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「結婚しているの?」
「結婚なんて意味ないわ。一緒にいれば同じよ。愛しているの、心底。こんなに人を愛したことがない。初めてかも。」
ソノには経験したことのない感情をパメラはほころんだ顔で披露する。美しい顔は更に光を帯びて精気を放つ。ソノは光輪を錯覚させるパメラの美しさに見惚れて言葉をなくした。
「クラロッシで学んでた人なのよ。十歳以上年上だけど、同じ芸術をやっているからとても刺激があるの。お互いによ。」
「素敵ね。同じ興味があるのは楽しいでしょう。」
ソノはどういう返答が正しいのかわからず、ありきたりな言葉で幸せそうなパメラを祝福した。
「ソノは愛している人はいないの?」
「いないわ。私は勉強するために巴里に来たし、日本に帰らなければならないのよ。」
「じゃあどうして絵が描けるの?何が絵を描かせるの?」
「そんなこと・・・考えたことない。描きたいから描くのよ。自然とか人とか、美しいものは描きたくなるでしょ。」
クラロッシで様々な勉強をして絵の技術は日々上達していたが、ソノはこの質問に即座に解答できなかった。
「今度、彼を紹介するわ。」
自慢げな様子のパメラが、ソノには可愛くも見えた。それはパメラを女性としても画家としても成長させるものだとソノは想像した。彼女を悩ませ苦しめ、内側から食い潰していく死出虫であるとは考えも及ばなかった。




