美しい夏
海の香りがした。大きな道路を隔てた防風林の向こうはもう自由が広がっているのだった。
「懐かしいなあ。部活の合宿ぶりだ」
「めっちゃ走るらしいね」
「そうそう。もう絶対やりたくない」
日差しは厳しいが、少し暖かいくらいだった。なんだか痛快そうな車が時々横を通った。色々な風が吹いていた。
「でも楽しかったなあ」
「まあ昔のことはね」
「うん。......いや、多分違うよ。僕は嫌だったことも思い出せるけど、そんなこともあった頃が好きなんだろうな」
彼らの年頃には、そういう会話が増えつつあった。
「どうだろうね。ほんとに好きなら、戻りたいって思えると思うけど」
「それは君が理論派すぎるんだよ。現実には僕らは戻れないんだから。それに嫌だったことも今考えると素敵だったりするんだ」
「君は寛容だね」
「多分ね。寛容になると視野は遠くなるよ。今のことさえ怖くなる」
「青春だしなあ」
木々の終わりが見えた。その先には白い風車が連なっていたり、とにかく空が開けていた。
「そうだろうね」
「まあ、後悔はしたくないな」
気がつけばすぐに夏は終わる。
「さ、だからはやく!」
「久々に走るか!」
過ぎてゆく。