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辺境魔法使いの傭兵奇譚  作者: 麗安導楼(れあんどろ)
プロローグ
10/14

魔法の訓練③

 翌日、カナメは父とエルシャールと共に剣の訓練を行った。1人増えるとできることが増える。特に、父とエルシャールの模擬戦は見応えがあった。普段は見ることのできない父の剣は想像以上に速く鋭かった。現役を引退しているにも関わらず、現役のエルシャールに引けを取らなかった。エルシャールが言うには、現役の頃はもっと強かったという。その剣の強さで二つ名や異名が付く前に『100人斬り』という不本意な異名を付けられてしまったらしい。

 剣の訓練が終わって休憩をしているとカミュがやってきた。汗をかいている父とエルシャールを見て、翌日からギンガを連れて訓練に参加しようかと悩んでいた。フレインは参加しないのかと思って訊いてみると、彼は剣を使わないので訓練が違うらしい。他にも、バルドの件で諸々の仕事をこなしているらしい。正式に依頼を受けている訳でもなく金銭が発生しないのによくやると呆れていた。

 しばらくして再び魔法の訓練を始めた。最初は魔力を硬化させる練習からだ。しかし今日も感覚が掴めない。魔力を感じることはできているのだが、硬くするというのがよく分からない。明日はこの魔法が得意なギンガが来るかもしれない。何かコツがないか訊いてみることにしよう。

 そして、今日の本題である魔力で物を作り出す訓練が始まる。


「それじゃ、昨日の続きから始めるよ。とりあえず、魔力を見えるようにしながら昨日理解した石のことを思い出してみよう。」


 言われたように両手に魔力の光を纏わせながら石を思い出す。


「思い出してみたかい?そしたら魔力がその石に変わることをイメージしてみよう。手の上で石を作り上げていくんだ。小さなものから大きくするように。」


 小さなもの、小さなものからか。

 昨日理解した石の中にあったものを思い出して、それを手の上でくっつけていくことをイメージしてみる。すると、手の上に何か小さな砂のようなものが現れ始めた。成果が表れたことに対して喜びと安堵感を覚える。だが手の上に出た砂のようなものは一向に纏まらない。しばらく粘るが石にはできなかった。


「はぁ〜⋯。難しいですね。」


 膝に手をついて呼吸を整える。思っていた以上に疲れてしまったようだ。


「うん。だいたい最初はこんなものだよ。とりあえずひとつまみ分でも砂状の物ができて一安心だ。これができずに挫折する人もいるからね。」


 ここまでやって作ることができないこともあるのか。それは辛すぎる。心が折れるのも分かる。


「作ることができないのは相性が悪いだけということもあるんだけど、大抵は理解にかかるまでの時間と相性は比例するから、よっぽど魔力の質がその物を作るのに向いてないってことなんだろうな。」


「カミュさんは作れないものとかあるんですか?」

「たくさんあるよ。というか石以外は作れない。理解ができないんだ。例えば水。全く魔力が通らないから調べることができない。あと土。なんでか分からないけど魔力が通りにくい。本を読んで調べようとしたけど、意味が分からなかった。だから作ることができない。石以外の魔法を使えるようにしたく て他にも色々試してみたけどダメだったね。まぁおかげで教えることができるくらい魔法に詳しくなったけどね。」


 それで詳しいのか。魔法が専門の人ではないのに詳しいから不思議ではあったんだ。


「ちなみに、魔法で作り出すことができるのは自然にあるものってことでしたけど、雷とかもできるんですか?」


 雷の魔法なんてできたら凄くカッコいい!


「できないね。理解できると思う?理解するまでに何回雷に撃たれないといけないか考えたら、火の魔法以上に困難を極める。まさに狂気の沙汰だ。」

「なんだ~。雷とかできたら強そうなのに。」

「あんなのが使えるやつがいたら戦争の常識が変わるね。ちなみに、ついでだから言っておくと、雨とか風も魔法で作れないよ。雨は理解しようとした人の話によると、水としか理解できなかったらしい。だから水の魔法の延長線上になるんだろうけど、規模が大きすぎて無理だ。風はいろんな人が試してるけど、誰も理解できていない。物ではないんだろうと言われてる。」


 なるほど。自然界にあるものでも再現できないものがあるのか。残念だ。


「よし!じゃあ今日も魔力切れになるまで石を作る練習だ!安心して倒れていいぞ!」


 その後、カナメは文字通り吐くまで石を作る練習を行った。しかしこの日は砂状の物を作り出すのがやっとだった。


 翌日、剣の訓練にカミュとギンガが参加した。

 カミュはエルシャールより弱かった。だが、父もエルシャールも「魔法を絡められたら手を付けられない」と口を揃えて言っていた。

 ギンガはその体の大きさに似合わず機敏に動いていた。だがやはり普段の得物が斧なので剣術は苦手なようだった。

 魔法の訓練に移った際にギンガに魔力を硬くするコツを訊いてみた。だが「硬くなれと思っていたら硬くなった」ということを言われ、全く参考にならなかった。

 ここから数日は同じ状況が続いた。変化があったとすれば砂状の物の量が増えたことだ。手にこんもりと盛られた砂っぽい何かを作ることはできるようになった。だが、それらをくっつけてみてもすぐに崩れてしまう。

 それと、魔力切れになるまでの時間が長くなった。魔力量の増加もあるのだろうが、魔法に慣れてきたことにより効率が良くなったようだ。


 魔法を学び始めて5日目。魔法の訓練を開始。魔力を硬くすることは相変わらずできない。この様子を見てカミュも判断を下す。


「う〜ん⋯。カナメくんは魔力を纏う魔法は向いてないみたいだね。ま、物を作り出せるからそんなもんか。明日からは物を作り出す魔法の訓練だけにしよう。」


 そう言って石を作り出す練習に移る。ここ数日でなんとなくイメージが鮮明になってきた。もう少しでできそうな気がする。

 いつものように魔力を見えるようにする。この動きにも慣れてきた。今では手に意識を集中するだけで魔力が見えるようになった。

 掌の上に石を作るようイメージする。相変わらず砂状のものが出来上がる。この砂を魔力を使って繋ぎ合わせてみることにした。すると、徐々に掌の上で砂状のものが1つの塊へ変化していった。


「カミュさん、見て!石だ!石になった!」


 遂に石が完成した。まだまだ小さな小石だが、誰が何と言おうと石だ。意識を集中させなくても形が維持されている。感動した。


「遂にできたね。これでもう石を作るだけなら大丈夫だ。後はそれをどうするかだね。飛ばしてもいいし、細長くして杖や槍にしてもいい。作り出して持っているうちは時間が経っても消えないから。まぁ魔法使いが自分の魔法で武器を作るなんて意味が無いけどね。」

「どういうことですか?」

「ほとんどの魔法使いは武器が使えないんだよ。理由は様々だけど武術の才能が無かったり魔法の訓練に時間を割きすぎたりしてるせいだね。だから剣と魔法の両方が使える人は珍しいんだ。きみもかなり珍しい部類に入るよ。」


 自分が珍しい部類というのはちょっと嬉しい。特別感がある。


「じゃあ僕が街に行ったら一気に有名になりそうですね!」


 魔法剣士カナメの英雄譚として華々しいスタートがきれそうだ!楽しそうだ。街に行く予定も無いけど。


「あー⋯⋯それなんだけど、もし街に出るなら剣と魔法の両方が使えることは隠しておいた方がいい。」


 魔法剣士としての姿を隠す?なぜ?


「なんでですか?」

「実は、魔法使いですら珍しいのに、剣も使える魔法剣士は相当珍しいんだ。両方使えるとなると一部の人間から嫌がらせを受けやすい。まぁ嫉妬だな。それに、自分より実力が上のパーティーからスカウトされやすいんだが、実力が伴わないから簡単に命を落とす。そんな奴を何人か見てきた。だから、もし私と同じ傭兵になるなら、魔法使いか剣士として活動し始めて、実力が着いて等級が上がってから両方使えることを明かすべきだ。」


 なるほど。それは納得だ。剣で挫折した者、魔法で挫折した者、どちらからしても両方使える人は嫉妬の対象だ。しかもそれが若造なら嫌味でも言いたくなるかもしれない。無用な争いを避けるなら隠しておいた方が平穏な日々を過ごせる。パーティーの話にしてもそうだ。メンバーがこちらを過信していたり、実力が低いことを考慮せずに活動すれば最悪の事態に発展しかねない。しかもそのパーティーメンバーがこちらに嫉妬していたら、わざと死地に送り込まれることも考えられる。

 ここまで考えて、魔法剣士カナメの英雄譚は儚く消えた。


「それは仕方なさそうですね。でも、そうなるとどうすればいいでしょうか?」


 カナメは少し残念な気分になった。そして両方使えるのに片方を隠さないといけないと言われても、どうすればいいのか。


「まぁあくまで街で傭兵になるならの話だ。村で生活してるうちは気にしなくていい。」


 そう言うとカミュは再び石を作り出すよう促してきた。今の話を聞いて少し暗い気分になっていたが、促されるまま訓練を再開する。

 石を作り出すことを繰り返していくと、同じ魔力消費でより大きな石を作れるようになっていく。楽しくなり調子に乗って石を作り続けていると、気がついた時には地面に這いつくばっていた。

大きな括りではギンガも魔法使いです。でも、世間一般の認識では物を作り出す魔法を使う人が魔法使いという認識です。派手だからです。だからギンガのような『体に魔力を纏う魔法』を使う人は魔法使いと言われません。

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