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程なくエドアルドの体調もさらに悪化し、結核の疑いのためアトリエで一人眠ることになった。ジョエルはフィリーチェとアルバンとともにアトリエの階下で眠るという奇妙な共同生活を送ることになった。一人の男に愛された二人の女がともに眠る。
フィリーチェは二人の世話を手際よくこなし、ジョエルは何処かに感じる安心を認めながら、エドアルドを取られたくない思いと戦わせていた。思考の膨張と同時に、ジョエルの手足は日に日に痩せて細くなり、腹だけが大きく膨れ上がった女郎蜘蛛のような姿になっていった。
二人の関係を疑う猜疑心とフィリーチェを頼ってしまう日常に疲れ果てても、ジョエルはそこから逃れることができなかった。蜘蛛の糸が作り出す思考の糸の巣に手足を取られていても、ジョエルがそれに気付くことはなく、その糸になお一層からめとられていく。
「何か食べたいものはない?スープなら大丈夫かしら?」
毎日、フィリーチェはジョエルの体を気遣い何とか少しでも食べさせようとする。
「・・・えぇ・・」
彼女の親切心を、ジョエルはどう扱ったらよいのかわからない。親切と思う時もあれば、エドアルドとの間に何か企てがあるのかもしれないと思考が囁く時もある。
「もうひと月ほど頑張れば可愛い赤ちゃんに会えるから、頑張って食べなきゃ。」
フィリーチェには何の企てもなかった。同じ女性として母となるジョエルをただ支えてやりたいと思っていた。
「・・・」
ジョエルは思考の蜘蛛の巣に張り付いて黙っていた。フィリーチェはベッドを整えながら、横になっているジョエルに話しかける。
「私とエドアルドとのことを心配しているんでしょ?」
「・・・」
突然のフィリーチェの問いに慌てて、ただジョエルは彼女をみつめた。
「どんな関係かって。」
落ち着いた様子でフィリーチェは続けた。
「・・・エドアルドを愛しているの?」
持てるだけの勇気を使ってジョエルは聞いてみた。
「昔の話よ。私にはアルバンがいるわ。それで十分。」
フィリーチェは心配顔のジョエルを宥めるように微笑む。
「愛し合っていたんでしょ?」




