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パメラが頻繁に家に来るようになると、ジョエルは玄関の音で部屋の隅に隠れるようになった。パメラと顔を合わせたくない。ドアの閉まる音で鼠のように姿を隠す。自分を憐れむよりもパメラを恐れる気持ちの方が大きい。ただ怖かった。いつか去って行く雨雲のように、静かにしていればまたエドアルドとの時間が戻ってくると信じている。エドアルドが自分から消えることはない。消えるのは雨雲である。
しかし狭い家で鉢合わせになるのは容易に起こり得ることである。アトリエに繋がる薄暗い狭い階段を、パメラはいつものように小気味よい音を立てて上がって行く。大人三人がやっと立てるほどの小さな踊り場にジョエルが立っていた。お互いが小さな息を飲んだが、好戦的なのはパメラのほうだ。
「あなたがジョエルね。いくつ?」
パメラは他の人には出さない冷めた声で先手を打つ。
「19」
反射のようにジョエルは即答するが、一度見たきりパメラをもう見ることはできず俯いた。
「私と同じ年ね。」
「・・・」
黙るジョエルに苛立った小さな溜息を吹きかけて、パメラは一気に言った。
「出てってくれない?エドアルドはあなたを必要としてないわ。」
「・・そんな、私はモデルをしているし、彼には私が必要なの・・」
いきなりのパメラの攻撃に委縮したが、ジョエルは持てる限りの精一杯の返答をしてみた。
「じゃあ、モデルになる時だけ通えばいいじゃない。」
「彼は私を愛しているわ。私も愛している。」
「何を勘違いしているの!可哀想な人ね。」
パメラの激しい言葉と様子に怖くなったジョエルは、俯いて逃げ出し部屋のドアを閉めた。
パメラの鳩尾には赤黒い熱さがたぎっていた。階段を上がってアトリエのドアを開ける。エドアルドはまだ帰っていない。ベッドの脇の阿片パイプには昨日の残りがある。ランプであぶって吸い込む煙は、パメラの頭をすっきりと浄化してくれた。
耐え難い怒りも混乱も蒸発していく。醜い女に変わっていく自分を反対側から見ている。エドアルドは自分のもの。エドアルドを思う時、その腕の中で微笑むジョエルが必ずパメラを嘲笑うようになった。
ジョエルを引き剥がして粉々に破壊したい。エドアルドと二人だけの時はいつやってくるのか。エドアルドの愛だけが欲しい。自分だけの愛が欲しい。黒い血のせいで心臓が痛い。煙を吸い込んでジョエルを消していく。パメラは落ちるまで吸い続けた。




