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蒼灰の叙録〜断魔の軌跡〜  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第二章 悪魔憑き
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悪魔たちの会議

 白い軍服を着た男が中庭に面した石廊下を歩いている。その男はボサボサの黒髪で目元が隠れ、背中に異様に長い細剣を背負っていた。

 すれ違う小間使いの女に笑顔で挨拶をしていると、正面から歩いてきた白いローブの男に睨まれる。


「おい、お前。こんな所で何をしている。」

「やぁオプト。この奥で会議があるからそこに行こうとしているだけだよ。まったく困っちゃうよね。辺境からここまで来るの大変だったんだから。」

「会議室に行くならさっさと行け。ここで働く者に声をかけるな。」

「それはちょっと酷いなぁ。」

「黙れ。お前のような者がここに出入りしていることが異常なんだ。まったく上の者は何を考えているのやら。」

「強いから雇ってくれたんじゃない?それに、俺の罪はこの紙で既に赦されてるんだよね。だからみんなと同じなんだ。」


 男は懐から細長い紙を取り出してヒラヒラと動かしている。


「くそ。だいたいなんだその紙は。」

「よく知らないけど、お布施?を渡したら貰えたよ。便利だよねぇこれ。原罪まで赦してくれるんだもん。」

「もういい。気分が悪い。関係者とは誰とも話さず消えてくれ。」

「はいはい。じゃあね。また今度。」


 男は終始不機嫌そうにしているオプトに手を振って会議室へ向かう。後ろから舌打ちが聞こえてきたが気にはしない。彼らは口では文句を言うが自分たちには決して逆らえないのだから。

 廊下の奥には一際大きく豪華な扉がある。両開きとなっており左右の扉には神々が悪魔と戦う様を描いたレリーフが貼られている。これを見る度に無駄に豪華な作りだと思ってしまう。

 レリーフを眺めながら軽くため息をついた後、扉を開ける。会議室の中には大きな円卓があり、その周りに13脚の椅子が配置されている。今はそのうちの3脚に同じような軍服姿の男が座っている。眼鏡をかけ黒髪を整髪料で固めた神経質そうな雰囲気の漂うピエトロ。スキンヘッドで筋骨隆々なケルト。黒く長い髪を束ねもしないビョルンの3名だ。


「遅いぞアルベルト。」

「悪い悪い。そこでオプトに会っちゃってさ。ちょっと話してたんだ。」

「ふん。どうせ文句言われただけだろ。早く座れ。」


 ピエトロが不機嫌そうに指示を出す。指先で机を叩いて苛立ちを隠そうともしない。


「はいはい。そう怒るなって。」

「『はい』は一回で十分だ。」

「は〜い。」

「伸ばすな。まったく、ふざけた奴だ。」


 アルベルトは男の反応を見てニヤニヤしながら席に座る。

 アルベルトがこの会議室に来たのは3カ月ぶりだ。その時の議題は明気薬の実験と販売について。そういった類のことはよく分からないので適当に聞き流していたが、会議の終盤で実験に協力してくれる犯罪組織の代表であるネロを護衛するように言われた。

 その組織は辺境都市リヴェンデールにある小さな組織だった。何かあればすぐに切り離せるような所を選んだようだ。この組織を介して明気薬を販売し、薬物漬けにした者の変化について情報を提供してもらうことになっていた。

 アルベルトの所属する組織としては、もし何かあったら協力者であるネロが捜査機関に捕まることだけは避けたかった。だからこそアルベルトを護衛として派遣した。また、護衛の補佐と実験結果の確認のためにビョルンも同行することになった。過剰戦力かと思われたが、情報の漏洩が最も危惧すべきことであるため遂行された。

 かくして、その判断は正しかった。組織の拠点は警備隊に急襲され壊滅した。あの場にアルベルトとビョルンがいなければネロは捕縛されていただろう。


「さて、メンバーも揃ったことだから始めるぞ。」

「ちょっと待って。人数が足りないよ。」

「今日はこれでいいんだ。担当者だけの会議だからな。」

「え〜?それならわざわざこんな所に集まんなくたっていいじゃん。辺境からここまで来るの大変だったんだよ。」

「ケルトも北部から来てるんだ。大変なのはお前だけだと思うな。それで、アルベルト。リヴェンデールの件で報告を頼む。」


 ピエトロが鋭い目つきでアルベルトを見る。


「この前送った手紙の後は特に何も無いかなぁ。あ、ちゃんと任務はちゃんとこなしてきたよ。後始末も含めてね。」

「そうか。足はつかないだろうな?」

「ちゃんと所持品を取り上げて下流に沈めてきたから大丈夫。」

「それならいい。ネロのような小者は何をするか分からないからな。」

「護衛なんて言って笑っちゃうよねぇ。最終的に裏切るんだもの。」

「そんなことも予見できないから利用されるんだよ。」


 ピエトロは嘲るように笑った。しかしすぐに表情を戻すと声のトーンを落とす。


「ただな、ネロや拠点からの情報漏洩は防げたんだが、わざと漏らした奴がいるんだ。」

「 なんだ?裏切り者でもいるっていうのか?」


 黙ってアルベルトの報告を聞いていたケルトが眉間にシワを寄せながら質問する。


「いや、裏切り者ではないんだがな。そいつのせいで警備隊と傭兵ギルドに我々の名前がバレた。まぁバレたと言っても裏の名前だがな。」

「その程度か。そっちは使うことがないからバレることはないだろ。」

「そうなんだが、わざわざ教えてやる必要は無かったんだ。なぁアルベルト。」


 これに驚いたケルトがアルベルトへ視線を向ける。

 視線を向けられたアルベルトはピエトロとケルトを見ながら釈明する。


「いや、俺じゃない。フェリックスだ。勝手に出てきて名乗ったんだ。」


 ピエトロは頭を抱える。


「フェリックスだったのか。なんでそんなことをしたのか聞けるか?」

「え"ぇ……?分かったよ。聞いてみる。……うん。……なるほど。…………分かった。」

「なんて言ってるんだ?」

「楽しそうだったから出ていく機会を伺っていたら俺の精神が揺らいだから出た。奴らの恐怖する顔を見たかったから名乗ってみた。だってよ。」


 この理由には呆れるしかなかった。


「〜〜〜っ!お前らは楽しむことしか考えてないのか!?」

「仕方ないだろ。『享楽』なんだから。あ、ちょっと待て。…………。……いや、お前が強引に代わったからだろ。あ、てめ――!」

「なんだって?」

「お前が戻ろうとしなければあいつらを殲滅して名前がバレることはなかった、だってよ。いや、強引に出てきたから取り戻しただけなのによ。逆ギレして奥に引っ込みやがった。」

「何をやってるんだお前らは。」


 ここでビョルンがおもむろに手を挙げた。


「どうした、ビョルン。」

「我々の名前は市井の噂になっているのか?」

「いや、市民は相変わらず悪魔の存在も知らない。摘発に参加した警備隊の1人が構成員を殺したことを告解した時にそんな話が出てきたらしい。一応箝口令が敷かれているそうだ。ただ、そいつは記憶が曖昧だったようだからいいが、直接戦っていた者はそうではないだろう。そうなると、ギルド上層部がこのことを知らないわけがない。当然警備隊にも共有したはずだ。もしかしたら領主のところまで話が行ったかもな。」

「そういうことか。よく分かった。それで、今日我々を呼んだのはそんなつまらない話のためではないんだろ?」

「そうだな。今後の方針を伝えるためだ。」


 ようやく本題に入るということで全員の表情が変わる。


「我々『選定の円卓』は明気薬の実験を終了する。あれは失敗作だったという結論だ。あれでは仲間を増やせなかったからな。もう少しという段階で死んでしまっては意味が無い。明日からは新たな薬品の研究と製造に移る。よって、ビョルンはレックスと共同で研究に当たるように。ケルトは引き続き素材調達。アルベルトは好きにしろ。」

「え?俺だけ適当すぎない?」

「仕方ないだろ。戦うことしか能の無いお前には仕事が無いんだよ。」

「それじゃあまた辺境に行こうかなぁ。」

「それはだめだ。お前はあの街で暴れたばかりだからな。しばらくは行くな。それに、今はあの街にシュメールが行っている。お前まで行ったら面倒すぎる。適当にそこら辺の酒場にでも行って勧誘でもしてろ。」

「げぇー。一番つまらないヤツじゃん。酔っぱらいなんて弱すぎんだよなぁ。」

「アルベルトは放っておいて、他は大丈夫だな?質問がなければこれで解散とする。」


 ぶつぶつと文句を言い続けるアルベルトを他所に残る2人は返事をして席を立つ。扉へと向かうピエトロの後ろを歩き始めるのを見てアルベルトも渋々ついて行き会議室を後にした。

 その扉には神々と悪魔が戦う様を描いたレリーフが貼られている。ただし、内側のレリーフに描かれているのは悪魔が神々を降す姿であった。

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