37
置き去りにされた男の子と台所に行き、ジョエルは、
「水飲む?」
と、エドアルドと婦人の会話に聞き耳を立てながら、男の子にかがんで話しかける。
「うぅん。」
幼い少年は戸惑ったように小さな首を横に振る。
「何歳?」
「四歳。・・・もうすぐ五歳。」
「名前は?」
「Albanアルバン。」
ジョエルはアルバンの眉と目の形に、記憶の痕跡と重なる不思議な感覚を持った。
「知っているってどういうこと?なぜ一緒にイギリスに行かなかったんだ?」
苛立ちと困惑を包含して、エドアルドはぶつけるようにフィリーチェに質問する。
「・・・アルバンはアルフォンソの子じゃないと・・・」
「・・・」
エドアルドには、言葉の出てこない瞬間を埋められるものは何もなかった。
「問い詰められて・・・もう隠し切れなくて・・」
「わかった。」
また罰が下されたとエドアルドは人生の条理を思い知る。何一つ自分の思うようには生きさせてはもらえない。
聞き耳を立てていたジョエルの足の先から全身の血が脳天に上がり、一気に冷めた冷たい血がまた全身に降りて行った。エドアルドにはこの部屋の外に愛する人がいたのだ。
「ここにいさせてくれるの?」
安堵したのか、フィリーチェは不安げな顔を無防備に見せた。
「しばらくは狭いけど上のアトリエに。住むところを探すよ。」
何のあても、金もないのにエドアルドは口約束をする。身重のジョエルには真実を明かさず、パトロンのアルフォンソ・デュポンの婦人であることだけを告げることにした。




