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池の畔にイーゼルを立てて、丸まるように絵を描いているエドアルドの姿からは、誰もが視線を釘付けにされた艶やかな容姿は見当たらなかった。近づいて声を掛けてみる。
「彫刻はやらないの?」
「あぁ、ソノ・・もう体力がないんだよ。」
珍しい客に驚く力もないように、エドアルドはゆっくりと目を上げて答える。
「体力もないのに、もう新しい女性がいるのね。」
敵を少し傷つけてやりたい。ソノは柄にもない皮肉を勇気を出して言ってみた。
「?・・・フィリーチェか?・・彼女とはもう長いよ。」
「ジョエルよりも?」
ソノは眉間に皴を寄せて聞き返した。
「あぁ、ずっと前さ。」
もともと理解するつもりもなく、理解など到底できないと思っていたが、ソノにはエドアルドという男の人生が華やかなのか、激しいのか、幸せなのか、苦しみなのか、測り知ることもできなかった。そしてその興味すら失った。
「ここは柳の木が多いのね。日本では柳の木の下に幽霊が出るのよ。」
ソノはエドアルドの領域には金輪際立ち入るまいと決めて、傍らに立ってつぶやくように言った。
「幽霊?何で柳の木の下なの?」
怖がるような顔をして、エドアルドはソノの返事を待った。
「柳には死者の霊魂が宿るっていう民間信仰があるの。柳は水辺を好むでしょ。水はこの世と異界の境の象徴だから、昔から柳は神霊を降臨させる力があると思われているのよ。」
二人は同じ視線で池の畔に鬱蒼と茂る柳を見つめた。微かに吹く風は柳の枝の先だけを揺らしている。
「子供を抱いた女の幽霊が、夜な夜な柳の下に現れるって話もあるわ。風の激しい日に、子供を抱いた女が柳の木の下を通ったら、首に枝が巻きついて死んでしまって、その女の一念が柳の木に留まって泣くんだそうよ。子供を残した無念かしら。女の念は怖いわね。」
ソノはエドアルドを苦しめたくて話し始めたのかもしれない。パメラとジョエルを思い描いていた。その顔はもはや美しい時を思い出させてはくれない。最後のやつれた哀れに苦しむ顔しか思い描けない。
「可哀想な話だな。」




