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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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杖の破損

「カナメさん!そっちに行きました!」

「任せろ!」


 薄暗い森の中をコボルトの群れが走る。エイミィが討ち漏らした個体がカナメの方へ向かってきた。

 コボルトは存外厄介な魔物である。ゴブリンのような人型であるが、そこに犬のような身体能力が加わる。そのため、脚力、跳躍力、索敵能力が同程度の危険度の魔物の中でも高い。だが頭脳はゴブリンより劣る。そして臆病だ。常に群れて隠れ住んでいる。普段は人に見つかることは少なく危害を加えてくることも少ない。それゆえに率先して討伐すべき魔物とはされていないのだが、コボルトの生態調査を行う研究者から肉体素材の需要が高いため、素材買い取り額は高値になっている。

 だからといってカナメたちは積極的に討伐しに来たわけではない。ホブゴブリンの討伐に来たら側面から10匹ほどのコボルトの群れが走ってきて襲われたのだ。

 最初にエイミィが先頭を走ってきたコボルトを打ち払い、2匹目、3匹目を突きで無力化することに成功した。しかし槍で制圧できる数はたかが知れている。当然討ち漏らす。これをカナメが引き受ける。竪穴で足元を崩して転倒させ石棘で仕留める。しかしこれをいち早く察知した2匹には回避されてしまう。左右に広がられてしまい一度に作れる魔法の範囲から出られてしまった。


「あ〜くそっ。クインさん!後は頼みます!」

「大丈夫よ。茨板(いばらいた)。」


 クインティナが杖に魔力を込めて魔法を放つと、コボルトの眼前に木壁(もくへき)が生成される。これを避けようとするが間に合わず、勢いそのままに衝突した。もう一匹のコボルトも同じように壁に衝突してそのまま動かない。コボルトの衝突した木壁の正面には大量の棘が飛び出している。これが全身に刺さっている。

 魔法を解除すると2匹のコボルトは前のめりに崩れ落ちて動かなくなった。地面は急激に赤くなる。


「うわ……。なかなか凄惨ですね、その魔法。」

「魔法練習中に偶然できた魔法よ。向かってくる敵には適してると思ったんだけど、これじゃ素材どころじゃないわね。あっ――。」


 カナメに魔法の話をしていたところ、突然杖が折れた。上部の装飾部分が地面に落ちる。


「クインさん、大丈夫ですか?どうしちゃったんですかね?」

「寿命かしら。だいぶ使い込んだもの。故郷を出る前から使っていたから。」


 装飾部分を拾い、眺める。色々なことを思い出す。両親のこと、故郷のこと、初めての魔物討伐、初パーティーでのこと、カナメとの出会いから現在に至るまで。本当に多くのことがあった。それを共に歩んできた相棒が壊れてしまった。少し寂しくなってしまう。


「あ、クインさん、杖壊れちゃったんですか?」


 そこにエイミィがやってきた。壊れた杖を見てなぜかクインティナ以上に悲しそうな顔をしている。


「なんであなたが悲しそうなのよ。」

「だって、クインさんといえば魔女の格好ですけど、その一部である杖がなくなるのは寂しいなと思いまして。」

「なんだかよく分からないけど、一緒に悲しんでくれてありがとうね。」


 なんの心配をしているのかイマイチ分からないが、悲しんでくれているようなのでお礼を言う。それにしても、普段あまり襲ってこないコボルトが好戦的だったことに疑問を覚える。


「ところで、このコボルトたち、少し変じゃない?なんで襲ってきたのかしら。」


 これに答えたのはカナメだった。自分の仕留めたコボルトを見ながら説明する。


「それなんですけど、このコボルトを見てください。背中や腕に刃物による新しい傷があります。どうやらこちらに来る前にホブゴブリンか傭兵に襲われたようです。」


 コボルトは怪我をしていた。その怪我を見る限り、何者かに襲われて逃げてきたようだった。その逃げた先に偶然人間がいたから、逃走のために襲いかかったということなのだろう。


「なるほど。となると、襲ったのが傭兵ならいいけど、魔物にやられたのなら厄介ね。こっちに追いかけてきてるとすれば数が多いかもしれないもの。」

「そうなんです。クインさんの杖が壊れたことを考えれば、ここは街に帰ることを考えたほうがいいかもしれませんね。」

「仕方ないか。このままじゃ魔法の威力が十分に発揮できないものね。」

「そうと決まれば討伐証明を取って戻りましょう。」


 コボルトの死体から討伐証明部位を剥ぎ取ると急いで帰還することにした。死体そのものを持ち帰ればいい報酬になるのだが、街までの距離を考えると現実的ではない。このままにしていく。

 街までは特に何もなく無事に帰ってきた。森を出て街の壁を見ると戻ってきたことを実感し安心する。自然と会話も増えてくる。


「こうして街の外壁を見てるとつい考えちゃうんですよねぇ。」


 エイミィがしみじみと話し始めた。


「街の門って夜の8時に閉めるじゃないですか。悪魔が入ってこないようにって。でも、実際は街の中にいるんですよね、悪魔って。」


 夜間に門を閉める理由はまさにその通りだ。形式的なものとはいえ、広く知られた理由である。だが、実際に悪魔を見た者としては思うところがあるようだ。


「たしかにそうなんだけど、そもそもの話、街の中を川が通っているんだから門を閉めたところで意味無いだろ。」

「そうですよねぇ。川から入りたい放題ですもんね。」

「それにな、父さんと戦った悪魔は空を飛んでいったらしい。空を飛ばれちゃ門なんて関係無い。この街に限らず簡単に入られるよ。」

「もう門を閉める意味無いですね。人に憑かれた時点で防ぎようが無いです。」

「でも、これを知っているのは限られた人だけなんだよな。」

「そういうこと。だから2人とも、その話はここでおしまいにしなさい。」


 クインティナに釘を差されてしまった。まぁこんな話が聞かれたところで誰も気にも留めないだろうが。


「ところでカナメくん。明日予定ある?」

「特に無いですよ。何しようか悩んでいたところです。」

「じゃあ明日、買い物に付き合いなさい。新しい杖を買いたいから例の割引券を持ってきて。」

「……。割引券が目当てですか?」

「悪い?あなたのなんだからあなたがいないとダメじゃない。」

「まぁそうなんですけど。そうなんですけど、なんか寂しいです。」


 なんとなく気落ちしているカナメを尻目にクインティナはエイミィも誘ってみている。


「エイミィちゃんはどう?一緒に行く?」

「ごめんなさい。私、明日は友だちとご飯を食べに行くことになってるんです。」

「エイミィちゃん、友だちできたの!?良かった〜。お姉さん心配してたのよ。」


 クインティナが急に近所の世話焼きの女性のようなことを言い出した。たしかに知り合った頃は完全に孤立している状態だったから心配ではあった。だがあれから半年以上経っているのだ。仲のいい人がいてもおかしくはない。


「それに引き換えカナメくんは休みの日は1人でフラフラして。大丈夫なのかしら。」


 今度は子供を心配する親のようなことを言い出した。放っておいてもらいたい。


「なんですか?僕だって友人はいますよ。必要が無いから会わないだけです。」

「その考えが心配なのよ。」

「でもカナメさんなら知らない人と友だちみたいに話せるから、友だちがいなくても心配いらないと思いますよ。」

「おい、ちょっと待て。なぜ友人がいない前提なんだ。」

「じゃあ誰がいるんですか?」

「まずはスコットだろ?次にケント。次に……。」

「ほら、2人しか言えないじゃないですか。」

「しかも1人はもうこの街にいないし。」

「ま、待て!他にいたはずだ!そ、そうだ!あけぼの町のウォン爺さんだ!」

「カナメくん。あの人を友だちに換算している時点で色々と心配よ。」

「誰ですか?ウォン爺さんって。」

「前にカナメくんにあけぼの町に連れて行かれた時に一緒に飲んでた歯抜けのお爺さんよ。」

「そのお爺さんの名前をなんでクインさんも知っているんですか?」

「……。」

「え?まさかクインさん……。」

「じゃ、カナメくん。明日は10時に出張所に来てね。」

「私、クインさんも心配になってきました。」


 エイミィはカナメとクインティナの交友関係に一抹の不安を覚えた。目の前の2人はこれ以上の追及を避けようとしているのか歩速が上がっている。ただ、友人が少ないことにショックを受けたのか、カナメの背中が寂しく見えた。

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