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玄関のドアを叩く音が、気付くといつまでも続いている。階下の住人たちがいないようでジョエルは自ら階段を降りてドアを開けた。
「はい、何か御用でしょうか?」
玄関を開けると、上品な女性が立っている。白いカシミアツイルに、コード刺繍で青い蝶やつる草、薄紫の花が描かれ、立ち襟と前の合わせにはふんだんに羽飾りがつけられたヴィジットを羽織っている。ふっくらとした頬は血色がよく、まとめられた髪にはヴィジットと同じ羽飾りがつけられている。ジョエルはもし家を出なければ、自分が着ていたドレスだっただろうとぼんやりと考える。
「・・あの・・エドアルドはご在宅でしょうか?」
美しい婦人はジョエルに尋ねる。彼女の動きは柔らかいいい香りをジョエルに気付かせる。
「どちら様ですか?」
「デュポンと申します。」
「ちょっとお待ちください。」
ジョエルはアトリエに上がり、エドアルドに来客があることを告げた。名前を聞くとエドアルドは訝し気な顔になり、急いで階段を降りて行った。
玄関に立つ婦人に、慌てた様子で声を掛けるエドアルドをジョエルは怪訝に見ていた。
「フィリーチェ・・どうしたの?聞いたよ、アルフォンソはイギリスに行ったんだろ?どうして一緒に行かなかったの?」
エドアルドは玄関先で矢継ぎ早に質問を浴びせかける。
「・・・アルフォンソは・・もう知っているのよ。」
「・・・入って。」
エドアルドは婦人の言葉を飲み込んで、彼女を家に引き入れた。その後ろからは婦人の服を掴み、4、5歳の小さな男の子が恐る恐るついてくる。
階段を上がり踊り場で子供を待たせて、エドアルドは婦人を奥に連れて行った。




