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数日は危険な状態が続いたが、十日もするとエドアルドの容体は安定して、はっきりと意識も取り戻した。安堵したフィリーチェには、ジョエルの死を伝えるという一番重い仕事が残されていた。
「エドアルド、ジョエルが・・」
エドアルドも体力を取り戻しつつあり、もう伝えなければと意を決して、フィリーチェが話し出した。
「生まれたの?男?女?」
フィリーチェの話を聞こうと、エドアルドは病院のベッドで半身を起こそうとした。子供の誕生のことに決まっている。
「・・・いえ・・・違うの。あの日・・あなたが倒れた日・・」
フィリーチェはエドアルドの背中を支えながら、腰に枕がうまく当たって体を起こせるようにしてやった。
「あぁ、ジョエルがいたような気がするんだ。錯覚かもしれないけど。」
「・・そうなの、ジョエルはあなたのところに行ったのよ。でもあなたが血を吐いて倒れているのを見て・・・死んでしまったと・・・きっと誤解したんだと思う。」
「死んでないよ。こうして生きているじゃないか。」
エドアルドには話が見えなかった。
「えぇ・・・あなたは意識がなくなっていて・・・彼女自身も弱っていたし・・」
フィリーチェは俯いたまま、エドアルドを真っ直ぐに見ることができない。
「なんだよ、どうしたんだ。何があったんだよ。」
いつもと違うフィリーチェの様子が、エドアルドにはもどかしい。
「・・・多分、あなたが死んでしまったと誤解して・・・窓から飛び降りてしまったの。」
「えっ?!怪我したの?!子供は大丈夫なのか?!」
「・・・」
フィリーチェは、ただ首を横に振った。言葉では出せなかった。
エドアルドの鳩尾に重い鉛が弾けて体を硬直させた。首筋も硬くなり、温かい血は頭に届かない。ジョエルだけがエドアルドの頭を埋め尽くした。ジョエルが死んだ?直ぐには信じられない。ジョエルがこの世界から、自分から消えた。
これも自分の罪なのか。纏わりついてくる死は自分の力では拭い去ることはできない。用心することも回避することもできない。必ずやってくる。ジョエルを愛していた。俺が殺したのか。俺の罪なのか。逃げ場所はない。逃げても逃げても、死が追いかけてくる。
子供を失ったことを悲しむ自分が、エドアルドには不可解だった。ジョエルの子供を望んでいたのか。妊娠を知って嬉しいと思いはしなかった。だから死んだのか。失ったから悲しいのか。エドアルドの頭の中の乱雑な思考は止むことなく続いた。過去を掘り返して解析し、様々な意味をつけてみた。思考の分析はエドアルドを断罪する。しかし責めることで、救われるようでもあった。




