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アトリエと称されたエドアルドの屋根裏部屋には、木の湿った匂いと石なのか粘土なのか、化学薬品のような匂いが充満して鼻に冷たく入ってくる。小さな窓から外光が射すベッドの脇の小さいテーブルには、使い込まれた阿片パイプが、盆の上に無造作に転がっている。ジョエルの暮らしている家とは何一つ共通点のない部屋だった。
「この階下の部屋で暮らしているけど、アトリエにいることが多いよ。」
ジョエルは見たことのない暮らしに戸惑いながらただ微笑んで返した。
「そこに座って。」
壁際に置かれた椅子に座るように、エドアルドはジョエルに促し、すぐさまデッサンを始めた。ジョエルの縁取りを貪るように木炭を紙に走らせる。椅子に座り左に小さく首を傾げるジョエルは、微かに唇を嚙むように笑い顔を作ろうとする。
愛おしい。
エドアルドは女を愛おしいという感情を初めて味わっていた。
彼は立ち上がると、ジョエルの実際の顔の縁取りを指先でなぞってみる。滑らかで暖かい肌は、彼の節くれだった男の手に水面のように感じられる。ジョエルの深緑の瞳が彼女の喜びで形を変えて一層可愛らしくなる。
エドアルドはその情熱を彼女にぶつけながら、心でも抱いた。19歳のジョエルは10以上も年上の疲れた男の情熱を受け入れて、感じ取った。粗いエドアルドの皮膚が滑らかなジョエルの頬をなぞる。肌に触れる男の指先を彼女は初めて感じていた。離れたくない。
資産家としては大富豪とは言えないが、ジョエルの父親は伯爵家の末裔で巴里郊外に屋敷を構えていた。保守的なカトリック教徒であり、ユダヤ系のエドアルドを認める道理はなかった。
幼いころから無口で繊細なジョエルは、自分の意思など見せることはなく、従順で内気な娘として育っていった。そのジョエルが、あろうことかユダヤ人と恋に落ち家を出て行くという災難は、父親を憤怒させ、家族を悲しませた。
そして彼女は堕落した娘として家族から忌み嫌われ排斥される有様となった。それでも19歳の彼女は幸せだった。家も信仰も何もいらない。エドアルドの傍にしか彼女の住処はない。
僅かな着替えだけを手にして家を出たきり、もう家に戻るつもりはなくエドアルドの部屋に住み着いた。寒く薄汚い屋根裏部屋の小さなベッドで、ジョエルはこれまでで一番暖かく眠った。




