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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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川原の邂逅

 石ばかりの川原の対岸には激しい衝撃で押し倒された木々がある。その木々の周辺の地面は抉れ、川が侵食している。その光景を前に3人は足を止める。


「懐かしいわね。まだ半年しか経ってないけど、随分前のことのように感じるわ。」

「そうですね。僕はこの惨状が作られた時は気絶してましたが、翌日に見た時は驚きました。あの生臭い臭いにも驚かされましたが。」

「あの時は私も初めてで制御できなかったから大変なことになっちゃいましたけど、今は大丈夫ですよ。」


 エイミィはおもむろに手の上に光の玉を作る。たしかに魔力を込める速度が上がっている。眩しいのも一瞬だけで、すぐに光を閉じ込めたような球になる。まだ飛ばせないようで手に乗せて転がしている。


「エイミィ、そんなことして落としたら危ないからやめてくれ。」

「大丈夫ですよ。そんなドジしませんから。あ――。」


 エイミィの手の上から光の玉が転がり落ちる。クインティナとカナメは思わず逃げようとする。しかし玉が落ちる方が早い。もう地面についてしまう。回避も防御も間に合わない。終わった。

 死を覚悟した時、光の玉は消えてエイミィの体へ魔力の光が戻っていく。


「なんちゃって。驚きました?」


 エイミィがいたずらっぽく笑う。


「お前、冗談になってないぞ。」

「そうよエイミィちゃん。今、本当に死んだかと思ったわ。」

「うぅ……。ごめんなさい。」


 2人から怒られてしょぼくれてしまった。


「それにしても、だいぶ制御できるようになったんだな。魔力の使い方が上手くなってる。今のも魔力の扱いに慣れてなきゃできない。よく練習してるんだな。」

「えへへへ。ありがとうございます。」

「なによ変な笑い方して。でも、練習してきたのなら他の使い方もできるようになったのかしら。」

「 練習してますがあんまり上手くできないんですよねぇ。この大きさだと1個の玉しか作れません。」


 再び魔力の玉を作って手の上でポンポンと弾ませている。だいぶ手慣れている。

 そのまま川に向かって軽く投げる。軽く投げただけなのに、そこら辺の石を投げた時の速度よりも速い。魔力の球の飛ぶ速度は速くなるようだ。

 水面に着弾すると軽い破裂音と共に2m程の水柱が立ち上がる。


「今のはそんなに魔力を込めてません。形を維持できるようになったら少ない魔力で玉を作れるようになったんです。」

「エイミィの様子を見る限り本当に大して魔力を消費してないんだな。」

「これなら普段から使っても問題なさそうね。ただ、これを使うような相手がいないから使う機会が無さそうだけど。」

「そうなんです。最近、槍でなんとかなっちゃうんで使う機会が無いんです。」

「エイミィもだいぶ上達したもんな。筋肉もついて速度が上がってる。」

「筋肉がついたのは嬉しいんですが服がきつくなってきたんですよね。」


 エイミィは肩の辺りを触る。言われてみればたしかに服の余裕が感じられない。


「それは問題だな。動きが制限されたら危ない。森で仕事をする以上は他の街から来た人たちのように袖の無い服を着るわけにいかないからな。今度買いに行ってきたらどうだ?」

「そうしようと思います。次の休みに行ってきますね。クインさんも一緒に行きませんか?」

「私?ついて行ってもいいけど、私は特に買うものは無いのよね。友だちと行ってきたら?」

「あの子も街に来てからそんなに経ってないからお店を知らないんですよ。だからクインさんに教えてもらいたいなって。」

「もうしょうがないわね。今回だけよ。」

「ありがとうございます!」


 エイミィの声が河原中に反響する。どこかで鳥が羽ばたいた。どんだけ大きな声を出してるんだ。魔物が寄ってくるぞ。

 すると森の木々の間を歩いて来る音が聞こえてきた。音は複数聞こえる。本当に魔物が来たのかもしれない。3人は念のため戦闘態勢をとる。

 薄暗い森の中に動くものが見える。二足歩行をして服を着ているようだ。あれは傭兵だ。男女の声が聞こえる。


「おや?そこにいるのは不正を働いた輩かい?」


 聞き覚えのある声と言いがかりだ。まさかこんな所で鉢合わせるとは。


「そういうお前はオマルだったか?」

「ウマルだ。なにをこんな所で暢気に遊んで――!」


 ウマルの体が宙に浮き、次の瞬間には石の上に叩きつけられていた。タンクトップにショートパンツという格好で現れたタニアがウマルを投げ飛ばしたのだ。見ているこっちも痛い。思わず顔が歪む。

 倒れ伏しているウマルの腕を取り締め上げる。


「ごめんなさい!次会った時は謝らせるって言ったのに。ほら、ウマル!謝りなさい!」

「なんで私があのような者に謝罪しなければならないんだ!」

「あんた、根拠も無く決めつけるなって言われたばかりでしょ。ユリとザラも言ってやって!」

「ウマルさん、さすがに不正は無いと思いますよ。もしあの方が不正をしたのだとしたらギルドが不正をしたことになるんですから。」

「ユリの言う通りだ。もっと頭と感覚を使えよ。それにあいつ、どう見てもヤバいオーラ出てるぞ。」


 森の中から更に2人の女が出てきた。ユリと言われた女は魔法使いなのか杖を持ってローブを着ている。ただ、なぜか胸元が大きく開いていて胸の谷間が見えている。

 もう1人は斧を担いだ筋肉質の女だ。こっちはザラだろう。逞しい上腕筋、大腿筋、腹筋が露わになっている。


「だが、あいつは女を侍らせて川で遊んでいるような奴だぞ!」


 ウマルは依然として納得していない。

 だがこの状況、納得がいかないのはカナメも同じだった。


「おい、オマル。お前、どの口で俺に『女を侍らせて』なんて言ってるんだ?お前のパーティーの方が女が多いだろうが!」


 これには向こうの女性陣も納得せざるを得ない。


「あー言われちゃった。」

「仕方ないね、本当だから。」

「ウマルがバカだってことだな。」


 だがウマルだけは言い分があるようだ。


「うるさい!私はお前のようにイチャイチャしてないぞ!今のこの状態を見れば分かるだろ!」


 たしかに、今のウマルはタニアによって地面に押さえつけられている状態だ。その状態で喚いているのだから感心する。とはいえ、この主張も納得いかない。


「俺がいつこいつらとイチャついていたんだよ。基本的に仕事の時か装備を買いに行く時しか会ってないんだぞ。今だって仕事絡みの話しかしてなかったのに。これでイチャついているなんて言われたら、男女パーティーは全て不健全になるぞ。それに、俺からすればお前の方がよっぽど酷く見えるがな。ここは森だぞ?パーティーの女性になんて格好させてんだ。木の枝や草の葉なんかで簡単に怪我をするし、虫に血を吸われたり毒をもらったりするんだ。見てみろ。ザラさんの足にヒルがついてる。」


 ウマルらパーティーの目線がザラの足に集まる。脹ら脛に一匹のヒルがついていた。それなりに大きくなっているのでだいぶ吸われているようだ。


「え?わ!うわ!」


 ザラが手で払いのけようとするが簡単には落ちない。


「ザラさん!危ない!取らないでください!」


 エイミィがザラに駆け寄って動きを制止する。


「ちょっ、やめて!取らせて!」

「ダメです!ヒルは無理に剥がすと傷が広がって血が止まらなくなります!処置は私たち任せてください!クインさん、お願いできますか?」

「ちょっと待って。今出すから。」


 クインティナは腰の小袋から塩を取り出し、ヒルにかけた。すると、みるみるヒルが小さくなって剥がれ落ちた。ヒルのついていた箇所から血が流れ出る。


「ザラさん。ヒルに噛まれた場所は血が止まらなくなります。一度洗ってから止血してください。」


 エイミィがザラに説明し、川で洗うよう促した。本当は井戸水の方がいいのだが、やむを得ない。

 ザラから目線を外し再びウマルを見ると。タニアに拘束を解かれていた。肩を痛そうに回している。タニアはしきりに腕や足を気にしている。自分にもヒルがついていないか気になるのだろう。


「こういうことがあるんだよ。人にとやかく言う前に、自分のパーティーメンバーを守るように動けよ。今のままだと、自分の目の保養のために際どい服を着せていると言われても仕方ないんだぞ。」

「くっ……。しかし服装は個人の自由だろうが!」

「そんなこと知るか。お前らの事情なんか誰も知らないんだよ。もちろん俺らの事情だって誰も知らない。だから勘違いされないように動いてるんだ。面倒なんだぞ。色々気を使って。」


 ウマルが苦虫を噛み潰したよう顔で俯いていると、川の方からザラの声が聞こえてきた。


「うぉおーーー!!魔物だ!水の中にいるぞ!」


 ザラが走って戻ってくる。その背後の水面にはトカゲの頭が見える。


「な、なんだあれ!ここは川の中にも魔物がいるのか!」

「ザラ、早く!魔法を使いそうだよ!」


 トカゲの頭の上に水球が浮いている。その水球は脈打つように動いているが、その動きを止めると水が射出された。水の線がザラに向かって走る。ザラも気がついて避けようとするが足元が悪く対処が間に合わない。誰もが魔法が直撃すると思った瞬間、空中に突如として木の壁が出現し攻撃を防いだ。


「クインさん、ナイスです。」

「何度も見た魔法だからね。タイミングは分かってるわ。」


「なんなの?あの魔物は何!?」


 タニアが両腰の短剣を抜いて二刀を構える。


「あれはアクアリザードです。陸に上がってきてもそれなりに強いですよ。初めて見る魔物でしたら、とりあえず僕らで倒すので横で見ていてください。」

「……。分かった。任せるわ。」

「おい、いいのか?こいつら下の等級だぞ。」


これにウマルが反したが、すぐにタニァにたしなめられる。


「あんたは黙ってなさい。さっきの話し方だと、彼らはあの魔物と戦ったことがあるみたいよ。経験があるなら任せたほうがいいでしょ。」

「そういうことですよ。でも、危なくなったら助けてくださいね。」


 カナメは川の方へ歩き始めた。既に戦闘態勢に入っている2人のもとに行くと、杖を構える。今回は他の傭兵がいるため剣を抜くわけにいない。魔法だけで勝負をする。不意打ちとはいえ一度は気絶させられた相手だ。油断はしないが、前回と同じ条件で戦って自分の成長度合いを確かめたい。

 アクアリザードが水から上がってくる。手には前とは違って穂先の表面が錆びた槍を持っている。

 前回と同じく挟撃の形を取ろうとしたところ、エイミィが1人で飛び出した。上達した槍を試したいのだろう。アクアリザードへ突きを放つが、力任せに打ち払われる。槍と槍のぶつかり合う音が響く。槍を弾かれたエイミィは何かを確信したように、不敵に笑った。

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