表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
第一章 新人傭兵
100/123

聴取②

 カナメの新たな二つ名が報告されたことにより場の空気が和んだ。当の本人は少し落ち込んでいるようではあるが。これを見てディアスが哀れんだような目で慰める。


「まぁ、なんだ。こんなものはすぐに変わるさ。俺なんか最初は『火打ち石』だぞ。よく両拳を叩き合わせていたからな。」

「へぇ~。素敵じゃないですか。僕なんか『嘘つきドブさらい』ですよ。」

「あれ、お前だったのかよ。可哀想だなと思っていたけど、本人を知ると悪意しか感じられないな。」


 ディアスの目に更に哀れみが増す。


「とにかく、そんなに気を落とすことじゃないさ。どうせすぐ変わる。そうだ!たしかお前、あのフェリックスとかいう悪魔の魔法を見たことがあるとか言っていたな!どういうことなんだ?」


 強引に話題を変えようとして戦闘中にカナメが言った言葉について質問してきた。これに答えようとしたところ、それよりも早くモーガンが反応した。


「なに?悪魔の魔法を見たことがあるだと?悪魔に会ったことが無いのにか?」

「はい。それがどうかしましたか?たしかに珍しい魔法ですけど、使い手が他にいないというわけでもないと思いますが。」

「悪魔の魔法ということは光る弾を飛ばしきたという話だったな。あれはほとんどの悪魔が使用するもので悪魔しか使えないと言われているものだ。俺も悪魔以外で使っている者を見たことが無い。お前は一体どこで見たんだ?」


 エイミィが明らかに動揺し始めた。自分の使う魔法が悪魔にしか使えない魔法と言われたのだ。それを理由に悪魔と見做される恐れもある。不安にもなるというものだ。

 とにかく、今は悪魔しか使えないという誤解を解かねばならない。こちらはどういう魔法なのか見当がついているのだから。


「どこでという程のものでもないですよ。似たようなものをエイミィが使えるんです。」

「なんだと?」

「エイミィにやってもらってもいいですか?」

「もし本当にできるならやってみてくれ。」

「分かりました。じゃあエイミィ、頼む。」

「は、はい!わわかりました!」


 この流れで話を振られたせいで緊張してしまっている。失敗しなければいいが。

 そんな心配を他所に、エイミィは魔力の球を手の上に浮かべる。この時点でギルド側の3人が目を見張る。魔力が浮くという状況が普通ではないので仕方がない。

 この光球に魔力を注ぎ込み眩い光を放つ。3人が息を飲むのが伝わってくる。眩しさに目を細めながら見ていると、今度は徐々に光量が減り、球の中に光が閉じ込められるような状態になる。


「こ、これは……。」

「マジかよ。あの時に見た魔法とそっくりだ。」

「私はこんな魔法初めて見ました。」


 驚き方は三者三様だが、エイミィの手の中にある球を食い入るように見る姿は同じだ。中でも最も驚いていたのはモーガンだ。


「エイミィくん。これはどうやって作ったんだい?」

「えっと……。魔力を浮かせて、そこに魔力を流し込んでギュッとしてます。」

「どうやって魔力を浮かせるんだい?」

「え?それは……フワッとさせる感じです。浮いてほしいなぁと思うと浮きます。」


 モーガンの顔に落胆の色が出る。


「彼女は感覚派なんです。魔法もほぼ独学で、最近まで魔力を浮かせることが特殊なことだって知らなかったんです。この魔法だって魔物が使ってる魔法を参考にアレンジしたらしいですよ。ただ、フェリックスのように飛ばせないので投げて使ってます。」

「きみたちはこれがどうやって作られているか分かるかい?」

「僕とクインティナの考えでは魔力を硬化させる魔法の一種ではないかと考えています。この光球、触れるんです。こうなる前の状態だと触った瞬間に弾けるような感覚があります。表面の魔力を固めて内側に魔力を押し込んでるようです。」

「なるほど。エイミィくん。触ってもいいかね?」

「はい……。どうぞ。」


 エイミィは顔を歪めながら頷く。まだこの状態を維持し続けるのは辛いようだ。

 そのような事情を知らないモーガンは恐る恐る光球に手を伸ばす。指先で軽くつついて状態を確認する。硬いものを叩くような音が聞こえる。


「たしかに硬いな。まさかこの目であの魔法を確認することができるとは。」

「あの……すみません。そろそろ消していいですか?これ以上はキツイです。」

「おぉ、済まないね。消してもらって構わない。」


 それを聞いてエイミィは魔法を解除する。手の上にあった光球が光の粒となりエイミィへ戻っていく。


「ほう。この魔法は魔力が自分に戻っていくのか。」

「これも魔力硬化の魔法と同じですよね。ちなみにあの魔法を使うと魔力消費が激しいようです。魔力の塊なので物を生成する魔法より消費するみたいです。」

「よく調べているな。参照できる文献なんか無かっただろうに。」

「そこはまぁ、うちのリーダーは魔法研究が大好きですから。」

「何言ってんのよ。あなたもノリノリで検証していたじゃない。」

「いや、見たことも聞いたこともない魔法だから色々試したくなってしまいまして……。とまぁ、こんな2人なのでしばらくは毎日検証していたんですよ。」

「おかげで私も自分のできることが分かって自信がつきました。自分だけの魔法もできて嬉しかったんですが、まさかこれが悪魔の魔法だったなんて。」


 自分の手に目を落として元気の無い声を出す。見るからに落ち込んでいる。

 そんなエイミィにモーガンは諭すように話した。


「そう悪い話でもないぞ。きみがこの魔法を使えるということは、あいつらの魔法を研究することができることに繋がる。今までは記憶をもとに作られた資料が僅かに禁書庫に保管されている程度だったが、その状況が変わる。悪魔対策が取りやすくなる。悪魔の存在を公にできない以上は限定的な効果ではあるがな。」

「悪魔の魔法を使うからって捕まったりしないですか?」

「それは大丈夫だ。あの魔法が悪魔特有だということを知っているのはごく僅かだ。他は見たことがあってもそこまで知らないからカナメくんのようにたまたまとしか思わないだろう。それに、きみはどう見ても悪魔憑きではないからな。」

「悪魔憑きってなんですか?」

「刺穿のように悪魔が憑いてる奴のことだ。負の感情が強いやつに多い。その点、きみは負の感情が少なさそうだ。」


 これにはクインティナとカナメも賛同する。


「たしかに、エイミィちゃんの明るさに助けられてるところはあるわね。」

「そうだな。でも食欲に負けるエイミィはよく見るから気をつけないといけないかもな。」

「食欲って負の感情なんですか?」

「モーガンさん。こんな感じなのでたぶん心配無いです。今後も憑かれないと思います。」

「カナメさん!どういうことですか!?」

「うん。その様子なら間違って悪魔憑きとして捕まる心配も無いだろう。して、イアン。他に確認することはあるか?」


 イアンは手元の資料を確認する。羽根ペンでチェックをしている。一項目だけバツ印をつけたように見えるが、イアンは何事もなかったかのように答える。


「これで全てです。きみたちから何か聞きたいことはあるか?」


 最後の確認ということか。それなら1つだけ聞いておきたいことがある。


「モーガンさん。カミュさんが行方不明になったとのことですが、その原因は分かりますか?」


 一瞬、空気がピリついた。イアンの目つきが厳しいものになっている。


「いいだろう。」

「よろしいのですか?」

「ハヤテの息子で、カミュの弟子だ。知っておく必要があるだろ。」

「そう仰るのでしたら……。」

「銀の騎士団行方不明の原因は、状況的に悪魔によるものと考えていいだろう。そして生存している可能性は低い。」


 カナメは驚いた。まさかこんなにもハッキリと言われるとは思いもしなかった。だが、その理由については詳しく聞かねばならない。


「そう考える理由を伺ってもいいですか?」


 モーガンは頷くと静かに話し始めた。


「今から2年近く前になるか。あの頃の銀の騎士団は実際に何人かの悪魔を倒して、魔の森にいた悪魔の存在を突き止めた。だが、なぜかは分からないがその存在を手紙に書くのは危険だという。そこで街に帰ってきて報告してもらう予定になっていた。ところが、いつまで経ってもこの街に戻ってこない。その代わりにこの街の近くの街道に激しい戦闘が行われた形跡があり、そこに彼らの装備品の一部が落ちていたという報告が届いた。彼らに勝てる奴なんかこの街にはいないし国内にも数えるほどしかいない。そいつらもこの近くに来ていなかった。となると、可能性があるとすれば悪魔だけだ。」

「やはり、悪魔の仕業なんですね。」

「おそらくな。あくまでも状況から考えてという話だ。だが、彼らが戦闘後に姿を消す理由が無い。傷ついたのなら帰ってくればいいのだから。そうではないということは、殺害されたか連れ去られたか。いずれにしても無事ではない。」


 理由は分かった。たしかにその可能性が高いことも分かる。だが、そうなるとやることが明確になる。


「分かりました。それでは次に『選定の円卓』とはなんですか?フェリックスが自分のことを『享楽のフェリックス』と名乗っていたことを考えると他にも似たような存在がいる組織に思えますが。」

「それについては我々も初めて聞いたから分からん。調査中だ。悪魔の組織なんて笑えん話だがな。」

「そうなんですね。分かりました。ありがとうございます。僕からは以上ですが、2人はどうですか?」

「私の質問は今カナメくんがしたから大丈夫。」

「私は特に無いです。」


 2人からの質問が無いことを確認したイアンは机の端に置いていた箱を手元に寄せた。


「では、聴取はこれで終わりだが、飛燕の燈火の3名にギルドから通達がある。クインティナ、カナメ、エイミィ、それぞれ1等級の昇級とする。」


 これには3人ともが驚いた。全員が今の等級になって大した期間が経過していない。クインティナが3等級になったのは1ヶ月程前のことだし、エイミィに至っては傭兵になってまだ数ヶ月だ。


「驚くのも無理は無いが、これは今回の論功のようなものだ。本来ならカナメくんの等級をもう1つ2つ上げたかったのだが、さすがに経験が浅すぎるということで通らなかった。ということで、カナメくんには追加でギルド提携店の割引券を進呈する。」

「そこは現金ではないんですね。」

「現金だと何かとうるさい者がいるから許してくれ。代わりに上限金額無しで1年間有効にしてある。期間内なら何度でも使えるぞ。有効に活用してくれ。」


 イアンが手元の箱を開けて真新しいタグを取り出す。既に刻印済みだ。今まで使っていたタグと交換した。


「これで今日の用件は全て終了だ。長い時間拘束してしまって悪かったな。明日からはもういつも通り仕事をして構わないぞ。」

「分かりました。この後掲示板へ行って仕事を見てみようと思います。ありがとうございました。」


 支部長室を辞して廊下へと出る。事務室を通り過ぎて廊下まで行くと3人とも大きくため息をついた。そして図ったように新しいタグを同時に取り出し、笑顔で顔を見合わせた。

祝100話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ