第◯◯◯話〜始まりというか終わりというか〜
小説を聞こう用投稿
そうやって二人……二つの存在が向かい合うのは——その顔触れは多少変われど——この白い空間で割とありふれた場面だ。
そして、幾段か上に設えられた席から三つの存在がその様子を見下ろすというのも。
「——————ようなニェイさんの喪失はあの惑星にとって損失でした。そんなニェイさんが生きてきたのとは異なる恒星系になりますが、私が管理している地に転生する気はありませんか?」
淡く光を放つようにも見える銀糸の長い髪に、柔らかく光る衣を身に纏う側が女神サトゥールシアと名乗り、慣れた様子で淀み無く語り掛ける。
「なるほど?その際には所謂チートな何かを付与されると」
サトゥールシアの問い掛けに否とも諾とも応えずそう呟くのはニェイと呼ばれた側だ。黒髪黒目で中性的……いや、どちらかと言えばやや女性寄りに見える。
僅かな照り返しも無く輪郭以外捉えられない服……服なのだろう上下に、爪先と甲と踵が見える履物……であろう格好で、腕を組みつつ右手の三指を顎に当て、小首を傾げながら斜め上に視線を向けている。
それにしても。
いつの間にやら、どうやって来たやらも分からぬであろう場で、さらには自分が死んだと告げられたというのに全く意に介してもいないのか、淡々とした様子だ。
加えて、神と名乗った眼前の存在に畏怖を感じたりも。
そんなニェイの呟きを聞き拾ったサトゥールシアが、常とは異なり落ち着き払った様子の『招き人』に微かな違和感を抱きつつも返答する。
「ええ、私が与えられる程度のものになりますが……。それでもニェイさんの人生を今度こそ幸せにするのに役立つでしょうし、転生先の惑星、延いてはこちらにとっても益のあることですから。その……お恥ずかしながら、私の担当している地は少々アレなもので、ニェイさんの存在が……」
「アレと言うと、剣とか所謂魔法とか所謂スキルとかが存在して暴力が支配するファンタジーな世界ということかな?力を振るうなら、逆に力を振るわれる覚悟が必要という」
ニェイから被せ気味に問われたサトゥールシアだが、気分を損ねた様子もなく首肯する。
「はい、お話が早くて助かります。ですから……」
と、続けようとした説明が二度遮られる。
「うん、その先は不要かな〜。言質は取れたし覚悟も聞けたし〜?女神サトゥールシア……もしかして『悟』を捩ったとか?ふふ、意図してはいないんだろうけど持ってるね〜悟くん」
「……え?」
「ん?」
「は?」
「!……っ!」
俄かに弛緩した雰囲気のニェイから不意に出されたその名を聞いてもサトゥールシアは呆けることしか出来ていない。
見下ろしていた側も一人を除き同様で、反応することが出来た一人も、焦った様子で空中の何かを突くように左手の指を素早く動かすが、何も起こらないことに気付いてか顔を強張らせる。
サトゥールシアとしては。
初めに伝えた名をニェイが覚えているのは何ら構わなかった。
思考停止してしまったのは、現実世界の自分の名をそうと知れる筈の無いNPCが口にしたから、だ。
「貼り付けてくれた記憶は随分丁寧に編集されてたけどね〜?元の記憶とも齟齬がなかったし〜。轢かれた時の衝撃もさ〜悟くん経験無いだろうによくあそこまで再現出来たね〜?でもさ〜」
と、そこでニェイは組んでいた腕を解くと右手で左手首を握って捻り、左腕を肩から引き抜く。
「「「「!」」」」
サトゥールシア=悟たちは突然のニェイの行動に驚愕し息を呑むが、ニェイが右手に持って四人へ向けてきた左腕の断面からはケーブルやプラグらしき人工物が見え、さらに目を見開く。
「あそこではボクの中身こんなんだからね〜あんなに真っ赤っ赤〜になったりはしないんだな〜」
左腕を元に戻しながらそう話すニェイは、絶句したままの四人を見てサプライズが成功したというように微笑み、
「ふふ。と、いうわけで〜悟くんが〜ボクの記憶を改竄した上に〜拉致って〜おまけに転生までさせようとしてくれたお返しに〜……そうだな〜、ちょっと未来に転生させられま〜す!わ〜ぱちぱちぱち〜」
と、擬音を口にしながら掌を打ち合わせる。
「転……いや、ちょ、待……え?何これイベント?」
「……アイツってNPCだよな?何かいつもと雰囲気違くね?」
「なんでそんなに呑気なのよトールはっ!明らかに異常事態でしょうがっ!」
「いやかなり驚いてるが」
「ログアウトも他の操作も……まさかこう来るなんて」
「あ〜、悟くんを止めなかった他の人たちも連座だよ〜良かったね〜寂しくないね〜」
常より感慨深い事情があったとは言え。
招き人の転生後のモチベーションを左右し得る顔合わせであったとは言え。
いつものルーチンワークと大差無い……そう気楽に熟していたところのこの事態に、虚を突かれていた悟たちがようやく我に返り始めるも時既に遅く。
……いや、そもそも我に返ろうが、四人には観念すること以外に出来ることは何も無かったのだが。
「それじゃあ元気にいってらっしゃ〜い!……願わくば……いや、止めておこう」
ニェイの小さな呟きが届いたか否か。
目を見開いたまま、視覚情報をはじめとした全感覚が切ったように換わるのを悟たちは初めて体験したのであった。
ルビと傍点を覚えました。




