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「やぁ。」
エドアルドはやすりを掛ける手を止めると、ソノにちらりと目を合わせ片手を挙げる。
「エドアルド、彼女はソロっていうの、日本から来たのよ。」
「よろしく、ソロ。仕上げの最中なんだ。」
「すみません、お邪魔してしまって。すぐ帰ります。」
日本人らしい気遣いでソノは謝り、エドアルドの流麗な顔立ちに見惚れた。パメラとの組み合わせはアダムとイブのような完璧な姿かたちだと見入っていた。
「いいよ、別に気にならないから。」
大理石から目を離さずにエドアルドは軽く返事をする。
「座って、飲みなさいよ。」
パメラはアトリエの女主人のようにソノに酒を勧め、自分は煙草に火をつけた。部屋の中は一人の女で埋め尽くされていた。ソノは絵も彫刻もおそらく一人の女性がモデルであることに気づいた。同時にそれがパメラではないことにも気づいた。そしてそれがパメラを冒涜し破壊していく理由なのではないかと察知した。
体よりも大きな白い石の塊に覆い被さるように作業するエドアルドを二人で見つめる。立方体の白い岩石の中から、生首が飛び出したような彫刻に、ソノは一瞬身を竦めた。等身大の俯く生首を覗き見ると、女性の美しい大きな瞳があった。その顔は苦痛とも恍惚とも取れる区別のつけ難い表情をしている。そこからソノは、苦悩する女の表情のほうを選んだ。
エドアルドは岩の中から女を救い出しているのだと言うが、ソノには女を岩に閉じ込め、動けないようにしているとしか見えなかった。エドアルドには女が喜んでいるように見えるのだろう。
「ソロ、どう思う?この作品。」
パメラはぞんざいな物言いでソノの意見を求めた。
「迫力のある作品ね。私には彫刻はよくわからないけど。」
当たり障りのない評価を、ソノは世間話程度の軽さで言ってみる。エドアルドは返事もせず黙って手を止めない。
「そう?なんだか陰気臭いわ。躍動感がないっていうか・・・地味よ。エドアルドは私といればもっといいものが作れるわ。」
容赦ないパメラの評価にもエドアルドは無言である。苛立ったようなパメラの様子がソノには不可解だった。いつもエドアルドのすべてを肯定し愛しているようだったパメラが何故か彼の作品を酷評する。
エドアルドは黙っている。パメラは息の詰まる空間をソノによって緩和させたかったのかもしれない。張り詰めた空気は氷のようだが熱かった。ソノはどうしようもできない居たたまれなさを破るために、外套を取ってくると言って部屋を出て階段を降りた。階下の踊り場に楚々とした可憐な女が立っている。




