第002話〜結局〜
「ようこそグランド・グラウンドにお越しくださいましたっ!治界でのお役目お疲れ様でございますっ!ボ……私っ!案内役のコロナと申しますっ!以後お見知り置きくださいませっ!早速ではございますが当地ではどうお呼びすればよろしいでしょうかっ!」
GGS初ダイブ。
青白い人魂みたいな状態の俺を小部屋で迎えてくれたのは薄青髪に緋袴のコロナちゃんだった。(おそらく)迂闊なボクっ娘設定実に素晴らしい。しかし見た目に反するその肺活量よ。息継ぎを演出した方がNPCぽさが薄れると思うんだが?
……しばらく世間を様子見した俺は、結局GGSをプレイすることにしたのだった。
インフルエンサーが何かイラスト込みで布教してたのとか、何かどこぞの研究所が安全のお墨付きを出したのとかアレコレ鑑みてだ。
“神様ムーブ”がハマる人にはハマるらしい。
それはそうと、名前か……。
う〜ん。
う〜〜ん。
う〜〜〜ん。
と、脳内で唸り唸って(まぁ今の俺には発声機構も脳も無いのだが……ないよな?)ようやく決まった十分後。
「……ん?あ……恐れ入りますっ!それでは女神サトゥールシア様っ!御尊姿も拝し奉りたく存じますっ!」
……少し待ち疲れさせてしまったらしい。
で、次はゴソンシ……ってアバターのことか……おぉ!バリエーション滅茶豊富だな。これはいい意味で悩むわ。
……。
…………。
………………。
……………………。
六十分後(多分それくらい)。
ようやくキャラデザを終えた俺は充電中のアンドロ……ガイノイドみたいになっているコロナちゃんの目の前で手を振ってみる。……いや、充電中に口半開きで舟を漕いだりはしないよな。
「ふぁっ⁉︎あ……え、えっと……なっなんとお美しいっ!私意識を手放し掛けてしまいましたっ!それではサトゥールシア様っ!披露会までまだしばらく間がございますので施設をご案内致しますっ!」
……長時間待たせてすまん。でも時間かかるのしょうがなくね?あ、ウトウトしてたコロナちゃんも可愛かったですマル。まぁ今時のNPCなら普通に設定された反応かも知れんけど。
名前入力とアバター設定を終え、目出度く銀髪美人の姿に変わった俺は、コロナちゃんの後に付いて行く。
ちなみに、コロナちゃんが口にした『披露会』とはインフルエンサー曰く惑星?宇宙?シミュレータの完成記念で開かれる……という設定らしい。
現れた眩い長方形の枠を通って小部屋を出た俺の目に入るのはコロナちゃんの後ろ姿と丹塗りの木組みと星空だ。
足下は未舗装の岩場。面積は一戸建ての敷地くらいでそれほど広くはない。縁の向こうを見るに高所らしいが、なだらかな山頂とかに位置している訳では無さそうだ。
いや、左右遠くに見えているのがここと同様なら、支え無しに浮いている岩塊から何段あるか分からん階段が伸びているようだ。
てか、アレを下りるのか……下が霞んでるんだが?
他には……星空が見えているのに辺りは明るい。光源は見当たらず流石ゲームといった謎空間だ。
振り返ると、出て来た筈の建物が見当たらない。まぁ……今時のゲームなら普通か。
「ねぇコロナちゃ、んっ⁉︎」
コロナちゃんに話し掛けようとした自分の声に驚く。
そういえば、さっき悩みに悩んで声も設定したんだった。
ハスキーボイス素晴らしい。
「はいっ!いかがなさいましたかサトゥールシア様っ!……あ、お声も素敵ですっ!」
「あ、ありがとう……いや、すごくいい眺めだと思って」
「ありがとうございますっ!主様の無茶振……じゃなくってっ!サトゥールシア様方をお出迎えする為に皆で励みましたっ!」
「そ、そうなんだ。それも含めてありがとうねコロナちゃん」
「恐れ入りますっ!お喜びいただけて光栄ですっ!それではこちらへどうぞっ!」
コロナちゃんに先導されて丹塗りの木組みを潜り抜けながら階段を下りて行くと、思いの外早く階段ゾーンを終えたらしい。ショートカットあったみたいで良かった良かった。途中密になった木組みがまた間遠になって、眼下に多角形のカウンターとその内側に紅白の一様な装束の、外側に様々な格好の男女?——一部人型でない——が見えてくる。
いや、俺もキャラデザ中目に付いた龍とかちょっと惹かれたけどね?
コロナちゃんの同僚たちがプレイヤーの相手をしているのだろう。
どうやら幾つかの階段毎にまとめてカウンターを配置しているようだ。
そりゃ数知れないプレイヤーをカウンター一ヶ所では捌き切れないよな。
「サトゥールシア様っ!こちらがフロントでございますっ!御用の際にはどうぞお気軽にお声掛けくださいませっ!」
「こら五六七!尊称を略すとは何事ですか!……女神サトゥールシア様、この度はグランド・グラウンドへようこそおいでくださいました。我々一同歓迎致します。私、案内統括を任されておりますニ三四と申します。以後お見知り置きくださいませ」
コ……五六七ちゃんが受付まで案内してくれたが、いつの間にか隣に来ていた偉い人的には不手際があったらしい。
てか、五六七かよ。こんな可愛いのに。いや、せめて俺だけでもコロナちゃんと呼ぼう。
明緑色髪を腰の高さで括った知的美人なお姉さんがコロナちゃんを叱った後、俺に腰を折ってくる。
「その可愛くない読み方は止めてよニ三四姉っ!あ……ぎゃっ⁉︎あだだだだっ!頭っ!潰れちゃ……っ!」
「主様から賜った名をそのように言うものではありません五六七。……お見苦しいところをお見せして申し訳ございません女神サトゥールシア様」
またお辞儀してくる二三四お姉さん。
笑顔でアイアンクロー滅茶怖ぇ〜。
「あたたたた……ダイイングメッセージを残すまでも無く犯人自ら死体に握り跡を残す姿勢嫌いじゃ……讎だダダダだっ⁉︎ごめ……ごめんなさい二三四姉っ!サ……女神サトゥールシア様を案内してくるからもう勘弁してっ!」
「全く貴方と来たら……確り女神サトゥールシア様をご案内してらっしゃい」
「は〜いっ!それではサ……女神サトゥールシア様こちらへどうぞっ!」
この漫才ってチュートリアルのお約束なのか?インフルエンサーが匂わせ過ぎなかったのは……まぁ、分かるような分からないような。
それより……毎度フルネーム呼ばわりも何だな。対応してくれるか分からんけど、
「あ、今更でごめんね?私のことは“ルシア”と呼んでくれると嬉しいな」
「っ!はい畏まりましたルシア様っ!それでは施設をご案内致しますっ!」
まぁ今時のNPCならこの程度融通利かすのは余裕か。
心無しルンルンした様子のコロナちゃんがカウンターをぐるりと回り込んで向こう側に下って行く。さらに階段があるのは上から見えていたけれども。
何はともあれ。
こうして、俺のネカマプレイが幕を開けたのだった。
……今時ネカマなんて普通だよな?




