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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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杖は殴るもの

 カナメはロビーの椅子に座って周囲を眺めている。出張所内にいる傭兵たちを観察していて面白いことに気がついた。この街で活動している傭兵と、最近になって他都市から来た傭兵は見た目だけで判断できるようだ。

 まず、男は武器が大きい傾向がある。パーティー内に大剣やハルバードのような大型武器を持っている者がいる。あんな物を持って森に入ったら体力は持たないし木々が邪魔で振れないだろうと思う。

 次に女は肌の露出が多い。さすがに水着程ではないが、二の腕、太腿、腹が露出していることが多い。森に入ったら魔物と戦う前に傷だらけになりそうだ。森以外の戦闘時にも悪影響しかなさそうに見える。

 彼らがこの街で活動していくつもりなのかは知らないが、その気があるなら今すぐ改善してもらいたいところだ。

 そんなことを考えていると、クインティナがやってきた。今日はいつもの魔女ファッションではない。長袖に丈の長いスカートという普通の服だ。顔には少し化粧をしているようだ。あまりの違和感に一瞬思考が止まってしまった。


「おはようございます。」

「おはよう。あんた、さっき1人で何見てたの?」


 何やら妙に不機嫌だ。ここに来るまでに何かあったのだろうか?


「何って、傭兵の装備ですよ。」

「本当に装備だけかしら。女の子の体見てたんじゃないの?」


 疑いの目で睨まれる。なぜそんな疑いを持たれなきゃならんのだ。


「いやいやいや、そんなわけないじゃないですか。」

「怪しいものね。」

「変なこと言うのやめてくださいよ。」

「やった人はみんなそう言うのよ。」

「それだと誰も何も言い返せないですよ。」


 依然として厳しい目線を送ってくるクインティナに食い下がる。このような疑いを持たれたままでは仕事に支障が出る。


「はいはい。そういうことにしておいてあげる。」

「くっ!言いがかりをつけてきたくせになんで上から目線なんだ。」

「それはあなたが怪しい目をしていたからよ。」

「はぁ……。もういいです。これ以上何を言っても無駄な気がします。それで、今日は杖を買いに行くんですよね。どこに行くんですか?」

「この街に来てからまだ杖を買ったことが無いからお店を知らないのよね。だから、あなたの行きつけに連れていって。」

「行きつけ……。あ、赤髭部防具店ですか。あそこ、杖なんて売ってるのかな?」

「売ってないの?」

「わからないです。初めて行った時に『魔法使いがなんの用だ』って言われたんです。でも、売り物の中に魔法使い用の服とか帽子があるのは見ました。だから魔法使い相手に仕事をしてないわけではないと思うんですが、扱ってるかはよく分からないです。」

「ふ〜ん。ま、売ってなければ別のお店に行くだけだから構わないわ。」

「そうですか。じゃあ、とりあえず行ってみますか。」


 2人は外に出て歩き始める。出張所前の通りには多くの傭兵が行き交っている。なんとなくこの時間にしては多い気もするが、一時的に傭兵の数が増えているのだからそういうものかと納得する。

 人気の少ない道へと入っていく。人が少なくなったことで周囲の音が減り静かになる。だが、遠くの方から言い争うような声が聞こえる。喧嘩だろうか。鉢合わせたくはないなと思いながら店の方へ行く。しかしこちらの期待とは裏腹に、その声は徐々に大きくなっていく。そして確信した。声は店から聞こえると。一体何があったのだろうか。分かるのは店主のフォルクスが激怒しており、相手が押されているということだ。


「黙れこのスカシ野郎!そんなに王都の物が良いなら王都に帰りやがれ!」

「なんだその言い草は!こっちは客だぞ!」

「てめぇに売るようなもんはねぇ!さっさと出ていきな!」

「あぁそうしてやるよ!こんな店2度と来ねぇよ

 」


 物凄い勢いでドアが開くと、中から顔を赤くした傭兵が出てきた。驚いたカナメと目が合う。


「お前、この店に行くのか?やめとけ。粗悪品を売りつけられるぞ。」

「そ、そうですか?」


 この傭兵の声が聞こえたのか店内からフォルクスが叫ぶ。


「粗悪品なんか売ってねぇって言ってんだろこのスカタンが!さっさと消えろ!」

「黙ってろボッタクリ野郎が!」


 傭兵が再び罵声を浴びせるとカナメの目を見て忠告してきた。


「聞いただろ?客に対してあんな言い方をするような奴だ。悪いことは言わねぇ。やめときな。俺は他の店に行く。じゃあな。」


 そう言って男は通りの方へ歩いていった。その後ろ姿を唖然として見送る。


「ねぇ、大丈夫なの?とてもまともそうではないわよ?」

「大丈夫ですよ。多少愛想は無いですがいい人です。あんなに怒ってるの、初めて見ました。」


 さすがに出直したほうがいいかと思うが、ここに誰かがいることが知られているので今更店を変えるわけにはいかない。意を決してドアを開ける。クインティナが後ろからビクビクしながらついてくる。


「こんにちは〜……。」


 様子を伺うように声を小さくしてしまった。フォルクスがこちらを睨んできたが、カナメの姿を見て少し落ち着いたようだ。


「なんだ、カナメか。久し振りだな。」

「ご無沙汰しています。何があったんですか?」


 恐る恐る聞いてみる。


「ふん。王都から来たとかいう傭兵がうちの商品を見て『装飾が少ないから安くしろ』と難癖をつけてきたから叩き出してやったまでよ。」

「それはまた……。値下げしてもらいたいなら他の言い方にすればいいものを。」


 たしかにこの店の商品には華美な装飾が施された物は少ない。女性用の物ですらエイミィの槍の口金や鎧の鋲のようにワンポイントの装飾しかないのだ。男性用ともなれば最低限の装飾しかない。


「それで、今日はどうした。後ろの姉ちゃんの関係か?」

「はい。彼女はうちのパーティーリーダーのクインティナです。昨日杖が壊れてしまいまして。今日はそれを探しに来たんです。」

「クインティナです。よろしくお願いします。」


 クインティナが緊張気味に挨拶をした。緊張をしているのは珍しい。ディアスやエルマーを相手にしても堂々としているというのに。

 それはおそらくフォルクスの態度のせいだろう。機嫌が悪いというのもあるが、杖と聞いて少し雰囲気が変わっていた。

 フォルクスがカナメに向かって問い返した。


「杖?ということは魔法使いか。」

「そうです。もしかして、魔法使い用の杖は売ってないんですか?」

「馬鹿野郎。ここは武器屋だぞ。あるに決まってんだろ。」

「良かった。初めて来た時に魔法使いは嫌いなようなことを言っていたので心配しました。」

「そのことか。たしかに、魔法使いは嫌いだ。武器を武器扱いしてくれないからな。お前のように杖で殴ったりしてくれると嬉しいんだが。とはいえ、個人の感情と商売は別だ。ちゃんと売ってはいる。お前の杖のようなものは売ってないがな。」

「まぁこの杖は特殊ですから。」

「知ってるさ。そんなおかしな杖があってたまるか。最初から分かってるが乗ってやってるだけだ。」

「そうなんですか。そしたら、今度から乗らなくて大丈夫ですよ。彼女とエイミィは既に知ってますから。他の傭兵にも剣が使えることはバレましたし。」

「それなら変に気を使う必要もないな。」


 フォルクスには最初から仕込み杖のことを勘付かれていたらしい。そこはやはり武器屋ということか。


「それはそうと、クインさんの杖を選びたいので幾つか見せてもらえますか?」

「分かった。今裏から持ってきてやる。あ、その辺に出ている物は見なくていいぞ。カナメの連れにそんな粗末なものを売れねぇからな。」


 そう言い残してカウンターの奥に下がっていった。


「カナメくん、なんかすごく気に入られてない?」

「最初に来た時にイアンさんからの紹介状があったからじゃないですかね。後はエイミィを連れてきてますし。」


 店の中に置いてある物を見て回る。たしかに、店内には杖も置いてあった。そのどれもが杖の上部に金属や宝石類で装飾が施されている。


「さっきの人は装飾が少ないって言って値切ったんですよね。これでダメだったんでしょうか。」

「これ、十分豪華よね。持ち歩くのが恥ずかしくなるわ。王都ではこれでも地味なのかしら。」


 カウンターの奥から物音が聞こえてきた。どうやらフォルクスが戻ってきたようだ。


「待たせたな。とりあえず3本持ってきた。」


 カウンターの上に持ってきた杖を並べる。どれも木製だ。上部が籐細工の籠のような物が付いているもの、木を曲げて三つ編みにしたもの、金槌のような形状の打面のような箇所に金属が付いたもの。様々だ。


「説明するとだな、この籠付きの杖は魔力を込めると網目に沿って魔力が流れる。だから魔力制御が格段に上がる。その代わり発動までの時間が長くなる。次に、この編まれた杖は魔力制御を上げつつ発動時間が短いものだ。威力の補正もある。それと、これにはもう1つ特徴があって、使い続けると芽が出るらしい。」

「らしい?」

「使っている者を知らねぇからしょうがねぇだろ。知りたきゃ自分で試してくれ。最後のは俺のオススメだ。この金属が魔力媒体になっていて威力を増幅する。そして近づかれたらこいつで殴る。金属だから力の無い女でも威力は保証する。」


 最後の杖は相当自信があるのだろう。言葉に力がこもっていた。しかし、カナメにはクインティナが一番最初に除外するものはもう分かっている。フォルクスにとっては残酷な決断が下される。


「最後の杖は無いわね。これを持って森の中を歩き続けられる自信が無いわ。」

「なんだと!?こんなに機能的な杖のどこが悪いと言うんだ!」


 自信の商品を最初に除外されたことが納得いかないのか問い詰めてきた。


「たしかに機能的だけど、これは魔法使い用というより魔法戦士用よ。殴ったときの衝撃に耐えられるように太く作ってあるし、装飾部分が大きいから重すぎるのよ。カナメくんの杖より重いんじゃない?」


 試しにカナメが持ってみる。たしかに重い。カナメにしてみれば問題無い程度ではあるが、近接戦闘を行わない魔法使いには重すぎるかもしれない。


「フォルクスさん。残念ですが、これはクインさんには持てないです。」

「なん……だと?俺の自信作が……。」


 どうやらフォルクス自身が作ったものだったようだ。意外なことに杖も作っているらしい。魔法使いが嫌いなのかと思っていたが、この杖を見る限りでは本当に杖を打撃武器にしてもらいたいだけだったように思える。発想は悪くないが、使い手のことを考えていない時点で致命的なのだが。


「そうなると、最初のは魔法の発動が遅くなるのは危ないから、2本目の杖になるわね。使い込んでみると変化があるのも面白そうだし、これにするわ。」


 クインティナはたいして悩むこともなく決めてしまった。しかも極端に地味な物にした。


「クインさん、いいんですか?そんなに簡単に決めちゃって。」

「いいのよ。こういうのは迷い始めたら決められないの。だから気になったものを買うのが一番。それに、これは私の装備と見た目の相性がいいわ。」


 なるほど。一応地味なものにした理由もあるというわけか。


「じゃあこいつにするんだな。ちなみにこいつはエイミィの槍に使った木と同程度の硬度があるから打撃武器としても使えるぞ。」

「そ、そうですか……。」


 杖を打撃武器にしてもらいたいというフォルクスの執念のようなものを感じ、クインティナは呆れて言葉を返せなくなってしまった。

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