に使えないし面倒事を起こすけど。」


 ウマルは皆が納得してリーダーに推したわけではなくただの創始者だった。これなら遠慮なく言えそうだ。


「あの、差し出がましいようですが、リーダーの交代をした方がいいと思います。」

「あ〜それ、よく言われるよ。でも、そうもいかないんだよ。」

「何か理由でも?」

「みんなウマルが好きなんだ。」


 カナメは開いた口が塞がらなくなった。ウマルのやつ、一体どの口で難癖をつけてきたんだ。自分が一番そういうことをやっているじゃないかと思ってしまった。

しばらく更新止まります。年末年始で忙しくて話が書けません。ストックも尽きてきたので、少し書き溜めておきたいです。

たぶん1週間も経たずに再開すると思います。

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