第001話〜段ボール〜
「うぉ⁉︎……っと」
お気に入りのネット小説最新話を読み終え、その間他にもアップされた話がないかページを更新する……つもりが、直前に正しくカーソルの先へポップアップしたバナーをクリックしてしまった。
このサイト、今までインフィード以外のアド出たことあったか?と訝しみながらも、ページ上部に自分の登録名を見つけてリンクの開いた先がアカウントを持っているログインしっ放しの電子書籍販売サイトだったことが分かり警戒を緩める。
まぁセキュリティも最新版にしてあるし、慌ててこれ以上下手なところをクリックしなければ大丈夫……だよな?
と、そこで目にしたサムネから目が離せなくなってしまう。タイプ弩ストライクのアンドロジニーな黒髪黒目の多分、いやきっと女の子が街中の道路を踊り歩いていたのだ。
限り無く実写風だが、見るからに大都会の昼日中を撮影の為にここまで無人に出来るものだろうか?カメラワークも滑らかなのにダイナミックで、実写ではまずお目にかかったことがないレベルだ。
まぁAI作品だろうけどな。最近の技術はここまで来たかと上から目線で考えながら、何巡したか分からないほど見入っていたサムネをクリックする。
「安」
このクオリティなら多少値が張っても買う気だったのだが、実際目にしたのはタダ同然の価格で、逸る気持ちを抑えながら購入手続きを済ませた俺は早速フルバージョンをヘビロテし始める。
書籍販売ページに同人動画が陳列されていた不自然さには終ぞ気づかずに。
⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️⬜️
「ふぁ……ぁ……ふゅ」
(眠)
さすがに夜更かしが過ぎたか。
大学の授業後サークルに顔出ししてからバイトを終えアパートに帰宅すると、今朝は無かった段ボール箱が式台にある。
(姉貴が来たのか)
大体こういう場合は姉か、たまに母親が実家からの差し入れを置いて行ってくれたパターンだ。米はついこの間貰ったばかりだしこのサイズだと一体何だろうかと考えながら、まずは夕飯……というか晩飯だよなと冷凍ライスをレンジにセットし、荷物を片付けた後、お菜に肉と野菜を塩胡椒で炒める。
温まった飯と肉野菜炒めを水拭きしたテーブルに運び、両掌を合わせて、
(いただきます)
うん、美味い。
(ごちそうさまでした)
食器とフライパンを洗い棚に戻して、さてと一息吐いて視線を下に向ける。
(中身は何だろうな)
と、段ボール箱のガムテープを剥がしながらようやく気づく。これ差し入れじゃなくて俺宛の配送物だわ。いや、差し入れかつ配送物の可能性も無くは無いが。脇に伝票が貼ってあるのを初め見つけられなかったのだ。宛先が実家の住所になってるから姉か母親が持って来てくれたのは間違いなさそうだが。
段ボール箱を開梱し同梱されていた礼状を雑と検めると、そこには昨夜の同人動画購入への礼と特典として機器を贈る旨等が記載されていた。緩衝材を軽く除けると何かの機器が覗く。いや、それよりも、
「……んん?」
件の同人動画を購入したのは昨日の夜だ。実家にこれが届いたのは一体いつだ?対応が速いにも程がある。しかも、購入には俺自身が契約したクレカを使っていた。実家の住所とは紐付けされていない。
(怪談かよ。一先ず……落ち着こう)
息を吐いて吸いながら段ボール箱を閉じてリビングへ。SNSで情報収集しよう。
「………………」
短時間ではあるが検索した結果、安全性には問題ないようだ。一先ずは、だが。
どうやら中身は、規格が濫立しているために市場ではまだまだ価格が高止まりしているVR全没入用機器の類で、業界での評価は未知数ながらVRMMOSRPGをプレイできるらしい。
不自然——いや、人為的なら不自然なのが寧ろ自然なのか?——な程の着荷の早さや送付先に言及しているコメントは見つからなかった。
それはさておき、
(本商品より明らかに高価な特典って……)
と、俺も思ったし、SNSにも訝しむ者がいないでは無かったが、警戒心の薄いゲーム好きな若者や先の危機より目先の収益(あるいは承認欲求の円満具足)な動画配信者達が率先して実験台に上がっているようで、情報がぽつぽつ目に付いた。
(でもなぁ、明日も一限からだし。もう少し情報出揃ってからだな)
折角の高価な機器だが、もうしばらく寝かせとこ。
デスゲームに巻き込まれても何だし、な。
数日後。
ゲーム配信で有名なインフルエンサー達が挙って絶賛している事、そして公私入り混じった複数の研究機関が—— 自主的にかどこぞの依頼があったかは分からんが——機器を分解調査し安全性にお墨付きを与えた事でVRMMOSRPG『Grand Ground Summit』——通称GGSは急速に国内に浸透、そして海外へと浸出していった。
なお。
デジタル商品は無尽蔵としても、有形資産に対する世界規模の需要を平然と熟した供給力に注目した者はほとんどいなかった。
決して処理落ちしないサーバーはそこそこ話題になった。




