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脇腹に腕の重みを感じて目が覚める。微かな寝息が耳元を通り過ぎる。寝返りを打つと疲れたアポロンが眠っている。
パメラはエドアルドの寝顔を見ながら教室で見たギリシャ彫刻を思い出した。遅く起きた朝でもパメラの体にはまだ昨夜の熱の余韻が感じられた。子宮から四肢に広がる甘ったるい暖かさは彼女を女だけの悦で満たした。パメラはその温かさを愛と定義した。
「帰らないとな。」
「ここにいて。」
「仕上げたい作品があるんだ。クラロッシにも行かないといけないし。」
「今度はいつ来る?」
「またすぐ来るよ。」
体から抜けきらない酒が、エドアルドの頭を殴り続ける。不機嫌な男を引き止めたいと女は必死になる。女の負けである。
エドアルドは素早く着替えると上着を片手にパメラにキスをして瞬く間に部屋を出て行った。
エドアルドのいない部屋で、パメラは彼がいなかった時の自分の部屋を思い出せない。彼がいて初めてパメラの部屋は完成する。広くなった空間の中で、パメラはいつまでも子宮の暖かさが消えないように願った。ひたすらに、すぐ来ると言う彼の言葉を信じた。
アトリエに着くと、エドアルドはパメラの生気を使ってジョエルの絵を描き始めた。彼女の瞳の色は何枚描いても描き足りない。日ごと夜ごとパメラの体から吸い取った血気を絵の具にしてジョエルを描く。パメラの色彩を盗んではジョエルの絵につぎ込む。
アトリエは絵の中のジョエルと彫刻のジョエルで埋め尽くされていった。ジョエルはそれをエドアルドの愛として受け取った。エドアルドのいない時間もいない空間もジョエルは信じて過ごした。




