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ひと月後に面会の許可が出て、ソノは休みの日に巴里から少し離れたCorbeil-Essonnesコルベイユ=エソンヌにある精神病院を訪ねることにした。


セーヌ川の流れる小さな可愛らしい町にパメラの病院はあった。昔は修道院だったという病院の建物は規律と統制が動かしているようだった。


面会をお願いすると、ソノは食堂のような天井の高い広いホールに通され、指定された椅子に腰かけてパメラを待った。入口から白衣を着た男の人に付き添われて薄汚れた白い拘束衣が入ってくる。パメラが静かに近づいてきた。彼女の髪は梳かされず顔に掛かっている。


「これ外してもいいですか?」


ソノは拘束衣のベルトを外す許可を、傍に立っている背の高い男に願い出た。物体を扱うようにベルトを外すと、男はパメラを椅子に座らせた。ソノはパメラの手に手を重ねて話しかける。


「パメラ・・・」


目線を合わせることができないパメラに、ソノは次の言葉を逡巡する。


「私よ、ソノよ。わかる?」


無理矢理にでもパメラの視界に入りたかった。彼女を取り戻したい。


「覚えてる?デューセのドレス?とっても素敵な柄だったわね。・・・一緒に食べたサランボー。すごく美味しかったでしょ・・・パメラ・・」


楽しかった二人の記憶をたどってみたが、パメラの瞳がソノではなく壁でもなく何処も見ていないことが辛くて、ソノはこみ上げてくる涙を抑えられなかった。

美しかったパメラ。あんなに輝いていたパメラ。ソノの頬を涙が伝う。愛を語り、芸術を語り、怖いものなど彼女には一つもなかった。

パメラは何処に行ってしまったのか。辛うじて回避できた死は肉体の死であって、彼女の精神は死んでしまったのかもしれない。愛することを謳歌していたのではないのか。愛することが彼女を滅ぼしたのか。


ソノは許す限りパメラの手を黙って握り続けた。面会時間の終わりが告げられ、男はまた物体のようにパメラを部屋に戻していく。パメラの後ろ姿を見送りながら、突然彼女が振り返って大きな声で自分の名前を「ソロ!」と元気に呼んでくれはしまいかと切に願った。


パメラの力はエドアルドを愛することで使い果たされてしまったのだろうか。一人の男を愛し尽くして彼女は幸せだったのだろうか。ソノの経験からの尺度では、何も答えはでなかった。あまりにも純粋で大きな力をもったパメラの愛を尊くも感じる。


頬の涙が病院を出ると外気で冷たく感じられた。パメラがそれから30年余り、彼女の人生が終わる時まで、精神病院を生きて出ることができないとは、この時ソノも想像できなかった。


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