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「今度、サロンの落選展っていうのがあるらしいぜ。」
Riccardoリッカルドは、ガブリエーレの居心地の悪そうな顔を見て、言葉を繋いだ。リッカルドの上着の仕立ての良さは一瞥してわかる。右の口角にくわえたアフリカ彫刻を施した象牙のパイプから刻み煙草の煙が立っている。
「お前も出してみたらどうだ?」
ガブリエーレも加勢する。自分の性質に辟易しながらも彼はどういうわけかエドアルドを放っておけない。敬意すら抱いているエドアルドの才能が蔑ろにされ、彼の葛藤が巴里の闇の中で小さな炎のように揺らめき崩壊していくのをガブリエーレは何年も目撃してきた。その横で自分の作品が売れ、日々の生活を賄えることに、感じる必要のない妙な責任を感じていた。エドアルドの人を魅了する眼差しだけでなく、心の奥底の悲しみや芸術に注ぐ情熱が見えていていたからかもしれない。
「そうだな。新しい石を買う金もないからな。これまで作ったのを出すか。」
エドアルドは肺いっぱいに吸い込んだ安い煙草の煙を、ゆっくりと吐きながら言う。
「女や酒を買う金があるなら、石でも粘土でも買えるだろ?」
何度こんなことをエドアルドに言っただろうかとガブリエーレは思い返す。そして何も変わらないことをよく知っている。ガブリエーレもリッカルドもエドアルドと同時期にクラロッシに入ったが、リッカルドは芸術の才能より経営の才覚で、クラロッシを運営する側に立っていた。
リッカルドはまた続けて、
「クラロッシの教室で美術サークルをやってるんだ。女ばっかりの。芸術家を育てようっていうんじゃなくて、金持ちの娘たちの手習いみたいなもんさ。」と次の提案をしてみる。
エドアルドは無関心なように見えた。
「彫刻の教師がいなくて探しているんだけど、お前、やってみないか?」
エドアルドはまだ無関心なように見えた。
「金に困ってるんだろ?大した金にはならないが、ないよりはいいだろ。」
ガブリエーレは少しの苛立ちを抑えながら、諭すようにエドアルドに言ってみた。エドアルドの才能は仲間の誰もが認めるところだったが、サロンだけはエドアルドを評価しなかった。
「やるよ、彫刻の先生。」
エドアルドは捨て台詞のように言い放ち、立ち上がって小柄なガブリエーレの肩を軽く叩いた。またグラスの葡萄酒を一度に飲み干すと、目の合った女に近づいて手を取りキスをして踊り始めた。エドアルドの優雅な身のこなしや整った顔立ち、男までも魅了されるような眼差しは、自然と踊る二人をホールの主役にする。
激しいリズムも甘い旋律も、華やかなエドアルドのために流れた。踊る女の視線も、他の男と踊る女の視線もエドアルドに奪われて溶けている。ひとしきり踊るとエドアルドは女の腰に手を当ててカフェを出て行った。